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映画『スワロウテイル 4Kリマスター』岩井俊二監督に聞く アーティストの起用、多言語による名台詞誕生の裏側【ロングインタビュー】

  • 2026.9.5

長編デビュー作『Love Letter』から最新作『キリエのうた』まで、岩井俊二監督の織りなす世界は、いつの時代も観る者に得も言われぬ感情を届け、映画を五感で感じる喜びと楽しみを教えてくれる。1996年に劇場公開された『スワロウテイル』はその傑出した才能がいかんなく発揮された1本であり、岩井監督の映画作家としての存在感を確固たるものにした。

公開から30年たった2026年、『スワロウテイル』は『スワロウテイル 4Kリマスター』として、岩井監督完全監修のもと劇場にお目見えする。架空の都市・円都(イェンタウン)で生きるフェイホン(三上博史)、グリコ(Chara)、アゲハ(伊藤歩)たちに銀幕でまた会えるとは。初めて『スワロウテイル』に触れる観客にとっては、その力強いエネルギーを受け取る鮮烈な映画体験に、当時観た観客にとっては、ノスタルジックな思いを呼び覚ます1作となること請け合いだ。

独自の世界観を構築し、国内外にファンを持つ岩井監督。『スワロウテイル 4Kリマスター』公開に寄せて、当時の撮影の思い出や「“多言語”という宿題がみんなのスタンスをすごくフラットにした」というエピソードなど、本作の思いをロングインタビューで聞いた。

『スワロウテイル』から公開30周年となり、このたび『スワロウテイル 4Kリマスター』が誕生しました。製作の背景から教えてもらえますか?

岩井監督:僕はどの作品も機会があれば(リマスター版製作を)と思っているんですけど、今回は『スワロウテイル』製作委員会が立ち上がってくれたので、実現できたということがあったと思います。こうした新しい映画のアプローチが始まっていることは、より良い解像度で皆さんに観てもらえるわけで、とてもうれしいことですね。

30年の間、岩井監督ご自身は見返したりもされましたか?

岩井監督:いつも新作と向き合っているので、作り終えたものを改めて観る機会は意外とないんですよね。映画祭で上映があったりすると、観られたりもしますが。
映画はどんどん新しいものが誕生しているので、3年も覚えていてもらえたらいいほうなんじゃないか、という世界だと思うんです。残ってくれているのは、決して当たり前ではないんだよなと。応援してくださる方がいてこそなので、本当にありがたいことです。

『スワロウテイル』はまったく古びれない作品で、常に若年層に支持され続けている印象があります。監督ご自身は、どのように受け止めていますか?

岩井監督:いやあ、どうなんでしょうかね。自分の作品は『Love Letter』の頃から、割と10~20代の層が多かったといえば多かった気はするんです。自分で決めているわけじゃないんですけど、ちょっとジュブナイルっぽいのかなと。さりげなくみんな卒業されていくな、みたいな(笑)。学園ものも多いせいかもしれないですけどね。

本作は日本語・英語・中国語が入り交じり、多言語を俳優陣が話す作品でもありますよね。岩井監督は当時、皆さんに台本以外に説明をしたり、補足したり、何かされていたんですか?

岩井監督:映画になったものとは違うんですけど、前提になる小説は書いていたんです。それを読んでもらっていました。あと、現場に入る前にストーリーボード(絵コンテ)を描いていたので、それも見てもらいましたね。だから、文章と漫画みたいな絵からどういうものなのかを、たぶんパッと見て理解してもらっている部分はあったんじゃないかなと思います。……ただ、撮影用の台本になると多言語すぎて、僕もどこに何が書いてあるのか探すだけでも大変みたいな感じでしたね(苦笑)。

監督ご自身も大変だったと……!

岩井監督:大変でした。中国語はやっぱり読めないですからね。「どのページだっけ?」みたいなことがすごく大変だった覚えがあって、なかなか難しかったです。

脚本はどう書き進めていかれたんですか?

