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〈菓子屋ここのつ茶寮〉主宰・溝口実穂さんの1か月連載コラムが始まります。初回は、浅草・鳥越で営む自身の店について。

  • 2026.8.11

私は、13年前から東京の下町(浅草・鳥越)にて、予約制の店〈菓子屋ここのつ茶寮〉を営んでいます。

〈菓子屋ここのつ茶寮〉とは、四季を感じられる菓子と料理の間(あわい)にある品々を、約2時間のコースで味わっていただく場です。ふだん何気なく口にしている食材も、ちょっとした調理法の工夫や、他の食材との組み合わせ方によって、まだ知らない表情を見せてくれます。食材同士の組み合わせの妙を楽しみ、新たな発見を持ち帰ってもらえたらいいな、と思っています。

お善哉(ぜんざい)に浮かぶハーブ葛餅。
フレッシュトマトソースと黒豆、茹でたて白玉。
焼き稲荷のサクサクと、熱々のスパイス餡子。
白餡みるく、蓮根餅、メロン、コリアンダーの種を一粒のせて。
朝採れレタス、本わらび餅、押ししらす、ボリジ、塩。

そして、この店にはもう一つ、大切にしている目的があります。それは「時間芸術」です。これを説明するには、私が和菓子屋で働いていた頃まで遡らないとならないのですが、頑張って短くまとめるのでお付き合いください。

和菓子屋で働いていた頃、本当に忙しくて目の前の事にがむしゃらで、四季を味わえずに過ぎ去った一年がありました。桜が咲いたことにも気が付かず、幼い頃には当たり前に感じていた、季節が変わるときの街の匂いにさえ気が付きませんでした。

旬の美味しいものにもありつけず、「なんてもったいない一年を過ごしてしまったのだろう」と、ふと我に返ったのです。「でもきっと、こういう人たくさんいるんだろうな」とも同時に思いました。

季節の変化に気が付けなかったことにさえ気が付かない環境で、頑張って闘っている人たち。そんな人たちが、ほんの少し肩の力を抜き、今しかない季節の味と出合える場をつくりたいと思い、〈菓子屋ここのつ茶寮〉を始めました。

たった2時間、携帯電話から離れ、日常と距離を置く。目の前の一皿に向き合うことで、「頭と心が整う感覚がある」と感想をよくいただきます。そのたびに、私の意図が伝わっているのだなあ、とホッとします。

予約の管理から何から何までたった一人で続けてきて13年。今では、日々を懸命に生きている大人たちの「季節を味わえる憩いの場」になれていることを、とても嬉しく思っています。

カカオクレープ、カスタード、小豆みるく。
干し芋、焼きホタルイカ、野菜のスープ。
メロンのスープ、きな粉白餡。
苺スープ、バラ寒天。
唯一、菓子を納品している東京・青山『櫻井焙茶研究所』にて、春の氷室豆腐。

〈菓子屋ここのつ茶寮〉主宰 溝口 実穂

出典 andpremium.jp

東京・浅草鳥越で、完全予約制〈菓子屋ここのつ茶寮(糧菓のコース) 〉を主宰して13年。2026年4月より、念願であった田畑、山林、竹林付きの築150年の古民家に住まいを移した。現在は、浅草鳥越での下町茶寮を続けながら、里山生活で畑を始め、自然の洗礼を受け、四季のうつろいを味わっている。

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