1. トップ
  2. エンタメ
  3. 『mentor』を観た千原ジュニアとの対談が実現!吉田恵輔監督が明かす創作と笑いの接点「物語を書く時に大喜利をしている感覚がある」

『mentor』を観た千原ジュニアとの対談が実現!吉田恵輔監督が明かす創作と笑いの接点「物語を書く時に大喜利をしている感覚がある」

  • 2026.10.9

『ヒメアノ~ル』(16)、『空白』(21)、『ミッシング』(24)といった監督作で人間が抱く形容しがたい感情を映像で抉り出し、観客の心をわしづかみにしてきた吉田恵輔。監督デビューから20年を迎えた今年、6月に公開された『四月の余白』に続く衝撃のヒューマンドラマ『mentor』が10月16日(金)に公開を迎える。

【写真を見る】『mentor』の感想や物語を作ることについて語り合った千原ジュニアと吉田恵輔監督

主演の磯村勇斗とAぇ! groupの末澤誠也が演じるのは、15年前の花火遊びでアパートを全焼させた過去を持つ龍之介と拓海。綾野剛扮する火事で妻子を失った男・埜本が彼らと再会することで再び3人の運命が狂っていく。被害者の埜本はなぜ加害者であるはずの青年の“メンター”となり、優しく接し続けるのか!?龍之介と拓海の友情と贖罪の行方は!?吉田監督流のブラックユーモアが炸裂し、観客の感情をかき乱していく。

千原ジュニアは綾野剛のカラオケシーンを「日本を代表する名シーン」と絶賛! 撮影/河内彩 スタイリング(千原ジュニア)/鬼塚美代子(Ange) 衣装協力(千原ジュニア)/BOB
千原ジュニアは綾野剛のカラオケシーンを「日本を代表する名シーン」と絶賛! 撮影/河内彩 スタイリング(千原ジュニア)/鬼塚美代子(Ange) 衣装協力(千原ジュニア)/BOB

そんな吉田監督作品の長年のファンであり、本作をいち早く鑑賞した千原ジュニアと監督とのスペシャル対談が実現!初対面ながら、『mentor』の感想や役者たちの凄み、お互いのメンターについて、さらには物語を作ることなど様々なテーマで盛り上がった対談の模様をお届けする。

「吉田監督の映画は、美しい人が美しくない」(千原ジュニア)

――本編をご覧になってどのような感情が残りましたか?

千原ジュニア(以下、ジュニア)「いや、ちょっと…めちゃくちゃおもしろいっすね」

吉田恵輔監督(以下、吉田監督)「ありがとうございます。いま、しばらく“タメ”があったから一瞬ドキッとしました(笑)」

ジュニア「すばらしかったです。脚本はもちろんですけど、俳優さんがすごいですよね。拓海役の末澤誠也さんは、最近バラエティ番組で初めて一緒になったんですけど、本人はすっごいかわいらしくて男前なのに、それとは一致しないぐらいに役が仕上がってる。監督は美しいものを汚(けが)したいところがあるんやろなと」

吉田監督「俺が描いているのはわりと下町とか郊外の話で、俺自身もそういう地域で育ったので、自分が実際に接してきた人たちの空気に合わせたくて。そうすると、俳優に演じてもらう場合、スター性みたいなものをどうやって削っていくかということになるんですよね。姿勢ひとつでも猫背にして、セリフを喋っていない時も口を開けていてもらうとか、細かいことを癖づけてもらったりします」

謝罪し続けることで前に進もうとする拓海 [c]2026「mentor」製作委員会
謝罪し続けることで前に進もうとする拓海 [c]2026「mentor」製作委員会

ジュニア「他の作品も観させていただいてますけど、吉田監督の映画は美しい人が美しくない。例えば『ミッシング』の石原さとみさんも、始まって5分、10分ぐらいは『可愛すぎるで!』と思うんですけど、そこからどんどん“汚れ”ていって」

吉田監督「あの時は石原さん本人が自分で自分を壊したいという意識を持っていて、メイクや髪型も含めて完全に“壊れた”状態で現場に来ましたから」

ジュニア「そうみたいですね。劇中で失禁するシーンなんかすべてがひっくり返されたみたいなとこありますもんね」

吉田監督「世間であそこまで美しい印象が固まっている人は、そのぐらい覚悟して臨まないとなかなかイメージを壊せない。中途半端に壊そうとするのが一番ディスられてしまうから、やるなら徹底的にやらなきゃなとは思いますね」

