1. トップ
  2. 住まい
  3. 家具職人から学ぶ、部屋づくりの新しい選択肢。「家づくりを家具作りから考えてみる」

家具職人から学ぶ、部屋づくりの新しい選択肢。「家づくりを家具作りから考えてみる」

  • 2026.10.26

建築家や住宅メーカーと造る以外にも、家づくりの選択肢は広がっています。店舗内装から素材メーカーまで、部屋づくりの新しいパートナーとなってくれる家具職人の鰤岡力也さんに、彼だからこそ叶えられる、新しい家づくりを学びます。

illustration: Shinji Abe / text: Ku Ishikawa

阿部慎司 イラスト
BRUTUS

講師:鰤岡力也(家具職人)

ぶりおか・りきや/1976年東京都生まれ。大学を卒業後、福祉の仕事に就いた後、家具や内装の仕事に興味を抱き、古材などを扱う〈ギャラップ〉に入社。2010年に独立し、〈MOBLEY WORKS〉を立ち上げる。


家づくりを家具作りから考えてみる

家具職人とともに家を造るということは、職人と一蓮托生になるということ。家具工房〈MOBLEY WORKS〉の代表である鰤岡力也さんは「動線や間取りのことはよくわからない」と話すが、それは謙遜ではなく、立ち位置の表明でもある。

建築家が箱から空間を考える人だとすれば、鰤岡さんはその中に入る家具から空間を考える人である。ソファ、キッチン、本棚、建具、窓枠、幅木。家の印象を決めるものは、壁の大きな構成だけではなく、手で触れる細部の連続でもある。鰤岡さんの家づくりは、普段やっている家具作りと同じように、まずつたないスケッチから始まるという。

iPadに描かれた線をスタッフが図面やパースに起こし、職人の経験値から厚みや収まりが決まっていく。必要であれば建築家や工務店を呼び、構造や申請はその専門家に任せる。鰤岡さんはその土台の上で、家具と空間の世界観を引き受ける。

実際の現場では、鰤岡さんへの信頼がある施主も多く、細かく確認しながら進めるよりも「よしなにやってください」と委ねられることも多いという。すると窓枠やドアノブのような、普通なら見過ごす部分まで工夫が凝らされる。また家具職人ならではの造作家具も存在感が強く、そこには施主の趣味が投影される。家具職人と家を造ることで、施主の偏愛を技術で実現し、暮らしの骨格にすることができる。

阿部慎司 イラスト
TIPS 01/家具を入れるために、家を造る  鰤岡さんにとって、家はまず家具を置くための場所である。建築家が屋根や壁、間取りから考えるのだとすれば、鰤岡さんの視線はソファやキッチン、本棚や建具から始まる。だから空間も、家具が気持ちよく収まるように整えられていく。鰤岡さんは手で触れるものこそ大事な要素と考え、寸法や厚み、木の表情は徹底して吟味するという。家の外形が先にあって、後から家具を選ぶのではない。どんな家具を作り、どこに固定し、どの面に手をかけるかによって、箱のあり方が決まっていく。家具職人に家づくりを相談する面白さは、空間の主役が壁や床ではなく、暮らしの中で毎日触れるものになるということだ。
阿部慎司 イラスト
TIPS 02/窓枠という細部が、全体に影響を及ぼす  鰤岡さんは空間において窓枠が大切な要素だと考える。先日訪れたアメリカのハンコック・シェーカー・ヴィレッジでも、撮ってきたのは窓枠の写真ばかりだったそう。壁に対して窓がどう収まり、木の断面がどんな表情を持ち、光をどう受け止めているのか。そういう細部だけでも、空間に大きな変化をもたらす。幅木やドア枠、モールディングも同じだ。日本にちょうどいい部材がなければ、ヴィンテージの幅木をサンプリングして雰囲気のいい部材を作る。完成した空間の中で大きく主張するわけではない。家具職人に家を頼む面白さは、こうした“枠”のような細部まで、手仕事の感覚で考えられることにある。
阿部慎司 イラスト
TIPS 03/家主の思いをダイレクトに反映する造作家具  鰤岡さんの案件は造り付けの家具も多い。壁に固定された本棚、棚板の高さを変えられない収納、家の寸法に合わせて作られたソファ。可変性や便利さを求めるなら、置き家具や可動棚の方が扱いやすいが、そこにしか置けない家具には、家主の強い意志が宿ると考える。何をしまうのか。どこで座るのか。どの高さに本を並べるのか。その判断が、家具ごと家に刻まれていく。造作家具の方が費用がかかることもあるが、「でも家づくりは初期投資を大きくした方が個人的にはいいと思う。撮影で使われたりとか、家がお金を生んでくれることもあるんです」と語る。長期的な目線で造り付けという選択肢も考えたい。
元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