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「本当のことにしか興味がない」実話をベースに物語を作るカワモ俱楽部・田中聡&川面千晶『佐藤と加藤』インタビュー

  • 2026.11.8
(左から)田中聡、川面千晶 width=
(左から)田中聡、川面千晶

11月25日から浅草九劇にて上演される『佐藤と加藤』。俳優の川面千晶によるソロユニット・カワモ倶楽部の最新作であり、本当に起こったことだけを演劇にする“実録演劇”の第2弾となる作品だ。描かれるのは、アルコール依存症である漫画家・加藤に、彼に手を差し伸べようとする佐藤が翻弄される物語。モチーフとなる“佐藤さん”に田中聡が時間をかけて取材を行い、それをもとに川面が戯曲を執筆した。出演は吉増裕士(ナイロン100℃)、伊藤祐輝、ヒロシエリ、そして川面の4名。田中の実体験をベースにした前作『トレマーズとバック・トゥ・ザ・フューチャーの同時上映を観に行った僕のその後の話』に続き、今回はどのような実録演劇が立ち上がるのか。田中と川面がその裏側を明かす。

【写真】田中聡&川面千晶、“実録演劇”の裏側明かす! 撮りおろしショット

◆実話を作品の核にした実録演劇「作り話よりも、個人が実際に体験したことを演劇にしたほうが面白い」

――実録演劇の第2弾ということですが、まずは本作の企画の出発点について教えてください。

田中:これは実際にあったことだけを演劇作品として立ち上げるものなので、モチーフになり得る人との出会いと、その人への取材をベースにしています。

川面:かねてより私は、エッセイが好きなんです。というか、ノンフィクションにしか興味がない。もといた劇団が実体験を作品にするカンパニーだったので、いつからかそちらへと関心がシフトし、固まっていきました。

田中:なので、ゼロから演劇を創作するのではなく、特定の誰かが経験したことをベースに作品を立ち上げていくんですよね。前作では僕の体験談を舞台にしたのですが、一度の公演ですべてのネタを使い果たしてしまった。そこで、誰か面白い人はいないかと探していたところ、“佐藤さん”という方の存在が浮かび上がってきました。かつて彼は、“加藤さん”という漫画家の方と波乱に満ちた日々を過ごしていたそうで、少し話を聞いてみると、どんな作り話にも負けないようなエピソードがいくつも出てきた。今作ではこの佐藤さんと加藤さんの関係に焦点を当てています。

川面:作り話よりも、個人が実際に体験したことを演劇にしたほうが面白い。どんな人の人生も、自分が思っているよりもずっと面白いんですよ。私はさくらももこ先生が大好きなのですが、『ちびまる子ちゃん』ってもともとは、先生の実体験をベースにして描かれてい る。それがやがて、より創作らしいものへと発展していったんです。私たちが作るのは演劇なので、作品の中では演劇的なジャンプは少しはあります。だから完全なノンフィクションというわけではないんですけど、作品の核にあるのは“実話”なんです。

――本作ではアルコール依存症の漫画家・加藤に、佐藤が振り回される様子が描かれていきます。実録演劇というだけあって、描写が細かくて嘘がないいっぽう、高い強度のエンタメ性がつねに担保されていると感じました。このあたりのバランスに関して、どんなことを意識されているのでしょうか。

川面:酔っ払った加藤はよく無茶苦茶なことを口にするのですが、あんなものを頭で考えては書けませんよ(笑)。やっぱり、生きてる人間ってすげえなっていう。田中さんが佐藤さんに時間をかけて取材を行い、その素材をもとに作劇しています。だから私としては、特別にドキュメンタリー性とエンタメ性のバランスを意識しているわけではないんですよね。

田中:僕たちが知る加藤さん像は、あくまでも佐藤さんが語るものなんです。だから佐藤さんのフィルターがかかっているわけで、これがある意味、エンタメ性につながっているのかもしれませんね。取材は複数回に分けて行ったのですが、いつも佐藤さんは最後のほうで、ポロッと面白いことを言うんですよ。話に耳を傾けているうちに、やがて少しずつ人間のダークな部分が見えてくる。ある程度の時間をかけ、脱線などを経なければ出てこない本当の話というのがありますよね。
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川面:そうして素材がそろったら、これをもとに田中さんに第0稿を書いてもらいます。

田中:全体の構成を僕が考えて手渡して、あとはもう川面さんが演劇的に面白いものに昇華させてくれる。その間、また取材をしてネタが上がってきたら、川面さんの書いたものにはめ込んでいく。その繰り返しです。

