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なぜ原田哲也は「いつまでも走り続けたい」と思ったのか? MICHELIN Anakee Adventure 2で房総へ

  • 2026.9.1

早春の訪れを慈しむように、原田哲也はBMW R 1300 GSで房総半島を巡る。足元を支えるのは、ミシュランの新たなアドベンチャータイヤ「Anakee Adventure 2(アナキーアドベンチャー2)」だ。冷え切った路面、新品タイヤ、そして砂利道まで走り続ける中で、かつて世界GPを戦った原田が見つけたのは、「何も気にならない」という安心感だった。

PHOTO/S.MAYUMI TEXT/T.HARADA SUMMARY/G.TAKAHASHI

取材協力/日本ミシュランタイヤ https://www.michelin.co.jp/motorbike/

※この記事は『RIDERS CLUB 2026年4月号(No.624)』に掲載された内容をもとに、WEB向けに再構成したものです。

原田哲也がタイヤに求める「何も気にならない」という安心感

「わざわざバイクに乗るような気温じゃないな……」

そう思いながらも、「今日もまたバイクに乗れる」という喜びが抑えられない。装具を身に付けながら吐く息が白い。素手のままでいると指先が痛くなり、あわててグローブを装着した。

突き刺すような寒風だが、わずかに春の気配が混じっているようにも感じる。実は、それほど寒さが気になっているわけではなかった。目の前にあるバイクがBMW R1300GSだからだ。

乗るのは初めてだ。前モデルのR1250GSには何度も乗ったことがあるが、新型のデザインはスタイリッシュで、コンパクト。押し引きしてみると、思いがけず軽い。

ほとんどの設定や操作は、ボタン類を押して液晶モニターに表示されるメニューを選択するスタイルだ。マニュアルなしでグリップヒーターを作動させるのにひと苦労するほどだった。時代は確実に流れている。

だが、前モデルからまったく変わらない感覚がある。

「どんなに寒くても、GSなら間違いなく快適だろう」

そう思える、圧倒的な信頼感だ。

一方で、少しだけ不安もあった。装着されているタイヤ、ミシュラン・アナキーアドベンチャー2が、まったくの新品だということだ。

「この気温で、新品タイヤか……」

僕とGSを待っているのは、冷え切った路面だった。

「こいつには絶対敵わない……」

加藤大治郎という天才との間に越えられない壁を感じて現役を引退したのは、’02年のことだ。

レースを辞めてからは、バイクを見るのも嫌だった。当時の感情を自分なりに振り返ると、恐らくすべてを出し尽くしたからこそ、だったのだろう。完全にやり切ったから、「バイクはもういい」とまで思うに至ったのだ。いわゆる燃え尽き症候群のようなものだった。

本音を言えば、僕はもちろんバイクが好きだった。子供の頃から飽きることなく乗り続け、世界まで行ったほどなのだから、当然だ。「見たくもない」などと言いながらも、心のどこかに引っかかりがあった。

引退から10年ほど経ったある日、ヨーロッパの山岳地帯を自転車のロードバイクで上っていた時、ツーリングするバイクに颯爽と追い抜かれた。R1200GSだった。

「ああ、バイクっていいな……」

MICHELIN Anakee Adventure 2
MICHELIN Anakee Adventure 2

そう思ってしまった。とても素直な感情で、止めることはできなかった。そして僕は少しずつ、バイクの世界に「復帰」するようになった。

それから15年近くが経つ今、房総を走らせているのが最新のR1300GSということに、不思議な縁を感じる。

そして、驚く。

タイヤについて、何も考えていなかった……。

走り始めた直後という緊張感が高い状況にもかかわらず、アナキーアドベンチャー2が新品だということを、僕はすっかり忘れていたのだ。

これはなかなか凄いことだ。

長くレースをしてきた僕に、もしバイクのライディングに関して人より秀でたものがあるなら、まずもって「バイクを感じること」だろう。

路面の変化。気候の変化。セッティングの変更。タイヤのグリップレベル。そして、自分のフィジカルコンディション──。

レースは常に、変化や変動との戦いだ。取り巻くすべてが変わっていく中で、いかにコンスタントなペースを刻めるかが勝敗の鍵を握る。

そんなことを幼い頃からずっと繰り返してきたからだろう。バイクという乗り物にまたがった瞬間、体のセンサーが作動して、瞬時に多くの情報を得ることが習慣になっている。

中でもタイヤに対しては敏感だ。

現役時代、僕がタイヤに求めたのは、スタートからゴールまでコンスタントに同じラップタイムを刻めるということだった。

どのタイヤでも、周回を重ねればグリップレベルは低下していく。タイムの落ち幅ができるだけ少ないタイヤはどれか──。フリー走行も予選も、僕にとっては決勝レースに向けてのタイヤ探しの場だった。

