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朝ドラ『風、薫る』平蔵(太田光)の言葉が問いかける、戦争と「生き残る」ということ

  • 2026.8.24

朝ドラ『風、薫る』平蔵(太田光)の言葉が問いかける、戦争と「生き残る」ということ

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。近代看護界の先駆者となった2人の女性を主役とする物語。「風、薫る」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ! ※ネタバレにご注意ください

戊辰戦争の生き残りだという平蔵(太田光)

『明治のナイチンゲール 大関和物語』(田中ひかる著・中央公論新社)を原案とし、激動の明治時代を駆け抜けた二人のナースを、見上愛・上坂樹里のダブル主人公として描くNHK連続テレビ小説『風、薫る』の第21週「定めと選択」が放送された。

明治から昭和初期を舞台にした朝ドラでは、戦争や関東大震災などが物語の大きな山場に関わってくることは珍しくない。

今週の後半、本作にも戦争の影が忍び寄ってくる。

チュウ(若林時英)が何気ないふうに手に取った新聞には「政府軍隊を派遣す」という見出しで朝鮮への軍隊の派遣を告げる記事が書かれていた。朝鮮での農民の反乱を鎮圧させるために清国に派兵を要請したのだが、これを脅威と感じた日本政府は軍隊を派遣し大本営を設置した。これがのちの日清戦争へとつながっていくきっかけとなる。

直美(上坂樹里)の夫・吾郎(甲斐翔真)は軍に所属する。吾郎にも出征の可能性はあるのだろう。「牛肉と馬鈴薯の煮付け」を作りながら、「出征したらずっと炊事班長がいいな」と思わず口にする。

「やっぱり好きじゃない軍人は」
と、直美は本音をもらす。お国のためよりも吾郎の命がと言いかけて吾郎にとめられるが、のちに「非国民」と罵倒される世の中へと続いていく。

女性が働くこと、男女の考え方などは直美たちが看護婦になっていくにあたり何度となく描かれてきたように、本作は現代の視点を通しながら明治の世を描いてきた。戦争についても、平和というフィルターを本質としてとらえながら描かれている姿勢がよく分かる。

「面白えな。命を助ける看護婦と戦をする軍人の夫婦。まるっきり逆じゃねえか」
直美が無償で看護する患者の平蔵(太田光)にそう言われる。
「生き残るんだったら手柄なんか立てようとせず、じっとしてることが一番だ。死んじまったら意味もねえ」

戊辰戦争の生き残りだという平蔵。それだけで平蔵が身を持って感じた戦争のむなしさが感じられる。そんな自らの経験から命の大切さを直美に説く。古代より繰り返され今なお各地で紛争も耐えない歴史のなか、戦争と生命の関係、生命の重みを実感させてくれる描写が増えてきそうな雰囲気だ。

週の前半の舞台は朝鮮への軍の派遣より2年ほど前の世界だ。シマケン(佐野晶哉)の新聞連載が決まる。シマケンの夢が叶った。シマケンと思いを通わせるりん(見上愛)にとってはシマケンの喜びは自身の喜びでもあり、明るい未来にもつながっていくことだ。

それを告げ、「それって結婚ってこと?」と、しのぶ(木越明)に笑顔で言われるなどして静かに盛り上がるが、掲載される予定だった日の新聞にはシマケンの名前がなく、別の連載小説が掲載されていた。大広告主の親族の作品に差し替わったのだとという。

思いだけではどうにもならないことばかり

ショックを受けつつも、次のチャンスになんとかすがろうと努力をさせてくれ、しかし努力の仕方が分からないとシマケンは戸惑いながら乞うが、
「運でも努力でもない。君の文章は、きわめてどうしようもなく強さがない」
きっぱり言われてしまう。作家を目指す者にとって、これは致命的な指摘である。

「つまり、僕には才能がないってことですね」
突きつけられる現実。シビアではあるが、そういう世界である。シマケンは、りんに出会ったころの思い出話をし、看護の道に進むかどうか迷っていたりんは看護婦として活躍しているが、自分は何も変わらず、ずっと何者でもない人間のままだと卑下したように言う。そんなシマケンに、りんは言った。
「何者でなくたって構いません。私にはただ愛おしいひとです」

その言葉に、「それは僕が言いたかった」とシマケンは言うが、前週の直美のプロポーズのように、りんからのはっきりととした言葉での愛の告白である。

そして、シマケンはこう言った。
「僕と一緒に浜松にきてほしい」

これがシマケンのプロポーズだといっていいだろう。実はシマケンの父が借金を抱えたまま失踪してしまい、浜松の実家が窮地に陥っているから帰ってきてほしいという要請があったのだ。本当に夢をあきらめるときがきた。夢は捨てても、愛のために生きていきたい。シマケンのそんな思いが込められていたのだろう。

しかし、看護婦会や家族のことを考えたりすると今一緒にいくことはできないと、浜松行きを断った。それを聞き、
「僕たちは、一緒に生きていくべきではないと思う。りんさんにはりんさんのやるべきことがある」
と、シマケンは言った。夢も愛も失ってしまった空っぽの状態での決意である。
「私はシマケンさんと一緒に生きていきたいです」
手を握りながらりんは本音を訴えかけるものの、現実の世界では、その思いのままに生きることはできない。

「りんさんの手は大勢の人のためにはたらく素敵な手だ」
その手のぬくもりを感じつつ、「さよなら」とすべてを捨てて別れを告げる。思いだけではどうにもならないことばかりである。りんには実家の事情を告げなかった。知るとなんとかしようとしてしまうからだ。シマケンの優しさであり、夢に生きる人間の綺麗事のようでもある。

シマケンが顔色が悪かったからと派出看護を要請するという直美の粋なはからいのもと、シマケンに最後に事情を聞き思いを伝えようと駆けるりんの前に、具合が悪くなった女性が。その処置に時間がかかっていたのだろうか、シマケンは姿を消していた。果たして二人の再会はあるのか。それぞれの道をどう歩んでいくのか。余韻を残したまま世は動いていく。

ふたたび2年後の世界にもどる。冒頭に記したように、戦争の影が落ちる世界だ。

ナイチンゲールは世界最初の従軍看護婦としてクリミア戦争に参加し、野戦病院で多くの人を看護した。ナイチンゲールの教えを土台として日本初のトレインドナースとなったりんと直美。やがて物語は日清戦争へと突入していく。その戦時下において、看護という視点から戦争をどう描いていくのか。期待とともに待ちたい。

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