◆実録演劇は「現実を生きる人間が持つ力」から生まれる

──膨大な素材を前にして、川面さんはどうやってこんなにも強度のある筋の通った戯曲に仕立て上げているんでしょう。

田中:実話として面白いのと、それを演劇で扱って面白くなるのかは、まったく別の話ですよね。情報に対して、川面さんの中ではいろんな選択と決断があるはず。それは僕も気にな っていました。

川面:うーん……どうなんですかね……。音声をポッドキャストみたいに聴きながら書いているだけで、どうやって書いてるんだろう……。

田中:面白い/面白くないのジャッジは感覚的なもので、言葉にするのが難しいことなんだろうなとは思いますけど。

川面:そうですね……。書いている段階で、自分自身が「面白え!」って心から思えていないと、人前に出して面白くなるはずがない。だからとにかく、まずは私自身が面白いと思えるほうに向かって書いていき、面白くないところを修正していく。そうとしか言えないです……。

田中:だからほんと、川面さんって天才型なんですよ。感覚的に、それが実現できちゃう。前作でもそうでした。僕はネタを提供した当事者だったわけですが、素材を渡すと、見事な作劇によって一本の戯曲が立ち上がっている。情報の取捨選択も、編集も、どれも「なるほど」と納得させられるんです。

川面:これは演劇にできないなと思ったところは削っています。演っているほうも観ているほうも気まずくなるようなものは、さすがに舞台には上げられない。でもたしかにここに関しても、やっぱり感覚的に書いていますね。演劇として扱っていいものなのか、そうじゃないのか、かなり感覚的に選別しているかもしれない。

──俳優、劇作家、演出家として、つねに複数の視点で捉えているからなんですかね。

川面:自分が本当に観たいと思える演劇は、自分自身で作るしかない。それがカワモ倶楽部を立ち上げた理由でもあります。だから役者の視点でとか、演出的な観点からとか、そういう考えはあまりない気がしますね。出演してくれる人たちにとっても、観に来てくださる方々にとっても、ちゃんと面白いものを作る。それが第一で、すべてなんです。この『佐藤と加藤』は、いま私の脳内にある状態が一番面白いので、この鮮度を落とすことなく、劇場空間で立ち上げたいですね。演劇はいろんなスタンスの人間同士が集まって作るものなので、お互いに歩み寄りながら。
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──前作『トレマーズとバック・トゥ・ザ・フューチャーの同時上映を観に行った僕のその後の話』は出演者が8名でしたが、今作は4名です。でも、登場人物はかなりの数いますよね。

川面:8人もいれば、それは何でもできる。でも限られた人数でどうにかドラマを立ち上げることに、演劇でやる意味があります。今回はそこに向き合おうと思っているんです。

田中:川面さんのこの考えを聞いて、僕としても絶対にそっちのほうがいいだろうと思いました。実話ベースの物語を、4名の俳優が役をスイッチしながら展開させていく。佐藤さんから聞かせてもらった本当の話が、より演劇的なものになっていくはずです。

川面:ただ、もしも舞台上に5人の人物が並ぶ瞬間があったらどうしようと、稽古開始前のいま、けっこうビクビクしています……。

──実録演劇の第2弾が生まれようとしているいま、川面さんの思う“ノンフィクション”の魅力についてお聞きしたいです。

川面:佐藤真監督の『阿賀に生きる』(1992 年)という大好きなドキュメンタリー映画があるのですが、新潟の阿賀で、カメラは横になっているおばあちゃんの様子を捉えていて。この寝ている彼女と家族の会話を収めているシーンで、たまたまおばあちゃんの顔の横にコンビニのアンパンが置かれていて、そのままカメラを回しているんです。これはすごいなと思いました。フィクションを撮ろうというとき、寝ているおばあちゃんの顔の横にアンパンを置くだなんて、誰も考えつきません。でも現実に、この映画に登場する女性の顔の横には、アンパンが置かれていた。「これだ」と思いました。創作の世界で生きている私が追っているのは、ああいう瞬間なんです。だからいまの私は、本当のことにしか興味がない。ああいった瞬間こそを演劇で立ち上げていきたい。実録演劇とは、ただ演劇づくりがしたくて生まれるものではありません。この現実を生きる人間が持つ力から、生まれていくんです。

田中:こうして僕らの話を聞いてくださっている折田さんを逆に取材して、演劇にしてみたら、きっとすごく面白いものになるはずですよ。だから随時、僕らはユニークな人生体験を語ってくれる人を募集しています。自薦・他薦を問わずね。

川面:すべての人の人生が、面白い演劇になる可能性を持っていますから。

(取材・文:折田侑駿)

カワモ倶楽部『佐藤と加藤』は、11月25日~29日に東京・浅草九劇にて上演。

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