コンスタントにタイムを刻めるタイヤが複数あったとしたら、その中でもソフトなものを選んだ。スタートから飛ばせるからだ。

ソフトなタイヤでもレース後半までグリップを保たせることができたのは、僕のもともとの走らせ方によるところが大きい。

旋回はクルッとコンパクトに済ませて、いち早くマシンを起こして立ち上がるスタイルだったから、タイヤへの負担は少なかった。

’93年、世界グランプリでチャンピオンを決めたスペイン・ハラマサーキットでのレースは、序盤から終盤までタイヤがいいグリップを発揮してくれたレースだった。

だが、うまくいくことばかりではない。レースの世界は驚くほど繊細だ。

前日にはうまく機能していたはずのタイヤなのに、まったく同じものを履いても翌日の決勝レースでは自分のフィーリングと合わない、などということもしばしばだった。

「あ、まずい……」

そう気付くのは、決勝前のサイティングラップに向けてピットアウトした直後だ。「厳しいレースになるぞ」と、すぐに、そして確実に分かる。

こうなったら、ほとんど諦めるしかない。サイティングラップを終えてからグリッドでドタバタとセッティング変更をしてもらうが、アジャストは簡単ではない。無理に勝ちを狙わず、着実なポイント獲得に気持ちを切り替えた。

レースの勝敗は、ほとんどタイヤが決めていた、と言ってもいい。

だからタイヤにはとにかく敏感だったし、瞬時の判断でも間違えることはほぼなかったのだ。

その感覚は、今も変わらず持ち合わせている。さすがに現役時代ほど鋭く尖っていることはないが、それでもタイヤには人一倍シビアだ。

その僕が、新品タイヤで走り始めながら、タイヤを意識しないどころか、バイクへの情熱を取り戻したあの頃や現役時代のことを思い出している。

つまり、何も気になっていない──。

これは本当に凄いことだ。

最近のミシュランタイヤは、ウォームアップ性能が非常に高い。ハイパフォーマンスなスポーツタイヤであるパワーシリーズをサーキットで履いても、朝一番の走行から不安なくライディングできるほどだ。

その特性は、アナキーアドベンチャー2にも見事に引き継がれている。

このタイヤは、オンロード、オフロードの両方に対応する、いわゆるクロスオーバータイプの公道用タイヤだが、そのことと、新品でしっかりと接地感を発揮するかどうかは話が別だ。新たに開発されたというシリカ配合コンパウンドが効果を発揮しているのだろう。

冷え切った路面に新品タイヤだから、さすがに僕も無意識のうちに丁寧なライディングをしていた。そのことを差し引いても、不安や違和感がまったくなく、いきなり安心し切っていることには驚かされる。

安心。

これは僕がライディングしている時に、常に求め続けている要素だ。

レースでは、安心できなければ攻められなかった。レーシングライダーのライディングスタイルは、しばしば「立ち上がり重視」とか「コーナリング重視」などと評されるが、僕の場合は「安全重視」だった。

何をもって安心と感じるのか、正直、自分でもよく分からない。

恐らく、ちょっとした車体姿勢の高低や、アンダーステア、オーバーステアといった旋回性、ブレーキをかけた時の制動力、コーナリングやブレーキング時のつぶれ感など、さまざまな要素が複雑に、そして繊細に入り組み、絡み合っているのだと思う。

「安心」という簡単な言葉の中には、想像以上の難しさがある。

そして各タイヤメーカーの開発者たちは、結局のところ、この「安心」を得るために技術を尽くしている。

フランスにあるミシュランの研究施設、ラドゥを訪れたのは’19年のことだ。

広大な施設にはさまざまなテストコースが設けられ、中には超ロングストレートを備えた1周8kmの超高速サーキットもあった。

テストコースのバリエーションもさることながら、最新の研究開発の様子を目の当たりにして、ミシュランの底力の一端が分かった。そして開発者との会話の端々から、ライダーに安心してもらえるタイヤ作りを心がけていることが伝わってきた。

GS+アナキーアドベンチャー2の組み合わせに、すっかり安心し切っている自分に気付く。

オンロードにもオフロードにも対応するバイクとタイヤだが、いずれもアドベンチャーというカテゴリーだけあって、オフロードムードは色濃い。GSはサスペンションストロークが長く、アナキーアドベンチャー2はブロックパターンが目立つ、という具合だ。

だが、このタイヤは不思議なほど静かだ。

僕はセローを所有しており、本格的なオフロードタイヤを履かせることもあるが、特に高速域ではブロックパターン特有のノイズがあり、気になるところではあった。

そのノイズが、アナキーアドベンチャー2からはほぼ聞こえない。

トレッドパターンを見ると、大きさやピッチが不等間隔だ。ミシュランは「バリアブルピッチパターン」と呼んでいるが、これがノイズを低減している。また、センターブロックの大型化もノイズ低減に効果的だという。

ノイズがほとんど聞こえてこないことに加えて、ハンドリングもオンロードタイヤのようだ。

ハンドル操作に対して遅れなく軽快に反応してくれるし、ブロックパターンにありがちなグニュグニュとした腰砕け感もない。あえて少し強めにブレーキをかけても、必要以上のつぶれ感はなく、制動力をしっかり受け止める。

