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『どこよりも遠い場所にいる君へ』出演の玉木宏、自身の“声”を受け入れる過程や青春の象徴『ウォーターボーイズ』を回顧

  • 2026.10.10

2025年に小説「カフネ」で第22回本屋大賞を受賞した阿部暁子の同名小説をアニメーション映画化した『どこよりも遠い場所にいる君へ』(公開中)。豊かな自然に囲まれた隠岐諸島をモデルとする離島・采岐島(ときしま)を舞台に、秘密を抱えた少年少女の揺れる想いを繊細に描きだす物語だ。

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「タイトルの意味は本当に納得という感じでした」

ある秘密を抱えて島へやってきた高校生の月ヶ瀬和希(声: 石橋陽彩)と、“神隠しの入り江”で倒れていた1974年から来たという少女、秋鹿七緒(声:永瀬アンナ)との出会いから始まる物語。そんな本作で、和希と一緒に倒れていた七緒を発見し、彼自身の過去の体験も物語の重要な鍵となっている高津の声を演じるのは、玉木宏。隠岐にルーツを持つ玉木は、本作への参加に特別な縁も感じているという。

『どこよりも遠い場所にいる君へ』は、隠岐諸島をモデルにした采岐島(ときしま)が舞台 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
『どこよりも遠い場所にいる君へ』は、隠岐諸島をモデルにした采岐島(ときしま)が舞台 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会

最初に台本を読んだ時は物語の着眼点、本土ではなかなか感じられない素朴な場所だからこその展開に引き込まれたと振り返る。「僕自身、島に行くと神秘的なことを感じることがすごくあって。(劇中の采岐島の伝承とされる)マレビトとかどこかに繋がっている入り口があるのではないかと思うことはあります。本当に手つかずの自然が多い場所なので。それに、愛も感じる作品だと感じました。そういった要素が含まれる作品で世界に勝負できるのは時代劇や日本のアニメだと思っているので、参加できることはすごくうれしかったし、やはりこのストーリー性のすばらしさや魅力を強く感じました」。

本作で舞台のモデルとなった島根県の隠岐は玉木の祖父母が住んでいた場所で、幼いころから毎年行っているという。玉木はこの島の魅力は「いまも昔も変わらない」と話す。「僕は名古屋で生まれ育ったいわゆる本土の人間です。島の一番の特徴はやはり本土にはない魅力があるところだと思っています。島に行くのもフェリーを使って大変だし、お店も本当に数えるくらいしかないです。僕のルーツである西ノ島には信号がひとつしかないのですが、それがある理由は、信号を忘れないため(笑)。ルールとして覚えておくためらしいんです。

采岐島は“神隠しの入り江”など、不思議な伝承がある神秘的な島 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
采岐島は“神隠しの入り江”など、不思議な伝承がある神秘的な島 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会

それくらい素朴な場所なのですが、そういう不便さも含めて、日常から離れて別世界にいるような感覚があるのがすごく好きで。最初は親につれていってもらっていましたが、小学生のころには夏休みには1人で行くようになって。それがまたちょっとした冒険のようで楽しかったのを覚えています。本土にはない旅感というか。大きくなって自分が親になって、自分の子どもを連れて行ったりもして。2人旅も楽しんだりしています。東京のような建物はないし、何年経っても同じ景色もある。僕が写真展をやった時にメインビジュアルにした“通天橋”は、僕が小さいころに撮ってもらった写真となにひとつ変わっていなくて。これはすごいことだと思うし、この先もよほどのことがない限り変わらないのではないかな。もともと少ないお店の数も、だんだんと減っていることに寂しさを覚えたりもするけれど、『足るを知る』ことができるのは、この場所ならでは。僕にとっては人間的な、一番大事な感情を思い出させてくれる場所です」。

