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“顔面崩壊”ポスターに騒然!水上恒司が『本当にあった話(の話)』で見せる怪演ぶりから目が離せない

  • 2026.10.10

鴻池留衣の中編小説(初出タイトル「フェミニストのままじゃいられない」から改題)を映画化した『本当にあった話(の話)』(公開中)。ゾワゾワ感を掻き立てるホラー映画のようなタイトルもさることながら、ポスターやチラシに踊る「化けの皮、剥がれちゃってますよ?」「狂気と正気は紙一重。」という意味深なコピーも穏やかではない。が、それ以上に真っ赤に染まった完全に“顔面崩壊”状態の主演、水上恒司の笑顔が不気味で怖い!

【写真を見る】水上恒司が“顔面崩壊”と話題になった『本当にあった話(の話)』のポスタービジュアル

その薄ら笑いを浮かべて歪みきった表情に目が釘づけになった人たちが騒然。どんな映画なのか内容もわからないままザワザワし始めているというただならぬ事態だが、あの顔は本作の禍々しさを象徴するほんの名刺代わりのようなもの。

劇中の水上はもっともっと気持ち悪くなっていくし、にもかかわらず観客はその一挙手一投足から目を背けることができず、狂気と戦慄に彩られた人間のダークサイドに引きずり込まれてしまうから恐ろしい。これまでに見たことのない俳優、水上恒司に魅せられ、翻弄させられる本作。彼のなにが怖いのか?なぜ目が離せなくなるのか?その真相をひも解いていきたい。

自分が正しいと盲信する夛田の暴走は止まらない 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
自分が正しいと盲信する夛田の暴走は止まらない 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

アクションから感動のドラマ、ミステリーまで幅広いジャンルで活躍

そもそも、ここ数年の水上の快進撃は凄まじい。作品ごとに異なる的確なアプローチで、役柄を立体的に作り上げる姿勢にも定評がある。品川祐監督の『OUT』(23)では主人公に影響を与える暴走族の副総長に限界ギリギリの肉体改造でなりきり、本格的なアクションを炸裂!かと思えば、大ヒットした『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(23)ではミリ単位までこだわった丸刈り頭とまっすぐな芝居で特攻隊員の純粋な思いを体現。『火喰鳥を、喰う』(25)では宮舘涼太演じる超常現象の専門家の失礼な言動にむかつきながらも、必死に耐える田舎の青年に抑えた受けの芝居でなりきって見せた。

水上恒司が演じる主人公の夛田(ただ) 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
水上恒司が演じる主人公の夛田(ただ) 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

まだまだある。東方神起のユンホとのW主演作『TOKYO BURST-犯罪都市-』(26)でも水上は体重を増量して破天荒な刑事を魅力的に作り上げ、新宿歌舞伎町を完全封鎖して敢行した現金800万円をバラ撒く衝撃シーンをよりインパクトのあるものに。極上の韓国サスペンスを安田顕とのW主演でリメイクした2025年放送の「連続ドラマW 怪物」でも猟奇的殺人事件に挑む刑事に扮し、人間の内なる狂気を繊細な芝居で炙り出していたのも記憶に新しい。

芝居に深くのめり込み、虚構と現実の境界を見失う夛田

『本当にあった話(の話)』は、役柄と真摯に向き合うそんな水上にピッタリの作品だったのかもしれない。物語は、世間が震撼した「配偶者入れ替え連続殺人事件」から数十年後の“いま”から始まる。事件をベースにした禁断の舞台が制作されることになり、IT企業に勤める演技未経験者の夛田(ただ)がオーディションで主演に抜擢される。水上が演じたのは、殺害される夫のマサキ役をゲットするこの夛田だ。

IT企業に勤める演技未経験者の夛田がオーディションで主演に抜擢される 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
IT企業に勤める演技未経験者の夛田がオーディションで主演に抜擢される 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

しかも、夫を殺す妻の貴子役で起用されるなかなか芽が出ない俳優の米良役に黒木華が扮し、脚本家の垣内役に小池栄子、舞台演出家の加藤役に佐々木蔵之介という演技巧者を配した鉄壁の布陣が実現。先述のオーディションのシーンから始まり、連日の舞台稽古を夛田の過去や会社での日常を織り交ぜながら描いていくが、役柄に自分の経験を重ね、芝居に深くのめり込んでいった夛田は虚構と現実の境界を見失い、しだいに暴走。すべてを牛耳るようになっていく…。

夛田は役柄に自分の経験を重ね、芝居に深くのめり込んでいく 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
夛田は役柄に自分の経験を重ね、芝居に深くのめり込んでいく 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

自分の正義だけを信じ、それを押し通そうとする姿

ここで間違えてはいけないのは、夛田は決してサイコパスだったり、他人を傷つけようとするシリアルキラーではないということだ。彼はあくまでも一生懸命で、ひたむきなだけ。初めてのお芝居で、しかも主役だから、のめり込み方がハンパではなかっただけなのかもしれないが、そこがおもしろい。

役作りに没頭していく夛田 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
役作りに没頭していく夛田 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

作品とマサキという役のことを真剣に考えるあまり、夛田は自分の考えに固執し、周りにもそれを通そうとする。近年流行りのグルテンフリーや日本の政治に対して独自の見解を口にするぐらいならまだいい。だが、台本に対する自分の解釈を脚本家や共演者にぶつけ、自身の意見を正当化しようとする暴挙に出てしまうのだから困ってしまう。

米良との個人レッスンで強引に距離を詰めていく 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
米良との個人レッスンで強引に距離を詰めていく 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

繰り返しになるが、夛田はただ一生懸命なだけなのだ。けれど、自分の正義だけを信じ、それを押し通そうとする彼の姿は傍から見るととんでもなく滑稽で、恐ろしい。それはまるで、己の正義を振りかざしてSNS上で誰彼構わず裁く人たちにも似ている。

脚本家の垣内にも遠慮なく意見をぶつける 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
脚本家の垣内にも遠慮なく意見をぶつける 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

役者が“役者に憧れる役者以前の男”を演じるユニークなアプローチ

そんな現実と虚構の境界を見失う夛田を、水上は大袈裟な芝居でキャラクターっぽく演じるのではなく、“こんな人いるよね”というリアリティを感じさせる言動で生っぽく体現。思ったらすぐ行動に出る。自分の解釈で相手を説き伏せようとする。その暴挙を暴挙とすら思っていない。本人は“これこそが正しい”という姿勢でいるから目はどんどん異様な光を帯び、言葉にも力が入り、暴走がさらに加速していく。自然にこぼれる笑顔が邪悪なものに見えてくる。だが、夛田にとってそれは正しい行動だから揺るがない。だから、始末が悪いし、目が離せなくなる。

役のことを真剣に考えるあまり、自分の考えに固執し、周りにもそれを通そうとする 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会
役のことを真剣に考えるあまり、自分の考えに固執し、周りにもそれを通そうとする 鴻池留衣/文藝春秋/2026「本当にあった話(の話)」製作委員会

そんな盲信する夛田のその時々の状態を、水上自身は言うまでもなく、ちゃんと把握し、冷静にコントロールし、自分の肉体で表現しているのだ。役者が“役者に憧れる役者以前の男”を演じきるというその二重構造こそが本作ならではのユニークなアプローチ。このハードルの高いミッションを、高度な芝居でまんまと成立させた水上は別の意味で恐ろしい。俳優という仕事の奥深さを痛感させられる。

文/イソガイマサト

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