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【精神科医解説】子どもの万引きと発達障害・家庭環境の影響は?親が今できる適切な向き合い方

  • 2026.9.1

「子どもが万引きをした」背景には、単なる悪戯や悪友の影響ではない別の要因が存在します。本記事では、精神科医であり臨床心理士・公認心理師でもある出雲いいじまクリニック院長の飯島慶郎先生が、エビデンスに基づき万引きを起こす子どもの真の心理や裏に潜むリスク、親が取るべき適切な対応を解説します。

ママ広場

前回、「窃盗症(クレプトマニア)」についての記事を書かせていただきました。お子さんが物を盗んでしまったと知らされたとき、保護者の方が真っ先に検索する言葉だからです。

その記事の中で、私はこう書きました。「大半を占めるふつうの万引きに、親としてどう向き合うか。それはまた別の話になります」と。
今回は、編集部からご依頼いただいたその「別の話」をお届けします。数のうえでは、圧倒的にこちらのほうが多数派です。前回の記事は「病気かどうか」を見極めるためのものでしたが、実際のところ、ほとんどの場合は病気ではありません。
では、病気ではないとき、親には一体何ができるのでしょうか。今回は、病気の話ではなく、親としてできる関わりについてお話しします。

「いけないこと」は、子ども自身がいちばんよく分かっている

「どうしてそんなことをしたの」「悪いことだと分からないの?」
突然の連絡を受け、そう問いただしたくなるのは親としてごく自然なことです。けれどここに、多くの保護者の方が意外に思われる事実があります。
警察に捕まった小学生を対象にした調査報告書があります 1)。そこには、大人の予想を覆す子どもたちの実像が記録されていました。子どもたちは皆「捕まれば厳しく処罰される」と最初から理解しており、「謝れば許してもらえる」とか「少額なら見逃される」などと甘く考えていた子は一人もいませんでした 1)。
悪いことだと、最初から分かっている。しかも、謝れば済むとも、少額なら許されるとも思っていません。
子どもの発達心理学の研究を見ても、子どもは3歳ごろからお友達におもちゃを横取りされると怒るようになり 2)、「これは○○ちゃんのもの」という持ち主のルールを大人以上に厳格に守ろうとします 3)。そして5歳にもなれば、「人からもらった物」と「盗んだ物」の違いをはっきりと理解し、盗んだ物については「持ち主が変わったわけではない」と正しく判断できます 4)。
つまり、小学生のお子さんは「善悪の区別がつかないから盗んだ」のではありません。むしろ大人以上に厳しく分かっています。
ですから、「悪いことなんだよ」と道徳を教え直しても、あまり心に届きません。すでに知っていることを繰り返し叱られるだけで、お子さんの側には「本当の気持ちを何も分かってもらえなかった」という孤独感だけが残ってしまうのです。

子どもが見落としていたのは「善悪」ではなく「現実」だった

では、子どもたちは一体何が分かっていなかったのでしょうか。
同じ調査報告書に、はっきりとした答えが示されています。
捕まった小学生の実に96%が、自分が「捕まる」とはまったく思っていませんでした 1)。これは、大人の世代と比べても際立って高い数字です。
さらに、万引きに罰金刑があることを86%が知らず、お店が警察へ全件通報するという現実についても、調査された小学生の全員(100%)が「知らなかった」と答えています 1)。報告書も、少年全体の特徴として「万引きに関する知識が極めて少ない」と指摘しています 1)。
状況を整理すると、こうなります。

○知っていたこと
盗むのは悪いこと/捕まれば厳しく怒られる・処罰される/謝っても許されない
○知らなかったこと
罰金刑があること/お店は必ず警察に通報すること
○思っていなかったこと
まさか自分が捕まるということ

子どもたちが分かっていなかったのは、道徳ではなく「行動がもたらす現実の結果」のほうでした。
ここが、私が保護者の方にいちばんお伝えしたい核心です。子どもを叱るとき、私たちがつい繰り返してしまうのは「盗むのは悪いことでしょう」というお説教です。しかし、お子さんが見落としていたのは「自分が捕まり、警察沙汰になる」という現実のルールでした。ここに、親と子のすれ違いが起きています。