隠岐にルーツを持つ玉木。本作が描く風景にノスタルジーを感じる瞬間も 撮影/Jumpei Yamada(ブライトイデア)
隠岐にルーツを持つ玉木。本作が描く風景にノスタルジーを感じる瞬間も 撮影/Jumpei Yamada(ブライトイデア)

タイトルの意味も玉木の心を掴んだという。「回収できるのは本当に最後の最後なのですが、それも本当に納得という感じでした。自分自身が大人になるにつれて少しずつ忘れていった甘酸っぱさというか、青春の感じというか。閉鎖された島を舞台にしている物語ということもあるのか、それがよりハッキリとした輪郭を持って出てくる感じは、舞台や設定ならではだと感じました」と感想を語る。自身のルーツであり、ゆかりのある場所だからこそ、思い出とリンクしたり、空気感が蘇る瞬間も多々あったそう。「アフレコの時はまだ画はそこまで出来上がっている状態ではなかったのですが、それでも『あの場所っぽい』『知っている場所かも』などとリンクすることは多かったです」とうれしそうに話してくれた。

「高津の客観的に物事を見ている感じは、共感できるかもと思いました」

“神隠しの入り江”に現れた七尾の身元引受人となる高津は、一見するとぶっきらぼうに見える人物 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
“神隠しの入り江”に現れた七尾の身元引受人となる高津は、一見するとぶっきらぼうに見える人物 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会

七緒の身元引受人となる高津は、ガラの悪そうな見かけでぶっきらぼうな口調が印象的なキャラクターだ。「彼はなにかを知っている人だとは思うので、割と客観的に2人を俯瞰して見ているという感覚は大事にしました。もともとそれほど多くを語るタイプではないけれど、なにか裏に秘めたものがあるというか。そのうえで、近寄りがたい雰囲気を醸しだしている。だけど、ただ冷たい人間に見えてしまうのだけは避けたかったので、その塩梅を探りながら演じました」と高津をどのように捉えアプローチしたのかを解説。

「特に序盤は、和希目線だとなにを考えているのかわからない。目つきが怖いというのもあるけれど、終盤にかけてグラデーションをつけることで、結果としてやさしい人物といったところに導かれていけばいいなと思っていました。僕自身も必要以上のことはあまり喋らないタイプなので、客観的に物事を見ている感じは、共感できるかもと思いました。これまで散々『なに考えているかわからない』と言われてきたので(笑)」。

和希や七緒にとってメンター的な立ち位置になる高津のように、玉木にとっての高津のような存在とも出会いはあったのだろうか。「高校2年生のころにいまの事務所にスカウトされてこの世界に足を踏み入れたので、大人と触れ合う機会は多いほうだったとは思います。アルバイトもたくさんしていたので、自分より少し年上の方と接する機会も割と多かったなかでも、お好み焼き屋さんでのバイト歴は割と長かったのですが、そこで出会った4つ上の先輩にバイクを譲ってもらったことが、僕がバイクにハマったきっかけでした。古着系のオシャレもしていた先輩だったので、ファッションもかっこいいなと思っていたし、身近な人からの影響は大きかったと思います」。

話題作への出演が続く永瀬アンナが声を務める、秋鹿七緒 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
話題作への出演が続く永瀬アンナが声を務める、秋鹿七緒 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会

吹替えやナレーションなどを務めることは多かった玉木だが、日本のアニメーション映画でキャラクターを担当するのは本作が初めてとなる。「僕自身のままでとオファーをいただいたので、初めてだからと構えるようなことはなかったです。ただ、テクニカル的なことで、距離感やニュアンスの乗せ方という部分は、意識していました。いままでやってきた声のお芝居のなかでは、一番実写に近いと感じました。これまで参加した作品では、自分が最初に声入れをするパターンが多くて、どなたの声も入っていなかったから、キャッチボールできている感じがないまま収録を終えた作品ばかりだったんです。今回は普通のお芝居に近いセリフだったことに加えて、僕の初日にすでに声入れは終わっている石橋さん、永瀬さんが一緒にスタジオに入ってくださって、3人のシーンは同時に声入れができたので、キャッチボールしている感覚を肌で感じることができて、これまでの声のお芝居のなかでは、すごくやりやすい環境下でできたと思っています」と充実感を滲ませる。