龍之介はアーチェリーのオリンピック候補選手 [c]2026「mentor」製作委員会
龍之介はアーチェリーのオリンピック候補選手 [c]2026「mentor」製作委員会

ジュニア「今回、龍之介はなぜアーチェリーの選手やったんですか?」

吉田監督「メンタルの揺らぎが見えやすい職業がいいなと思ったんです。例えば俺はボクシングをずっとやっているけど、ボクサーの調子の悪さって素人目にはわかりづらいんです。でもアーチェリーだと的に点数が書いてあって、スコアの数字が低ければ誰が見ても調子が悪いとわかる。自然の中を回るフィールドアーチェリーも、以前に遊びでやったことがあったから、いつか映画にしたいなと思っていて」

ジュニア「文字通り『張り詰める』意味もあるし、的に『刺さる』というのが不穏な空気を作り続ける。弓持って外出るって違和感でしかない。その不穏加減がむちゃくちゃいいですよね。磯村勇斗さんの体もすごいですもんね?」

細かいことは言わず、「『mentor』はめちゃめちゃおもろいから、観たほうがいい」とオススメしたいという千原ジュニア 撮影/河内彩 スタイリング(千原ジュニア)/鬼塚美代子(Ange) 衣装協力(千原ジュニア)/BOB
細かいことは言わず、「『mentor』はめちゃめちゃおもろいから、観たほうがいい」とオススメしたいという千原ジュニア 撮影/河内彩 スタイリング(千原ジュニア)/鬼塚美代子(Ange) 衣装協力(千原ジュニア)/BOB

吉田監督「約1年かけて選手並みの体を作って、半年間みっちり練習してくれて。そこに埜本役の綾野剛さんがさらにデカい状態で現れたという(笑)」

ジュニア「埜本がガス屋っていうところもまた不穏要素を煽りますよね。顔半分を火傷した男がガスボンベを荷台に積んで走っている。これは非常に計算されてるなと」

「自分の映画だとどうしてもひねくれたことをしたくなっちゃう」(吉田監督)

同年代でボクシングが好きという共通点の多い千原ジュニアと吉田恵輔監督 撮影/河内彩 スタイリング(千原ジュニア)/鬼塚美代子(Ange) 衣装協力(千原ジュニア)/BOB
同年代でボクシングが好きという共通点の多い千原ジュニアと吉田恵輔監督 撮影/河内彩 スタイリング(千原ジュニア)/鬼塚美代子(Ange) 衣装協力(千原ジュニア)/BOB

ジュニア「(序盤で)綾野さんが末澤さんをハグするまでがめちゃくちゃ早いじゃないですか。このペースで大丈夫か!?みたいな。でも結果、あそこですでに不穏なものを打ち込まれてしまう」

吉田監督「普通だったら、謝る立場の人間が恨みを持った人間にラストシーンでハグされて許されるのが物語の定石なんです。でも最初でいきなりそれが成立しちゃったら、さあここからどうなるんだ?みたいな」

ジュニア「俺が聞いたのは、映画って結局何かといったら、“行って帰ってくる”ことやと。まさにあのシーンだけで気持ちが“行って帰ってくる”になっているという」

吉田監督「自分の映画だとどうしてもひねくれたことをしたくなっちゃって、いろいろやった結果、これをどうまとめりゃいいんだ!?ってなるんだけど」

ジュニア「でも上手くまとまってますね」

吉田監督「役者さんの説得力が上手く見せてくれているなと思います」

亡き妻への想いを胸に生きる埜本 [c]2026「mentor」製作委員会
亡き妻への想いを胸に生きる埜本 [c]2026「mentor」製作委員会

ジュニア「綾野さんもすばらしいですね」

吉田監督「怪物でしたね」

ジュニア「カラオケのシーンなんて、ほんま、日本を代表する名シーンですよ。とにかくあの声、これは歌うんやろなっていうのはみんなわかってますし、音楽が流れるからパスは出せますけど、受けるほうは結構ギリギリですもんね。下手したら大スベりする可能性ありますし」

吉田監督「綾野さんには、生理的にちょっとだけ受けつけられないタイプの歌い方をしてみようと言ってやってもらいました」

ジュニア「龍之介と拓海と埜本は3人とも感情移入できないというか、全員がちょっとずつ嫌なんです。その不穏な感じが最後までずっと引っ張っていってくれる要因なんやろうなと思います」