岩井監督:日本語で書いたものを訳してもらいました。英語の通訳者、中国語の通訳者がそれぞれいたんですね。中国語の通訳は一人だったんですけど、英語の通訳は二人いて、その間ですごい揉めていましたね(笑)。こちらに、「そうじゃない」、「彼はよくない」とか言ってきたりするんですよ。そうなると、中国語は一人なわけで、セカンドオピニオンが取れていないから「彼だけで大丈夫だろうか…」とか、いろいろ考え出すわけです(笑)。悩ましいことが多かったですね。

それもあり、ネイティブチェックは何度もやりました。Charaと伊藤歩とのところでチェックが入って、何か所か言い直してもらったりもしましたし。だけど、三上(博史)さんのところは全然チェックが上がってこなかったんですよ。僕が「三上さんは?」と聞いたら、「彼は中国人でしょ?」と言われて。「違うよ!」と。びっくりしました、すごいですよね。「中国人だと思った」と言われるほど、三上さんは中国語が完璧だったわけなので。この間、(本作の)試写会の後、三上さんとCharaと歩とみんなでごはんを食べに行ったときに、三上さんに伝えました。「中国人に間違えられていましたよ、発音完璧だったっぽいですよ」と(笑)。

撮影当時、岩井監督は33歳ということで、映画監督としてとても若い部類に入ると思います。それでいてこの座組みを仕切っていかれたわけですが、当時は苦労のほうが多かったのか、興奮が勝っていたのか、どのような思いで撮影していましたか?

岩井監督:作品として成立するのかどうかを見るのが一番の仕事だと思うので、そこが破綻しないようにということを日々考えていた思い出はあります。チーム自体は、みんながやっぱりすごくのめり込んでくれていたおかげで、個人的には割と楽な撮影の部類でした。

というのも、『Love Letter』(長編1作目)のほうがよっぽど大変だったんですよね。『Love Letter』は後半戦、みんなインフルエンザでいなくなっちゃったので(笑)。技術部は感染しなかったので大丈夫だったんですけど、制作部と演出部が僕とサードの男の子とロケーションコーディネーターぐらいしかいなくて、全滅に近くて(苦笑)。3人ぐらいでロケハンして、リハーサルやって、カメラ準備に入ったらまたすぐロケハンに行って、数日後の撮影現場を探して……という感じでした。直接お家に伺って、「何日、何時から撮影してもいいですか?」と交渉したり。

『Love Letter』は、まるで自主制作映画のような側面もあったんですね。

岩井監督:そうです。役者さんを呼びに行く人もいないから、自分で「準備できたよ」と呼びに行ったり、やっていましたね。そういう意味で言うと、『スワロウテイル』はみんなが欠けることなく動いてくれましたね。

けど、確かに構成は複雑でした。音楽パートもあったし、言語指導パートもあったし。雨の日に、三上さんが歩としゃべるシーンがあるんですね。もともと、あれは確か雨で撮影が中止になる日で「明日、大雨が来るから撮れるシーンがない」と言われていたんです。そこで僕が「もったいないよね。何か書くわ」と言って、急遽台本を書いて二人に渡したんです。二人からしたら「ふざけんな」という感じですよね。日本語でもないし、「発音からなんだよ、こっちはさ」という感じですよねえ……。先日、三上さんにもぼやかれました(笑)。でも結果、すごくよいシーンになったので頑張ってくれてよかったです。

偶然の産物という言い方が正しいかはわからないですが、ちょっとしたイレギュラーなことがまた作品に彩りを与えるようなことは、岩井監督の現場ではあることなんですか?

岩井監督:そうですね。ただ、やっぱり現代物のほうが多いです。こういうのは急に言われても、そこにあるセットでやらなきゃいけない、とかなので。撮り終わったセットとかは、もうないわけですよ。『スワロウテイル』は美術や言語問題もあるし、言うほどフレキシブルではないはずだったと思うんです。でも、その中でもやれる限りの努力をしていたのかな、という気がします。
三上さんたちとしゃべっていたときにも、「寝れない」とか、大変だった話がいっぱい出ましたけど(笑)、みんなもいい思い出みたいでうれしかったですね。あの頃は本当に徹夜もあったけど、みんな平気だったので。あの熱量は何だったんだだろう……?みんなが楽しそうにやっているようにしか見えなかったというか、不思議な現場でしたね。自分がどういう仕事をしていたのかは、振り返って客観視して見ていないのでわからないものですが。でも、そこでみんなが頑張っている姿を目撃していた、みたいな感じでしたね。僕はその場を用意したくらいでした。

『スワロウテイル』は、アーティストを俳優として起用した先駆的な作品でもあると思います。監督は現在でもアーティストの方を作品に起用されていますが、当時Charaさんを起用したことへの背景などはありますか?