ある秘密を抱えて島にやってきた月ヶ瀬和希の声は、石橋陽彩が演じる [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
ある秘密を抱えて島にやってきた月ヶ瀬和希の声は、石橋陽彩が演じる [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会

声での芝居に関しては「声だけですべてを具現化するのは難しいのですが、やればやるほど感覚的にわかっていくことだというのを実感しました」と素直な心境も明かしていた。「ただ!」と続ける。「2人は本当に声のプロフェッショナル。収録の第一声からバシッとスイッチが入って、『ずっと聴いていられる…』と世界観に引き込まれてしまうくらい、声だけでこの世界を作ることができるんです。すごいと思ったし、一瞬で劣等感を感じさせられました。『なんか負けた』という感覚が押し寄せてくるくらいに圧倒されました」と大絶賛した。

特徴のある声を持つ玉木だが、もともとはコンプレックスの塊だったという。「この仕事をやるようになって、ボイストレーニングも始めたのですが、そこで出会った先生の1人が、そのコンプレックスを取り除いてくれたおかげでいまがあると感謝しています。技術的なトレーニングはもちろんですが、マインドを変えてくれたというか。『もともと持った声を大事にしないでどうするの?』と、気持ちの後押しをしてくれる方でした。『声はあなたが持って生まれた武器。その声を最大限に生かす努力をします』という言葉に救われました。そう思えるようになってからは、似たような声の人がそれほどいなくてよかった、という考え方になりました。音楽をやっていた時期のボイストレーニングの先生でしたが、いい出会いをさせていただいたと感謝しています」。

「『ウォーターボーイズ』が、本当に学生時代の青春が詰まった時間でした」

輝かしい青春劇としても魅力的な本作 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会
輝かしい青春劇としても魅力的な本作 [c]阿部暁子/集英社・『どこよりも遠い場所にいる君へ』製作委員会

青春をテーマにした作品に数多く出演してきた玉木。年齢を重ねたいまだからこそ感じる青春映画の魅力は「同じベクトルに向かっている熱量のようなもの」と語る。「学生時代はみんなでなにかをするたび、例えば、旅行ひとつをとってもそのひとつに熱量を注ぐものです。学生だからこそできるその熱量の向け方は、青春そのものという気がしています」としみじみ。

【写真を見る】どんな表情も魅力的…大人の色香漂う玉木宏を撮りおろし! 撮影/Jumpei Yamada(ブライトイデア)
【写真を見る】どんな表情も魅力的…大人の色香漂う玉木宏を撮りおろし! 撮影/Jumpei Yamada(ブライトイデア)

いまの玉木は青春との距離感をどのように捉えているのだろうか。「無邪気に全力投球できているかといったら、できていない気もします。学生時代にしかできないものなのかな…みたいに考えることはありますね」と懐かしそうな表情を見せる。「僕の経験でいうと『ウォーターボーイズ』という作品が、仕事だけど本当に学生時代の青春が詰まった時間でした。いまだに本当に仲がいい。撮影が2000年だったので、恐ろしいことにもう四半世紀を超えているのですが、地方合宿をして、練習だけで1か月半という時間を費やしてから本番に臨むような作品に参加できる機会は、いまはなかなか少なくなっていると思います。そういった背景も含めて、僕にとっての青春が詰まった特別な作品になっています」と青春時代から続く関係性にも触れた。「青春というと特に学生時代を思い浮かべるので、同い年や近い世代での話になると思うのですが、『ウォーターボーイズ』はキャストの年齢層が一番上と下で10歳離れていました。それが同じような学年のつもりで青春をすごせるなんて…。本当に特別な関係だと思います」。

取材・文/タナカシノブ

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