「メンターの胡散くささを描いてみたかった」(吉田監督)

自らの創作方法を語る吉田恵輔監督 撮影/河内彩
自らの創作方法を語る吉田恵輔監督 撮影/河内彩

――メンターというモチーフに目をつけたのは何がきっかけだったのでしょうか。

吉田監督「メンターはいわゆる指導者、助言者みたいな意味で、脚本を書く前に大量の自己啓発本に触れていたら、その中で知り合いの書いたものが紹介されていたんです。読むともっともらしいことが書いてあるんだけど、そいつ本人は結構ダメな奴なんですよ。これは怪しくないか?と思って、そこからメンターの胡散くささみたいなことのほうに興味が沸いてきて。ジュニアさんは、自分にとってのメンターみたいな方はいらっしゃいます?」

ジュニア「ああ、なるほど。自分にとっては…妻ですね」

吉田監督「そうなんですね。俺は師匠の塚本晋也って映画監督がいて、もともとファンだったところから、本当に作りたいものしか作らない、何があってもやりたいことしかやらんという姿勢に影響を受けて、その背中を見てきたからいまがあるというか」

ジュニア「いいですね、そういう人がいるって。この前塚本監督の『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』を観ようと映画館に行ったら、座席選択のタッチパネルが満席で帰らされました。人生で初めてでしたよ」

吉田監督「『ネルソンさん~』おもしろいですよ。あの監督が俺のメンターです。俺がひとつ前に作った『四月の余白』も、前科者のおじさんが子どもたちのメンター的な存在になろうとする話だったんですけど」

拓海のメンターとなる埜本 [c]2026「mentor」製作委員会
拓海のメンターとなる埜本 [c]2026「mentor」製作委員会

ジュニア「『四月の余白』も、俺と唯一映画館に一緒に行くチャンス大城と『いつ行く?』と言ってたんですよ。でもその頃ちょうど俺の予定がびっちびちで、6月に余白がなかったんです」

吉田監督「あらあら、残念です(笑)」

ジュニア「いずれ観させていただきたいと思うんですけど。『mentor』のセリフでなんか変なのがあるなと思ったら、『四月の余白』に出てくる施設の名前だったんですね。ああいう遊びは監督のファンにとってはうれしいでしょうね」

――吉田監督の『空白』(21)にはチャンス大城さんも出演されていますね。

吉田監督「チャンスさんが過去にやってきたバイトの話をしているのを、たまたまテレビで見たんですよ。その中で、何をやらされているのかまったくわからないまま、警備員の制服を着てただひたすら立っていたという怪しい解体現場のエピソードがおかしくて。とにかく何もわかっていない人、みたいなキャラクターが天才的におもしろいなと。それを俺の映画でもやってもらいたくて、マスコミに何を聞かれても『わからない』と答える漁師の役をお願いしました」

黒沢あすから『mentor』には出番は少ないが手練れの俳優が多数出演している [c]2026「mentor」製作委員会
黒沢あすから『mentor』には出番は少ないが手練れの俳優が多数出演している [c]2026「mentor」製作委員会

ジュニア「あれもね、よかったですよね。ほんまに一瞬、ワンシーンだけ出てくる人がいつもすばらしいですよね。『mentor』の最後のほうでトイレから出てきた龍之介に声かける人もむちゃくちゃ上手いですよね」

吉田監督「セリフ上では何もおもしろいことはないんだけど、なんか目に留まるというか、言い方とかがね。オーディションで勝ち抜くタイプの有名な人ではありますね。あのぐらいの役でそういうふうに覚えてもらえるのは、かなり手練れじゃないと」

「めちゃめちゃおもろいから、観たほうがいいって薦めます」(千原ジュニア)

花火遊びから火事を起こしてしまったことで人生が変わった龍之介と拓海 [c]2026「mentor」製作委員会
花火遊びから火事を起こしてしまったことで人生が変わった龍之介と拓海 [c]2026「mentor」製作委員会

吉田監督「ジュニアさんは自分で物語を書こうとは思いませんか?俺は物語を書く時に大喜利をしている感覚があるんですよ。カップルが出会って別れるまでを描く時に『なにが原因で別れた?』を何枚目のフリップに書くかみたいな感じで(笑)。それを変化させていくと、ちょっととがりすぎて誰もついてこれなくなっちゃうなっていう話が生まれたり。芸人さんはそのアイデア力やボケる技術とか『あ、なんか上手いな』って思わせることができる幅が広そうだなって。それを組み合わせたらいろんな物語ができそうだなーっていつも思うんですよ」

