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封を切らない箱を積んだまま、俺は次に出ていく話をしていません

  • 2026.9.11
ハウコレ

彼女を待たせていた数分に何をしていたのか、俺は一度も話していませんでした。押し入れの戸を引いたのは、説明の代わりにできることがそれしかなかったからです。

座布団を1枚だけ出したところで、部屋の呼び鈴が鳴りました。

俺の暮らしは、押し入れの中に収まっていた

彼女と付き合って1年になります。仕事の都合で数年ごとに住む場所が変わり、この部屋は2年目でした。

畳に出しているのは寝具と鍋が1つだけです。食器も座卓も座布団も、押し入れの下の段にしまってあります。彼女から着いたと連絡が来ると、俺は「あと少しだけ待って」と返し、そこから2人分を取り出しました。待ってもらう数分は、そのための時間です。なぜ普段は出さないのかを、俺は一度も話していませんでした。

半分だけ開けた戸の向こうで、俺は言葉を選び間違えた

その日の呼び鈴は、連絡より先でした。取り出せていたのは座布団が1枚。歯ブラシ立ても1本のままです。

「先に出しておきたかっただけなんだ」

出しておきたかった理由まで続けて言えばよかったのに、俺はそこで口をとじました。彼女の目が畳の上を行き来しているのは分かりました。

「本当に1人で住んでるの?」

責められたとは思いませんでした。2年住んだ部屋について、俺が彼女に一度も説明していなかっただけです。

封を切らないと決めたのは、最初に移った年

上の段の戸を引くには、彼女に少し下がってもらう必要がありました。

「開けたら、次に出るときに困るから」

最初の移動のとき、引っ越しの際に運べる荷物の量には限りがあって、俺は並べていたものの半分を置いていきました。何を残すかを選んだのは自分です。あの選び方をもう一度するくらいなら、はじめから出さないほうがいい。そう決めてからは、箱の側面の住所を消しては書き足すだけになりました。移った回数と、書き足した回数は同じです。

「次に出るときって、いつ?」

「まだ決まってない」

これは事実です。ただ、決まれば出ていくつもりでいることを、俺は彼女に伝えていませんでした。

そして...

「この箱、開けてみてもいい?」と彼女に聞かれて、俺は列の上から1つ下ろし、テープの端を起こしました。あの椀は移る前に買って、どの部屋でも棚に置かずにきたものです。今は上から順に封を切っています。次に出ていく話のほうは、まだしていません。

(30代男性・設備保守)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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