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「本当にすみません、こんなところで」法事で位牌を倒してしまった親族。だが、住職の一言に救われた瞬間

  • 2026.9.1
「本当にすみません、こんなところで」法事で位牌を倒してしまった親族。だが、住職の一言に救われた瞬間

手を伸ばせば届く場所にいたのに、動けなかった

法事の日だった。本堂の畳の上には法要用の椅子が並べられ、親族が静かに座っていた。

読経が始まってしばらくすると、線香の匂いと木魚の音だけが本堂に響いていた。みんな息をひそめるようにして、住職の声を聞いていた。

そのとき、前のほうに座っていた親族の一人が、少し姿勢を直そうと腰を浮かせた。

次の瞬間、足が椅子の脚に引っかかったらしい。

よろけた拍子に祭壇の脇にあった小さな台へ手が当たり、その上の位牌が、こつん、と畳の上に倒れた。

「あっ、ごめんなさい……!椅子に足が引っかかって」

焦った声が本堂に響いた。

読経が止まり、一瞬、誰も動かなかった。

私は倒れた位牌のすぐ近くにいた。手を伸ばせば届く距離だった。

それなのに、体が動かなかった。

勝手に触っていいのだろうか。置き方にも決まりがあるのかもしれない。余計なことをして、もっと失礼になったらどうしよう。

そんなことばかりが頭に浮かんだ。

しかも、張りつめすぎたせいなのか、なぜか口元まで引きつりそうになった。

こんなときに笑ったら絶対にだめだ。

そう思えば思うほど体に力が入り、私は膝の上でぎゅっと手を握っていた。

住職の一言で、止まっていた空気が動き出した

すると住職がゆっくり振り返った。

倒した親族は、まだ青ざめた顔をしていた。

「本当にすみません。私、こんなところで…」

住職は少しだけ笑って、穏やかに言った。

「大丈夫ですよ。どうぞ、そのままで。こちらで直しますから」

そう言って、自分の手で位牌を元の位置へ戻した。

親族は何度も頭を下げていた。

「すみません、本当に…」

「いえいえ。足元も狭いですからね。気になさらないでください」

住職はそれ以上何も言わず、また正面を向いた。

そして、少し間を置いてから何事もなかったように読経を再開した。

木魚の音が戻ってきた瞬間、本堂の空気まで動き始めたように感じた。

私もようやく息を吐いた。隣に座っていた伯母と目が合うと、伯母もほっとしたように小さくうなずいた。

会食の席では、位牌を倒した親族もようやく笑えるようになっていた。

「さっきは本当に焦った。もう、心臓止まるかと思ったよ」

すると伯父が笑った。

「そんなに気にせんでも大丈夫やって」

伯母も湯呑みを置きながら続けた。

「ご住職も大丈夫って言ってくださったしね」

「うん……あの一言で助かったわ」

その言葉を聞いて、私も同じだったと思った。

あのとき、私は手を伸ばせる場所にいながら動けなかった。作法が分からないと、たった数秒でもこんなに体が固まってしまうのだと初めて知った。

住職の「大丈夫ですよ」という言葉に救われたのは、位牌を倒した人だけではなかったのだと思う。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた20代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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