「魔が差した」のではなく、「どうしても欲しかった」だけ

もう一つ、直感とは異なる事実があります。
万引きを決意した瞬間を尋ねると、「お店に入る前から決めていた」と答えた割合は、12歳以下の子どもで61%にのぼりました 1)。大人の21%、高齢者の13%と比べても、報告書が「少年の計画性は際立っている」 1)と記すほど高い数字です。
「魔が差した」「つい手が出てしまった」というより、お店に入る前から、何を取るかが心の中で決まっていたのです。
もちろん、これは「生まれつき悪質だ」という意味では決してありません。「どうしても欲しい物がはっきりしていた」ということです。実際、動機として「どうしても欲しかったから」と答えた割合は、店に入る前から決めていた子ほど多くなっています 1)。欲しい物が最初から心に決まっていたからこそ、店に入る前から狙いが定まっていた。ただそれだけのことです。
報告書が描く小学生の典型的な姿は、次のようなものです1)。
放課後の15時から16時ごろ、自宅の近くにあるコンビニで、お財布にほとんどお金が入っていない状態でお菓子やおもちゃを「どうしても欲しくて」万引きしてしまう傾向が見られます。被害品を見ても、50%が食べ物(そのうち83%がお菓子)、28%がおもちゃに集中しています 1)。
学校帰りに、いつものコンビニで見かけたお菓子やおもちゃ。自分のお金では買えなかった物を、どうしても手に入れたかった。子どもたちの動機は、どこまでも素朴で切実なものでした。

「悪い友達に引きずられた」わけでもありません

保護者の方が真っ先に思い浮かべがちなもう一つの筋書きに、「悪い友達に引きずられたのではないか」というものがあります。
しかし、万引きの動機を調べたデータ(全年齢・585人)を見ると、現実はまったく違います 1)。
最も多いのは「お金を払いたくなかったから」で55%、次いで「どうしても欲しかったから」が39%と、この二つだけで全体の9割以上を占めます。一方で「スリルや好奇心」は18人、「換金目的」は15人、「他人に誘われた(命令された)」に至ってはわずか2人、報告書も「これらを合計しても1割に満たない」1)とまとめています。
585人のうち、誰かに誘われてやったと答えた人は、たったの2人しかいません。
特に12歳以下の子どもでは「どうしても欲しかった」が動機の大半を占めます 1)。年齢が上がるにつれて「お金を払いたくなかった」という打算が増えていきますが、小学生のうちは、ごく素朴な「欲しい」という気持ちが原動力です。
さらに報告書は、少年たちについて「ふだんから友達がいて、相談できる相手もいる割合が高い」1)とも報告しています。孤立して追い詰められた子でも、不良グループに染まった子でもありません。ごくふつうの子どもが、目の前の欲しい物に心を奪われて手を出してしまった──それがデータから見えてくる実像です。
なお、正確を期すためにお伝えしておくと、この調査の対象は万引きをして警察に捕まった人たちです。捕まらずに見過ごされたケースは含まれていませんし、含まれている小学生の人数も31人と、決して多くはありません。この報告書の数字は、その前提を踏まえてご覧ください。

「うちの子だけが・・・」と自分を責めないでください

ここで、少し視野を広げてみましょう。
アメリカで成人4万3,000人以上を対象に行われた全国調査では、生涯に一度でも万引きをしたことがある人の割合は11.3%でした 5)。実に9人に1人です。研究論文でも、万引きは「比較的ありふれた行動である」と述べられています。
これはアメリカの成人を対象とした調査ですが、知っておいていただきたい大切な事実です。学校や警察から呼び出しを受けた日、親御さんは「どうしてうちの子だけがこんなことを・・・」と強いショックと自責の念にかられます。けれど、決して「あなたのお子さんだけの異常な出来事」ではありません。
一方で、日本の現状として知っておくべき傾向もあります。中学生や高校生の万引きが全体として減少するなかで、少年の万引き全体に占める小学生の割合は年々高まっていました 1)。平成29年以降は、それまで最多だった中学生を上回っています 1)。ただし、これは平成30年(2018年)までの統計ですので、現在の傾向がどうであるかまでは分かりません。
決して珍しい出来事ではない。しかし、少年のなかでは目立ちやすい年代である。この両面を受け止めておく必要があります。

