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80代男性「トイレに行きたい」救急車の出発直前の申し出…自宅は“すぐそば”だが救急隊がそのまま出発したワケ

  • 2026.9.9
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。ライターのとしです。

救急現場では、傷病者を救急車内へ収容したあとも、さまざまな状況に対応する必要があります。

今回は、発熱で動けなくなった80代男性を搬送しようとした際、出発直前に思わぬ申し出を受けた事案をご紹介します。

発熱で動けなくなった80代男性

あるとき、80代男性から「発熱があり、動けない」との救急要請が入りました。

現場へ到着すると、男性は意識がやや朦朧としており、一人で歩くことも難しい状態でした。

救急隊は意識状態や血圧、脈拍などを確認し、男性を救急車内へ収容しました。

その後も状態を観察しながら、受け入れてくれる医療機関を探します。

しかし、このときはなかなか搬送先が決まりませんでした。

救急車に乗れば、すぐに病院へ向かうと思う人もいるかもしれません。

実際には、傷病者の症状や医療機関の受け入れ状況によって、搬送先が決まるまで救急車内で待つこともあります。

このときも男性の状態を確認しながら医療機関への連絡を続けました。

しばらくして、ようやく受け入れ可能な医療機関が見つかりました。

あとは出発するだけです。

そのとき、男性が救急隊にこう伝えました。

「トイレに行きたい」

自宅はすぐそこにあるものの…

搬送先が決まるまで時間がかかっていたため、男性がトイレに行きたくなるのも無理はありません。

救急車は自宅のすぐ近くに停まっています。

男性を一度救急車から降ろし、自宅のトイレへ連れて行けばいいようにも思えます。

しかし、救急隊としては簡単にそう判断することはできませんでした。

男性は発熱しており、意識もやや朦朧としています。さらに、一人で歩くことも難しい状態でした。

再び自宅へ移動させれば、途中でふらついたり、転倒したりする可能性があります。

立ち上がったことで状態が悪化することも考えなければなりません。

もし移動中に転倒して頭を打つようなことがあれば、それまでなかった新たなけがまで負わせてしまいます。

救急隊は、男性を再び自宅のトイレへ戻すことにはリスクがあると判断しました。

救急車内で排尿できる方法を考える

とはいえ、男性にそのまま我慢してもらうわけにもいきません。

そこで救急隊は、その場にある物を使って対応することにしました。

袋を用意し、その中に不織布などを敷き詰め、簡易的に排尿できるものを作りました。

男性にも説明し、救急車内で排尿できるように環境を整えます。

その結果、男性は自分で排尿することができました。

これで医療機関へ向かうことができます。

救急車は受け入れ先に向けて出発しました。

搬送中も男性の意識状態や体調の変化を確認しましたが、大きな容態変化はありませんでした。

その後、無事に医療機関へ到着。

発熱や意識状態など、現場からの経過を医師へ伝え、引き継ぐことができました。

「少しだけ」の移動にもリスクがある

傷病者本人からすると、「自宅のトイレまで戻るだけ」と感じるかもしれません。

しかし救急隊は、そのわずかな移動で新たな危険が生じないかどうかも考えています。

体調を崩している人は、座っているときには問題がないように見えても、立ち上がった瞬間にふらついたり、意識を失ったりすることがあります。

特に今回の男性は、意識がやや朦朧としており、一人での歩行も難しい状態でした。

本人の希望をできるだけ尊重することは大切です。

一方で、その希望どおりに動くことで傷病者を危険にさらしてしまっては意味がありません。

救急現場では、限られた環境や資器材の中で、そのときにできる安全な方法を考えながら対応することがあります。

今回も、男性を自宅へ戻すのではなく、救急車内で排尿できる方法を考えることで、安全に搬送を続けることができました。

傷病者の希望を聞きながらも、新たなけがや状態悪化を防ぐために別の方法を考えることも、救急隊に求められる大切な対応だと感じた事案でした。


ライター:とし
元救急隊員。消防で17年、主に救急隊として活動し救急救命士資格を取得。現場経験をもとに、救急の分かりにくい部分を一般向けに噛み砕いて発信しています。


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