オンロード寄りの特性は、とても現実的だと僕は思う。

オフロードムードを漂わせるアドベンチャーだが、実際の用途はオンロードツーリングがほとんど。特にGSのようなビッグアドベンチャーをオフロードで振り回せるライダーは、かなり限られてくるだろう。

僕などは、「GSで林道に行こう」と誘われたら、ちょっと尻込みしてしまう。走る舞台はオンロードがメインだ。

だからこそ、アナキーアドベンチャー2の静粛性や適度な剛性感がちょうどいい。

千葉出身の僕にとって、房総はツーリング先として馴染みの場所だ。さんざん走り回っているつもりだが、いまだに細かい道に入っていくと、見ず知らずの風景と出会える。

その瞬間こそ、ツーリングの醍醐味だ。

「元レーシングライダー」と名乗ると、たいてい「じゃあ、飛ばすんですか?」と聞かれる。「ツーリングのペースも速いんでしょう?」と。

だが、実際に僕とツーリングしたことがある人の反応は、まったく逆だ。

「原田さん、のんびりペースなんですね」

と驚かれる。

これにはれっきとした理由がある。

とにかく長くバイクに乗り続けたいからだ。

ハイペースは、リスクにつながる。逆に、ペースダウンは安全につながる。そして安全であるほど、バイクを長く楽しめる。

さんざんサーキットを走ってきた僕だが、公道は怖い。

カーブの先には何が待っているか分からないし、路面が急に変わっている可能性もある。いつ車や人が飛び出してくるかもしれない。しかもサーキットのように同じ所を何度も反復するのではなく、1発勝負だ。

「公道ほど怖い走行ステージはない」

と心から思う。そしてもう現役ではないのだから、バイクで痛い思いはしたくない。

だからこそ、僕がタイヤに求めるのは「何も気にならないこと」だ。

タイヤのことを気にせずに済めば、その分の注意力を周囲に向けられる。気がかりが減れば、それだけ疲労度も減る。いいこと尽くしだ。

新品状態で走り始めてすぐ、僕はアナキーアドベンチャー2のことをほとんど意識しなくなった。

いい意味での「存在感のなさ」は、いくら走り続けても変わらなかった。

好奇心に任せて、房総にありがちな砂利道に分け入ってみても、やはり何も変わらず、何も起きない。

下りの砂利道でブレーキをかける場面もあったが、フロントが逃げることもABSが効くこともなく、スッと減速できる。スロットルを開ければしっかりトラクションが感じられ、本格的なオフロードタイヤのようだ。

アナキーアドベンチャー2は、オンロードではオンロードタイヤのように、オフロードではオフロードタイヤのように振る舞う。

この懐の深さは、R1300GSと同じだ。だから両者のマッチングは最高だ。

それにしても、ヨーロッパで自転車に乗っていたあの時、GSを見かけて本当によかった。

「バイクに乗りたい」

と思わせてくれたおかげで、今、僕はこうしてGSとアナキーアドベンチャー2を楽しめている。

正直、いくらでも走っていたい。

このツーリングはもちろん仕事だが、完全にそのことを忘れている。撮影の合間にヘルメットを脱ぐ時間さえ惜しい。止まっている時間を少しでも短くして、とにかく走っていたい。

現役を引退した時、「バイクなんか見るのも嫌だ」と思っていた自分が、実は心の底にここまで深いバイクへの思いを隠していたのかと思うと、何だかおかしくなってくる。

そういえば、R1300GSにはオートメイテッド・シフト・アシスタント(ASA)とアクティブ・クルーズ・コントロール(ACC)が装備されていた。6速オートマにACCとは、もはやクルマのようだ。

中には「マニュアル操作をしてこそバイク」という人もいると思うが、僕はこれらの電子制御を完全に受け入れる。なぜなら、間違いなく安全に結びつく装備だからだ。

タイヤと同じように、気にしなければならないことがひとつでも減るなら、僕はそれを選ぶ。その分だけ集中力が長く維持できるのなら、それに越したことはない。

バイクの楽しみ方は、人それぞれだ。

今の僕は、バイクでしか見ることができない景色や、季節の香りや、バイクを通して触れ合った人々との語り合いを楽しみたい。

ライディングテクニックのことなど、ひとつも考えていない。

丸1日も乗っていれば細かなミスはあったかもしれないが、無事故、無転倒で帰ることができれば100点だ。それ以上望むことは何もない。

アナキーアドベンチャー2は、改めて僕がタイヤに求めるものを教えてくれた。

「何も気にしないで済む」という、一見すると地味なようでいて、多くの技術や開発の苦労が盛り込まれている、とてつもない高性能。

このタイヤだから、いつまでも走り続けたくなる。

僕は今、もっと遠くへ、もっと長く走れるツーリングに出かけたいと思っている。

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