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家族を失い、満州からひとり引き揚げてきた青年。彼に生きる気力を取り戻させたのは、闇市で食べた一杯の「残飯メシ」だった【書評】

  • 2026.9.20

【漫画】本編を読む

『のこりものにはメシがある』(辻󠄀恵/秋田書店)は、終戦直後の名古屋を舞台に、満州から引き揚げてきた青年が、闇市の食と人々との出会いを通して、生きる力を取り戻していくグルメ漫画である。食べることがままならなかった時代、一杯の飯が人の心をどれほど満たすのか。「食べることは、生きること」という当たり前の事実が胸に迫ってくる物語だ。

舞台は1946年。満州からひとりで日本へ引き揚げ、名古屋へ戻ってきた青年・乾空は、家族を失い、生きる気力もなく、これからどう生きればいいのかさえわからないまま街をさまよっていた。そこで偶然再会したのが、小学校時代の同級生・二河白道だ。闇市の飯処で働いていた白道は、そんな空を放っておけず、進駐軍から出た残飯を使って料理を作り、食べさせる。

今ならば捨てられてしまうような食材でも、食べられるもの自体が貴重だった時代には立派なごちそうになる。あたたかい飯を口にした空の中によみがえってくるのは、空腹が満たされる喜びだけではない。懐かしい記憶や、人と一緒に食べることのぬくもり、そして失いかけていた「生きたい」という感情だ。戦争によって日常を奪われた人々が、食を通して少しずつ人間らしさを取り戻していく姿がとても印象的である。

物資が不足し、闇市にはさまざまな境遇の人々が集まってくる。誰もが何かを失い、それでも今日を生きるために食べ、働いている。そんな混沌とした時代の空気が背景にあることで、料理は単に「生きるためのもの」にとどまらず、人と人を結びつけ、明日へと希望や未来を繋ぐものとして扱われる。

戦争が終わったとしても、失ったものが戻ってくるわけではない。それでも腹は減り、人は何かを食べて、また次の日を迎える。何もかもが無くなったように思える世界にも、あたたかい飯と誰かとのつながりは残っている。本作は戦後の闇市を舞台に「食」を見つめながら、生きることと人間の強さを描いた、ひと味もふた味も違うグルメドラマである。

文=ソルティ・タムラ

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