岩井監督:自分には、あまり垣根がなかったんですよね。普通に……と言うと変ですけど、「出てほしいんですけど」という感じでオファーして、「やってみたい」というところになったのかな。自分みたいに当時、若くて何もわかってなさそうなやつがオファーしに来たから、うまくいっていたのかもしれないですけど(笑)。

監督ご自身は、俳優とアーティストの垣根は感じていらっしゃらなかったんですね。

岩井監督:感じてはいないです。僕自身は、アーティストであるCharaさんに俳優として演じてもらうことに、特に難しさは感じていなかったんです。けど……よくよく考えると、来てもらって中国語をしゃべらせるという、普通の役者もやったことがないことをやらせるわけですから、おかしいっちゃ、おかしいわけですけど。よくやったよなあ、と(笑)。『PiCNiC』は日本語でしたからね。同じ感覚で来ると、できないわけですよ。一言一句日本語でなく、ほとんどが英語か中国語をしゃべらされるから。本人としては、歌のシーンになると少し安心したんじゃないですかね、たぶん(笑)。

これは当時思ったことですが、この「多言語」という宿題がみんなのスタンスをすごくフラットにしたなと思った瞬間がありました。演技キャリアのある人も、ない人も、みんな語学学校の初心者みたいな感じなんです。新宿の中の英会話スクールに、老若男女サラリーマンのおじさんから学生さんまでいる雰囲気な感じで集まっている。みんな素直にそんな雰囲気を醸していました。だからか、日本語だけの現場にはないやさしい雰囲気があったんですよね。これはなかなかユニークな展開だなと思っていましたね。

ご自身で用意しながらも、予想外の現場の雰囲気になっていらした。

岩井監督:そうですね。本人たちはめっちゃ大変なんだけど、こちらはそれを微笑ましく見ていました(笑)。僕も一応、中国語は同じタイミングで3カ月くらい先生をつけて練習していたんです。自分もしゃべれるようになりたいというより、どのぐらい大変なのかを味わっておかないと、役者さんの大変度が分からないと思ったんです。しかし、「うわぁ……本当にこれ大変だ……かなり難しいな、どうしよう」という感じでしたね。中国は特にイントネーションの四声があるので、アクセントの上下が全部合っていないと意味が通じないんですよ。

となると……中国語ネイティブに間違えられた三上さんは本当にすごいんですね!

岩井監督:そうですね。1個1個覚えててもつなげられないので、結局ワンセンテンスをまるっと聞いて、先生が言った感じでしゃべるというトレーニングになっていくんです。三上さんも音楽をやっていましたし、みんな耳がよかったんじゃないかなあ。

そうした多言語を織り交ぜた、リズミカルに話す皆さんの口調も魅力です。それぞれの話し方などもリクエストしたり、演出されたんでしょうか?

岩井監督:多言語のところは間に先生がいるので、ニュアンスや情緒的な説明はしたと思うんですけど、基本はその方がもっぱら発音を指導していました。ただ、江口(洋介/リョウ・リャンキ役)さんがしゃべったやつだけは言語がごちゃ混ぜだったので、それだけは僕のほうでテープに吹き込んで「これで練習してください」というお願いでやった覚えがありますね。

じゃあ、「銃はインタビューマイクじゃないんじゃい」のセリフも、岩井監督の口調をそのまま江口さんに渡したんですね!?

岩井監督:そうです。あれも一通り吹き込んで、そのまま練習してもらったというのがありました。ロケハンでいろいろなアジアを回ったんですけど、当時、ああいう通訳さんがいらしたんですよ。本人は通じているつもりで日本語をしゃべってくるんだけど、わからない……という。そういうのを真似しようと取り入れましたね。

貴重なお話の数々、ありがとうございました。最後に、鑑賞を心待ちにしている読者にメッセージをいただけますか?

岩井監督:『スワロウテイル』を作った当時は円が強くて、円最強の時代に「昔々あるところに」という枕言葉をつけて、無理やりファンタジーな世界を作っていました。21世紀に入って四半世紀すぎましたけど、「いろいろなことがそんなに変わっていないな、人間はそう変わらないな」と思うところもあります。30年前の作品を、皆さんがどのような視点で観てくださるのかを非常に興味深く思っているので、ぜひ感想などお聞かせいただければと思います。僕にDMで送ってください。

(取材・文:赤山恭子)

映画『スワロウテイル 4Kリマスター』は、2026年9月4日より全国公開。

出演:三上博史、Chara、伊藤歩、江口洋介、アンディ・ホイ、渡部篤郎、山口智子、大塚寧々、桃井かおり
監督・脚本:岩井俊二
配給:ポニーキャニオン
公式HP:https://swallowtail4k.jp/

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