「このまま非行に走ってしまうのでは」という不安について

保護者の方が心の底で最も恐れているのは、「このまま非行の道へ進んでしまうのではないか」という将来への不安でしょう。
日本の犯罪統計では、万引きは自転車盗などとともに「初発型非行」と呼ばれます 6)。言葉通り「非行の入り口」と位置づけられているため、親御さんが不安になるのは当然です。
しかし、「入り口になりうる」ことと「必ず先へ進む」ことは、まったく別の話です
子どもの問題行動に関する発達研究において、世界的に広く支持されている理論があります 7)。それによると、非行やルール違反は、思春期に入ると一時的に約10倍に跳ね上がるとされます。この現象を読み解くために、研究では子どもたちを二つの異なるグループに分けて考えます。ごく一部の「生涯にわたって問題行動が続いてしまう集団」と、大多数を占める「思春期の一時期だけ手を出してしまう集団」です。
ニュージーランドで生まれた男の子たちを26歳まで長期追跡した有名な研究があります 8)。思春期の真っ只中にいる時点では、行動の激しさだけで両者を見分けることはできませんでした。ところが子どものころからの背景を詳しく調べると、幼少期からずっと問題が続いていたグループには、家庭環境の困難や生まれ持った衝動の強さ、重い多動といった特徴が見られました。一方で、思春期になってから始まったグループには、そうした幼少期からの特徴は見られなかったのです。

「いつ始まったか」によって、その意味合いは根本から異なります。

万引きそのものの経過についてもデータがあります。先ほどのアメリカの全国調査では、万引き経験者のうちおよそ3分の2は15歳より前の一時期に起きたものでした 5)。論文の著者も「大多数の場合、万引きは限られた期間のものである」と明記しています。
もちろん、残る3分の1あまりの人では15歳を過ぎても続いていた 5)というのも紛れもない事実です。
それでも、一つ確かなことがあります。一度や数回の万引きが、そのまま子どもの将来を決定づけてしまうわけではありません。
だからといって「何もせず放っておいてよい」というわけでもありません。思春期から始まったグループであっても、衝動性や気分の落ち込み、生活上のつまずきを抱えやすい傾向は残ります 8)。そして最も重要な分岐点は、やはり「いつ始まったか」です。思春期になってからの出来事なのか、それとも小学校低学年以前からずっと続いているのか。もし後者であるなら、このあとお話しする「背景にある要因」に目を向けてみる必要があります。