ジュニア「そうですねえ…(北野)武さんがよく俺に言いはったんですけど、『3枚写真あったら映画撮れるよ』と。1枚目と2枚目と3枚目、それをどうやってつなげるか。それが映画だよと言われて、なるほどと。2枚はあるんですけど3枚目が一向に出てこないですねえ」

吉田監督「ジュニアさんが、自分が監督するならエドウィン・バレロの物語を作りたいと言っているのを聞いたことがあって、うわ、いいとこついてくるなと思ってました。ベネズエラ出身の元世界王者で、若くして無惨な死に方をしたボクサーなんですけど」

ジュニア「話は結構進んでたんですよ。ほんで最終的に、これ以上踏み込んだらヤバいですよと、ベネズエラ側から言われるという」

龍之介にも親身になって耳を傾ける埜本 [c]2026「mentor」製作委員会
龍之介にも親身になって耳を傾ける埜本 [c]2026「mentor」製作委員会

吉田監督「ジュニアさんが映画を作るとしたら、芸人だからといって笑えるアットホームなコメディとかではなく、もうちょっとダークで根が深そうなものをやりそうなイメージがあります。昔、『YOSHIMOTO DIRECTOR'S 100 〜100人が映画撮りました〜』って吉本興業の芸人さん100人が1人30分ぐらいの短編映画を監督する企画がありましたよね。当時俺はだいたひかるさんとタカアンドトシのトシさんの作品で照明を担当してたんですよ。撮影も『mentor』と同じカメラマン(志田貴之)で」

ジュニア「そうなんですか!?俺はノンフィクションを撮ろうとしてたんですよ。近い後輩で、小学生の時に親父と同級生のお母さんが不倫して再婚したやつがいるんですよ。そこから親父とは一切会わずに生き別れ状態で。その後輩には保険会社で働いていた彼女がいて。その子が担当していたのがアパートから落ちた網戸が車に当たったっていうレアなケースで、手続きをしていくうちに、実は彼氏(後輩)の親父と名前が同じだとわかって。ほな、30年ぶりに親父に会いに行くのを撮ろうぜと。ほんならドキュメンタリーはちょっと…って言われて、『はぁ!?(フィクションより)こっちのほうが絶対おもろいねん!』と思ってやめたんです」

吉田監督「フィクションのシナリオだったらそんな馬鹿な、と思うぐらいの話ですね(笑)。でもそれが現実だったらめっちゃおもしろいなと思う。いまでも映画作ってみたいっていう興味はありますか?」

ジュニア「いつかはどうなんですかね。そんなことを言われたりもしますけど、なかなか、いやいやそんなっていう。非常にこう、見上げている感じがありますね」

――ジュニアさんが親しい人に『mentor』を紹介するとしたら、何と言ってお薦めしたいですか?

【写真を見る】『mentor』の感想や物語を作ることについて語り合った千原ジュニアと吉田恵輔監督 撮影/河内彩 スタイリング(千原ジュニア)/鬼塚美代子(Ange) 衣装協力(千原ジュニア)/BOB
【写真を見る】『mentor』の感想や物語を作ることについて語り合った千原ジュニアと吉田恵輔監督 撮影/河内彩 スタイリング(千原ジュニア)/鬼塚美代子(Ange) 衣装協力(千原ジュニア)/BOB

ジュニア「めちゃめちゃおもろいから、観たほうがいいよって」

吉田監督「ハハハハ!」

ジュニア「俺、もし誰かに『これはこういう映画やから観て』みたいに薦められたら、はぁ!?ってなるから。観る前に言うてもうてどうすんねんと」

吉田監督「ジュニアさんは後輩に映画を奢らないんですよね。奢ると相手が正直な感想を言えなくなっちゃうから。その通りだなと思いますね。映画なんて観る人の自由だと思うんですよ。一生懸命作るけど、あとは皆さんの好きに楽しんでくださいという気持ちです」

ジュニア「その『一生懸命』のきめ細やかさがすばらしかったです」

取材・文/奈々村久生

※吉田恵輔の「吉」は「つちよし」が正式表記

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