1. トップ
  2. 10年間愛し続け「運命の人」と信じた恋人から受けた裏切り。新しい恋に進めない気持ちが復讐へと形を変えていく、歪な恋の物語【書評】

10年間愛し続け「運命の人」と信じた恋人から受けた裏切り。新しい恋に進めない気持ちが復讐へと形を変えていく、歪な恋の物語【書評】

  • 2026.8.28

【漫画】本編を読む

「運命の人」と信じた相手と10年を過ごし、いよいよ夫婦になれる。しかしその未来が相手の裏切りによって崩れてしまったら、気持ちをどこに置けばいいのだろうか。『今際の際のファムファタール』(文野紋/KADOKAWA)は、終わった恋から抜け出せない女性の執着と愛憎を、息苦しいほど濃密に描いた作品だ。

風香が恋人のゆうちゃんと出会ったのは19歳のときだった。気持ちが通じ合い、北千住の家にはふたりで重ねた10年分の思い出が残っている。そしてプロポーズを受け、ゆうちゃんの家の墓にも挨拶し、風香はようやく自分の居場所を得ることができたと思っていた。少しの価値観の違いがあっても、自分たちは「運命のふたり」だから乗り越えられると信じて疑わなかった。

ところが、婚姻届を提出する当日、ゆうちゃんは腹痛を理由に延期を申し出てくる。予定していた日に入籍できず不安を募らせていたある日、風香が目撃したのは、自宅に知らない女性を連れ込んでいる彼の姿だった。こうして10年間続いた恋は突然終わりを迎えてしまう。その後、風香は気持ちを切り替えて婚活パーティーに参加し、新しい恋人もできるのだが、そんな彼女の前にゆうちゃんが何事もなかったかのように再び姿を現してくるのだ。

別れたあとも、夢に見てしまい裏切られた瞬間に何度も引き戻されてしまう。前に進みたいのに、積み重ねた思い出はそう簡単には消すことができない。ふたりの未来を壊しておきながら、まだ自分に未練のある態度を見せる彼に対し、やがて風香の中には相手を傷つけ返したいという強い復讐の衝動が生まれるのだった。

長く愛した人を失うことは、その人と語り合った未来と、ふたりでいたときの自分を踏みにじられたような気持ちになる。本書が描くのは別れを美しく乗り越える物語ではなく、そんなふうに壊された心が、復讐へと傾いていく生々しい道のりだ。恋の終わりに潜む暗い感情を真正面から描いた、いびつで強烈なラブストーリーである。

文=つぼ子

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