ママ広場

親として、いま本当にできる関わりとは

では、親として具体的に何ができるのでしょうか。
我が子の万引きを知った日、多くの親御さんが取る行動は共通しています。カバンや引き出しを調べる。お小遣いを厳しく管理する。どこへ行くのか細かく問いただす──つまり、「見張りを強める」ことです。
親として当然の防衛反応ですが、心理学や教育学の研究が示しているのは、少し違う方向です。
スウェーデンで14歳の子どもと親703組を調べた研究があります 9)。「親が子どもの日頃の様子をよく把握している家庭ほど、非行が少ない」ということは以前から知られていました。しかしこの研究が突き止めたのは、「親はどうやってその様子を知ることができていたのか?」という点でした。
親が子どもの様子を把握できていた最大の理由は、親が監視したからではなく、「子どもが自分から話してくれたから」でした。そして子どもの問題行動の少なさと最も強く結びついていたのも、親の詮索や監視ではなく、「子どもが自分から話してくれる関係性」そのものだったのです。研究者は「子どもの後を追い、見張りを強めることは、親の関わり方として最善の処方箋とはいえない」9)と結論づけています。
さらに同じ研究グループが1,186組を追跡した調査では、子どもが「自分は親にコントロールされている」と感じること自体が、かえって子どもの精神的な不安定さや不適応と結びついていたと報告されています 10)。この知見は、その後の10年間に発表された47の研究レビューでも支持されています 11)。
この傾向は、2025年に発表された571件の研究・のべ200万人分を統合した大規模な分析でも確かめられています。問題行動の少なさと最も強く結びついていたのは「親の把握」と「子どもが自分から話すこと」であり、最も効果が薄かったのは「親があれこれ問いただして聞き出すこと」でした 12)。ただし、この研究は万引きではなく飲酒や喫煙などを対象としており、関連の強さ自体も著者らの言葉を借りれば「小さいものから中くらい」です 12)。
誤解しないでいただきたいのは、「見守ることが無意味だ」と言っているのではありません。高校生2,941人を4年間追跡した研究でも、子どもからの自発的なおしゃべりが親の理解を生み出し、同時に親の適切なコントロールも時間をかけて問題行動を減らしていくという、お互いに良い影響を与え合う関係が確認されています 13)。
効きにくいのは、「問い詰めて無理やり聞き出すこと」や、「子どもが監視されていると感じるほどの関わり」なのです。
これらの研究対象は中高生であり、小学生を直接調べたものではありません。しかし、「見張りを強めるより、話してもらえる関係を保つほうが良い」という本質が、小学生だからといって逆になるとは考えにくいところです。
では、何が本当に子どものブレーキになるのでしょうか。答えは、「何かあったときに、自分から話せる親でいること」です。
同じことを、警視庁の調査報告書も別の角度から示しています。小学生が店頭で万引きを思いとどまった要因として最も効果が高かったのは、防犯カメラや警告ポスターではなく、「店員からのあいさつや声かけ」でした 1)。
監視の目ではなく、「いらっしゃいませ」という温かい関心の目。それこそが、この年代の子どもの心に最も強く届くブレーキでした。家庭に置き換えるなら、「盗みを警戒して見張る目」ではなく、「その子の存在そのものを気にかけ、受け止める目」です。

お説教よりも、「社会の現実」を静かに伝える

お子さんが見落としていたのは、道徳ではなく「現実の結果」でした。「お店は万引きを見つけたら、必ず警察に通報する」というルールを、調査された小学生は誰一人として知りませんでした 1)。そして96%の子が、まさか自分が捕まるなんて思っていなかったのです 1)。
ですから、もし親から伝えるべきことがあるとすれば、「盗むのは悪いことだよ」というお説教ではありません。「見つかったら必ず警察に行くことになるんだよ」「捕まらない万引きなんてないんだよ」という、知らなかった社会のルールを淡々と伝えることです。
脅すためではなく、知らなかった知識の隙間を埋めてあげるためです。

厳しく叱りつければ、二度とやらなくなるのか

「では、厳しく叱ってはいけないのでしょうか」という疑問を持たれるかもしれません。
正直に申し上げると、罰の効果については専門家の間でも議論が分かれており、一概に結論を出すことはできません。
その上で、長期追跡研究から分かっている確かな傾向が一つあります。幼少期から成人まで753人を追跡した米国の研究では、幼少期に厳しい罰を受けていた子どもほど、思春期に行動上の問題を抱えやすいことが示されました。一方で、親からあたたかさを向けられて育った子どもは、思春期になっても他者への思いやりや共感性をしっかりと保てていたのです 14)。
叱ること自体を否定するわけではありません。しかし、「厳しく罰すれば二度とやらなくなる」という証拠は乏しいと言えます。

