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朝ドラ『風、薫る』遺体だと思ったら動いた!中村倫也“藤次”の正体と、去り際に残した一言

  • 2026.8.10

朝ドラ『風、薫る』遺体だと思ったら動いた!中村倫也“藤次”の正体と、去り際に残した一言

1日の楽しみは、朝ドラから! 数々のドラマコラム執筆を手がけている、エンタメライター田幸和歌子さんに、NHK連続テレビ小説、通称朝ドラの楽しみ方を毎週、語っていただきます。近代看護界の先駆者となった2人の女性を主役とする物語。「風、薫る」のレビューで、より深く、朝ドラの世界へ! ※ネタバレにご注意ください

りんは看護に向かう決意をする

『明治のナイチンゲール 大関和物語』(田中ひかる著・中央公論新社)を原案とし、激動の明治時代を駆け抜けた二人のナースを、見上愛・上坂樹里のダブル主人公として描くNHK連続テレビ小説『風、薫る』は、そのタイトルが示すごとく、物語が転機を迎えるときには一陣の風が吹くように空気が変わる瞬間が何度もあった気がする。

中村倫也演ずる藤次の登場は、まさに存在そのものがそんな「風」のように空気を変えるかのようだった。

今週放送された第19週「黎明の翼」。黎明とは、夜明けを指す言葉だが、新しい事柄が始まろうとすることを意味することもある。二人の主人公が歩く道に、新たな光が差し込もうとするのだろうか。

ある日、寮の舎監をつとめるりん(見上愛)のもとを、医師の黒川(平埜生成)が訪れる。近隣の村で赤痢が発生したという。赤痢は江戸時代にもたびたび流行した伝染病であり、多くの命を奪ってきた。

「この町に看護婦は君しかいないんだ。力を貸してほしい」
黒川は、そう言ってりんに同行を願うが、りんは今なお自信を喪失したままで申し出を断ってしまう。前週、女学生が倒れたときに自然に身体が動き看護することができたりんは、命に触れることが怖いのだと気づいたが、それゆえにその怖さが再び気持ちにブレーキをかけてしまう。

りんは、同じく感染症の「コロリ(コレラ)」で父親を失っている。そのときの周りのひとたちの態度なども含めて、感染症がひとつのトラウマのようになってしまっていたが、その記憶と経験、そしてバーンズ(エマ・ハワード)に言われた「あなたが看護婦になれば、家族を失いあなたと同じ思いをする人を減らすことができます」という言葉を思い出し、自分に向き合い、看護に向かう決意をする。

訪れた村は、殺伐とした空気に包まれていた。妻であるアサ(美山加恋)の発症を隠そうとする夫の太助(板橋駿谷)。そこには旧来の村社会の閉鎖性がある。発生源と思われるのは困るのだと。また、赤痢を持ち込んだのは医師だという噂も流れ、黒川たちは石を投げつけられたりもする。りんも、父のコロリの際に村でそんな目で見られたことを思い出していた。

さまざまな町や組織などで、誰が発生源かといった「犯人探し」のようなことをされたりすることもあり、なかには近隣の県で東京ナンバーを見かけただけでウイルスを持ち込んでいるかのような扱いをされたこともあった新型コロナウイルスの流行初期段階の世の中の空気も、まさにそんな一面があったことを思い起こされた。

黒川とりんが訪れた村の病院は、もともといた医師は多数逃げ出した状態で、看護や治療はろくに行われておらず、感染の拡大も食い止められず、医療機関の体をなしているとはいえない状態だった。

「この村に来たのは、生きてほしいからです、一人でも多く」
りんはアサたちにそう宣言する。命に触れることが怖いといっていたりんも、目の前で苦しむ患者たちを前にし、看護婦としてその命に向き合っていた。

りんは、バーンズから最初に学んだ看護の基本、換気や清潔をまずこころがける。黒川はといえば、「これが医療だ」と、穴を掘る。村人には墓穴を掘るつもりかと罵倒されたが、これは排泄用の穴である。感染症は排泄物から広がることが多い、そのために排泄物を適切に処理する穴が必要だからだ。

藤次を演じる中村倫也の強烈な印象

そんななか、廊下でむしろのようなものを掛けられ、りんが遺体だと思って処理しようとしたところ、「まだ生きてる」と動き出したのが、冒頭で紹介した藤次だった。東京から来た男性だといい、「私が持ち込んだんだ」と言う。外にいたのはそれゆえ責められることで、「むしろ私の身が危ない」というわけだ。こういったやりとりだけで他と患者たちとは明らかに違う、重要人物的な雰囲気を醸し出すのは、その演出ばかりでなく、藤次を演じる中村倫也の放つオーラも手伝っているように感じられる。

黒川やりんたちが懸命に対処するものの、医療と看護の手が足りず途方にくれそうなところに現れたのが、ほかでもない直美(上坂樹里)だった。
「駅で、近くで赤痢が出たって聞いて」
と、りんならここに向かっているという直感のもとやってきたと直美は言う。いわば自主的に派出されたようなものだろうか。ともあれ、りんにとって最も頼もしい〝バディ〟の登場である。

直美は看護をするいっぽうで、食事の用意すらままならなくなった現場のため、「私、行ってくる」と、村を訪れ調理の協力を呼びかける。最初は怪訝そうに見つめるばかりで何の反応もなかったものの、村人たちが自分たちの炊事場を使ってくれ、自分たちの食事を食べさせてあげてくれと現れる。不安と恐怖に包まれるしかなく、近隣の村人どうしで信じることもできなくなりかけていたなかでの団結は、直美たちの思いがもたらせたもので、これは感染症に苦しむ中での「黎明」といっていいことだろう。

そして、
「私は内務省衛生局の者だ」
すっかり回復したのか、小綺麗なスーツ姿で現れた藤次が直美に身分を明かす。現地調査に来たものの、自身が感染してしまったとのことだ。ここでの死亡率が1割に抑えられたという貴重な事例だったことを報告すると言う。

「世話になった」
こう一言だけ言い残して村を去っていく姿もまた、強烈な印象、作品の中に吹いた一陣の風のようであった。NHK朝ドラ公式の新たな出演者発表の際、「後にふたりの大きな壁となる」とあったが、この先再登場し、りんと直美にとってどんな存在になっていくのか。描かれ方に楽しみしかない。

看護と治療の成果か、アサも回復の兆しをみせ、退院が見込まれる。
「ずっと患者さんに触れるのが怖くて」

最大の危機を脱したころ、りんは直美に心情を打ち明けた。アサの手のぬくもりに生を感じたことがうれしかったという。
「直美さんと、看護婦としてもう一度一緒に働きたい」

りんはこう言った。直美は直美で自身が立ち上げた恵風看護婦会がなかなかうまくいかないと語る。そこへ黒川が、1年間黒川病院で働き、看護婦を育ててもらえないかという提案をする。

りんと直美、そして伝染病に対する向き合い方にも、黎明が訪れたといっていいだろう。その光が照らし出す未来は。次週を待ちたい。

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