1. トップ
  2. エピソード
  3. 「これ、試食はないの?」試食を出していない催事場。だが、店員が出した1枚のカードとは

「これ、試食はないの?」試食を出していない催事場。だが、店員が出した1枚のカードとは

  • 2026.8.31

試食を出していない売り場で、女性が足を止めた

以前、催事の期間だけデパートのお菓子売り場に立っていたことがあります。

小さなテーブルに箱入りのお菓子を並べ、開店前には品物を運んだり、テーブルの布を整えたりしていました。私が担当していた売り場では、試食は出していませんでした。

ある日、年配の女性が足を止めました。いくつかの箱を手に取り、裏側までじっくり見ています。

しばらくして、女性が私に尋ねました。

「これ、試食はないの?」

「申し訳ありません。こちらでは試食をご用意していないんです」

そう答えると、女性は残念そうに箱を見つめました。

「そうなの……。でも、試食がないとお菓子の味が分からないでしょう」

どうやら大切な人への贈り物を探しているようでした。

「甘いものがあまり得意じゃない人だから、ちゃんと選びたくて」

責められているというより、本当に困っている様子でした。それでも私は、すぐに気の利いた返事ができません。

「申し訳ありません」と、もう一度言いかけました。

けれど、同じ言葉を繰り返しても女性の知りたいことには答えられません。

売り場の下にしまってあった説明カード

女性がもう一度箱の裏を見ているのを見て、私は売り場の下に置いてある説明カードのことを思い出しました。

商品の特徴や甘さ、食感などが、箱の表示より大きな文字でまとめられているものです。

私はカードを取り出し、女性の前に置きました。

「よかったら、こちらをご覧になりますか。甘さや中に入っているものが書いてあります」

女性は「あら、こんなのがあるの」とカードを手に取りました。

一つずつ説明を読みながら、箱と見比べています。

「これは少し甘めなのね。じゃあ、あの人にはこっちのほうがよさそう」

先ほどまで困っていた表情が、少しずつやわらいでいきました。

「日持ちもこっちのほうが長いのね」

「はい。贈り物でしたら、こちらを選ばれる方も多いです」

ようやく、私は女性が知りたかったことに答えられた気がしました。

結局、女性は二種類のお菓子を選びました。

会計を終えると、「試食がなくても、これなら選べるわね。ありがとう」と言って帰っていきました。

聞かれる前に、伝えられることもあった

そのあと私は、説明カードを引き出しに戻さず、売り場の見えるところに立てておくことにしました。

すると、足を止めてカードを読む人が少しずつ増えました。中には何も質問せず、説明を読んでから商品を選ぶ方もいます。

試食を出せないこと自体は変えられません。それでも、商品のことを伝える方法はほかにもありました。

あの日、最初の私は「申し訳ありません」と謝ることしか考えていませんでした。

でも、お客様が本当に知りたかったのは謝罪ではなく、「自分に合う商品をどう選べばいいのか」だったのだと思います。

目の前の決まりだけでなく、その人が何に困っているのかまで考える。その大切さを、あの売り場で教えてもらいました。


※本記事は、GLAMが独自に実施したアンケートで寄せられた40代女性読者の体験談をもとに、プライバシーに配慮し、人物・状況・会話表現などを一部編集・再構成して記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