子どものついた嘘を、無理に暴かなくていい理由

もう一つ、親御さんが直面する切実な場面が「子どもの嘘」です。
嘘をつかれると、親としては矛盾を暴いて白状させたくなるものです。しかし、無理に問い詰める必要はありません。3歳から8歳の子どもを調べた研究によると、子どもが最初についた嘘は、その後の会話の中で必ず矛盾が生じ、隠していた事実が自然と漏れ出てしまうことが分かっています 15)。子どもの嘘は、放っておいても自然とほころびていきます。
嘘をつくこと自体、子どもの知能や心が順調に発達している証拠でもあります 15)(もちろん、嘘を推奨するわけではありませんが)。
親がすべきなのは、追い詰めて自白させることではなく、「本当のことを話しても大丈夫だ」と思える安心感を作ることです。そして研究が示している通り、子どもの行動を良い方向へ導くのは、まさにその「話せる関係」に他なりません。

専門機関への相談を考えたい「いくつかのサイン」

ここまで「多くの一時的な万引きは心配いらない」というお話をしてきました。しかし精神科医として、そうではないケース──何らかの専門的な支援が必要な場合についても、きちんとお伝えしておく責任があります。
日本の児童精神科外来を初めて受診した15歳以下の子ども1,972人を対象とした調査があります 16)。初診時に盗みの経験があった子どもは56人、全体の2.84%でした(これには家庭内での無断持ち出しも含まれます)。児童精神科を受診する子どもたちの中でさえ、盗みのある子はごくわずかです。
この研究で盗みと関連していた要因は、男の子であること、中学生であること、虐待を受けた経験、そして自閉スペクトラム症(ASD)でした。一方で、環境の変化による適応障害や、不登校のお子さんでは、むしろ盗みの経験が有意に少ないという結果でした 16)。
では、注意欠如・多動症(ADHD)はどうだったのでしょうか。
ここが非常に興味深い点です。単に人数だけで比較すると、盗みのある子にはADHDの診断が多く見られました。しかし、性別や学年、虐待体験、不登校などの条件をそろえて詳しく分析し直すと、ADHDの特性そのものと盗みとの結びつきは見られなくなったのです(統計的な差がなくなりました) 16)。
その一方で、ADHDにつらい体験や虐待が重なっている場合には、盗みとの結びつきが大きく跳ね上がりました 16)。
また同じ研究において、自閉スペクトラム症と診断された326人のうち、盗みの経験があったのは16人でした 16)。残る95%のお子さんは、一度も盗みなどしていません。論文の著者も、自閉スペクトラム症のお子さんが一般的に盗みをしやすいわけではないと明確に述べています 16)。
つまり、「発達障害があるから盗む」のでは決してありません。特性を持つお子さんが、さらに家庭や環境で過度なストレスやつらい状況に晒されたとき、そのSOSのサインとして行動に出てしまうことがある、ということです 16)。
なお、ここでいう虐待とは、児童精神科の臨床現場で確認された明確な被害のことであり、日常の子育ての中で「ついカッとなって強く叱ってしまった」といったこととは次元が異なります。親御さんが過剰にご自身を責める必要はありません。
前回の記事でご紹介した、専門機関へ相談すべき「三つの手がかり」を再掲します。

1:何度も繰り返している
2:本人も理由を説明できない
3:盗んだ物をまったく使っていない(ため込む・捨てる)

この三つが揃う場合は、一人で抱え込まず専門機関にご相談ください。そして本稿の観点からもう一つ加えるなら、「小学校の低学年やそれ以前からずっと続いている場合」です。
反対に、「盗んだ物を自分で使っている」「理由を聞けば『欲しかった』と答えられる」「今回が初めて、あるいは数えるほど」という場合は、本稿でお話ししてきた、ごく一般的な「発達の途中で起きる万引き」と考えてよいでしょう。
相談先としては、お近くの精神科・心療内科、地域の保健所や精神保健福祉センター、児童相談所などがあります。

おわりに

お子さんが万引きをしたと知らされた日、親御さんは深いショックを受け、ご自身を激しく責められます。私は診察室で、そうして涙を流す親御さんを何度も見てきました。
けれど、どうか知ってください。お子さんは決して善悪が分からない悪人になったわけではありません。自分が捕まるという現実を知らなかっただけであり、多くの場合、悪友に誘われたのでもスリルを求めたのでもなく、「ただ、目の前の物が欲しかった」のです。
叱るなということではありません。ただ、「悪いことだ」とお説教を繰り返すよりも、「なぜあの瞬間に手が出てしまったのか」を子どもが安心して話せる関係を保つことに、科学的な研究ははるかに大きな希望を見出しています。
そして、事件を知って今こうして深く動揺し、この記事を読んでくださっているあなた自身が、すでに我が子に真剣に目を向けている何よりの証拠です。

参考文献
1)警視庁生活安全総務課『万引きに関する調査研究報告書 〜小学生の万引きに着目した意識調査及び万引き被疑者等に関する実態調査〜』令和元年10月
2)Rossano F, Rakoczy H, Tomasello M. Young children’s understanding of violations of property rights. Cognition. 2011;121(2):219-227.
3)Neary KR, Friedman O. Young children give priority to ownership when judging who should use an object. Child Development. 2014;85(1):326-337.
4)Blake PR, Harris PL. Children’s understanding of ownership transfers. Cognitive Development. 2009;24(2):133-145.
5)Blanco C, Grant J, Petry NM, Simpson HB, Alegria A, Liu SM, Hasin D. Prevalence and correlates of shoplifting in the United States: results from the National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditions (NESARC). American Journal of Psychiatry. 2008;165(7):905-913.
6)法務省法務総合研究所『令和5年版 犯罪白書』第7編「非行少年と生育環境」2023年
7)Moffitt TE. Adolescence-limited and life-course-persistent antisocial behavior: a developmental taxonomy. Psychological Review. 1993;100(4):674-701.
8)Moffitt TE, Caspi A, Harrington H, Milne BJ. Males on the life-course-persistent and adolescence-limited antisocial pathways: follow-up at age 26 years. Development and Psychopathology. 2002;14(1):179-207.
9)Stattin H, Kerr M. Parental monitoring: a reinterpretation. Child Development. 2000;71(4):1072-1085.
10)Kerr M, Stattin H. What parents know, how they know it, and several forms of adolescent adjustment: further support for a reinterpretation of monitoring. Developmental Psychology. 2000;36(3):366-380.
11)Racz SJ, McMahon RJ. The relationship between parental knowledge and monitoring and child and adolescent conduct problems: a 10-year update. Clinical Child and Family Psychology Review. 2011;14(4):377-398.
12)Pinquart M, Reeg A. Associations of parental monitoring and behavioral control with substance use in adolescents and emerging adults: a meta-analysis. Substance Use & Misuse. 2025;60(10):1497-1505.
13)Willoughby T, Hamza CA. A longitudinal examination of the bidirectional associations among perceived parenting behaviors, adolescent disclosure and problem behavior across the high school years. Journal of Youth and Adolescence. 2011;40(4):463-478.
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15)Talwar V, Lee K. Social and cognitive correlates of children’s lying behavior. Child Development. 2008;79(4):866-881.
16)Sasaki Y, Yagihashi T, Kasahara M, Usami M, Kono T, Okada T. Clinical implications of a history of stealing on psychiatric disorders in children and adolescents. PLoS One. 2020;15(8):e0237906.

※本記事の執筆にあたり、論文検索および構成の整理に生成AIを活用していますが、医療情報としての正確性は専門医が確認・監修しています。

執筆者

プロフィールイメージ
飯島慶郎
飯島慶郎

不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック院長
精神科医・総合診療医・漢方医・臨床心理士

島根医科大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三内科、三重大学医学部付属病院総合診療科などを経て、2018年、不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニックを開院。
多くの不登校児童生徒を医療の面から支えている。島根大学医学部精神科教室にも所属。
著書:『不登校は病気? ~医師の診断が子供と家族を救う~』(みらいパブリッシング、2025年)他

不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック

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