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【60代エンタメ】韓国文学案内②「国を超えて女性読者をエンパワーメントしている」おすすめ4選【好奇心の扉・後編】

  • 2026.8.10

日本でも新刊が続々と発売され、注目を集めている韓国の女性作家による、韓国の女性を描いた文学作品。その背景を「男性優位の日常や社会に対して声を上げた、幅広い世代の作品が、国を超えて女性読者をエンパワーメントしている」と、韓日翻訳者・小山内園子さんは語ります。

家族や家庭を日々ケアするために心を尽くし、そのことに、多くの時間を過ごしてきた女性たちが、ひとりの「私」として、自分を見つめるきっかけとなる文学とは?
小山内さんにそうした作品の魅力の在あり処か と、いまだからおすすめの選書を伺いました。

「どうして日本にないの?」その驚きから翻訳の仕事が始まった

小山内さんは、実は23年のキャリアをもつ社会福祉士でもあります。2007年、その仕事で訪れた韓国ですすめられた小説との出合いが、小山内さんを翻訳の道へと誘いました。

「海外研修で1か月間ほど韓国に滞在しました。当時、私はDVの被害を受けた女性たちの相談を専門にしていましたので、韓国の女性団体が運営しているDVシェルターを訪れたのです。このジャンルは、日本よりも韓国のほうが法制化が早く、法改正も迅速ですね。通訳さんに同行してもらい、被害者の女性たちが、どんなことを思っているかを教えていただきました。

そのとき、そこにいた多くの女性たちが、女性作家の小説を読んでいたんです。被害者の方だけでなく、そのシェルターで働いている人たちもです。そして、『韓国の女性を知るなら、これがいいわよ』とすすめられる本が、どれもこれも本当に面白くて衝撃でした。実は、韓国ドラマファンだった私は趣味で韓国語を学んでいましたが、小説はまったく読んだことがなくて……。

『こんなに面白い作品がなぜ日本で出版されないんだろう』という思いに駆られたんです」小山内さんは、翻訳を仕事として意識し始めました。  

世代を超えて語られる女性たちの過去とこれからの人生

「翻訳を手がけたいと思っても、社会福祉士を続けながら長期の語学留学は難しく、日本で学びつつ、韓国の延世大学・語学堂の短期コースに通いました」やがて、自分で訳したい作品を出版社に持ち込むようになった小山内さん。最初は思うように話は進みませんでしたが、転機となったのは翻訳者、すんみさん(※1)との出会いでした。

「彼女から『私たちにはことばが必要だ』(イ・ミンギョン著)というフェミニズムのとても面白い本があるから共訳しないかという提案を受けました。当時の私には“夢みたいな話”でしたが、それが現実になったんです」

すんみさんにこの本の翻訳を依頼したのは、女性がひとりで営む出版社・タバブックス。「フェミニズムのとても面白い本」の翻訳版は、2018年に刊行されました。

「同じ年に、世界32の国と地域で翻訳されている『82年生まれ、キム・ジヨン』(※2)が日本でもベストセラーになり、そのころから潮目が変わりました。韓国の女性作家の作品を、格段に紹介しやすくなったんです」

現在、次々と韓国女性を描いた作品が翻訳されているのは、それだけ韓国で豊かな作品の系譜が紡がれているということ。

「『82年生まれ、キム・ジヨン』が大ヒットした後、韓国の40代、50代の女性からは『私たちの本がない』という嘆きを聞きました。若い人はフェミニズムを学び、これからの結婚や妊娠・出産について考えられるが、私たちはどうすればいいんだ、と。すると、そうした声に応えるように幅広い年代の女性を描く物語が創作され始ました。

いま、その作品群から、世代を超えて女性の生き方についての『過去の答え合わせ』『未来の答え探し』ができるようになってきています。『誰も取り残さない』というフェミニズムの本質が果たした役割と言えるのでは、そんなふうにも感じられますね」

※ 1) 翻訳家。早稲田大学文化構想学部卒業、同大学大学院文学研究科修士課程修了。主な訳書に、チェ・ジニョン『ディア・マイ・シスター』(亜紀書房)、ウン・ソホル他『5 番レーン』(鈴木出版)など。
※ 2) 韓国で100 万部突破を記録した大ベストセラー。女性が人生で出合う困難、差別を描き、絶大な共感から社会現象を巻き起こした。

素敵世代へ贈る韓国⽂学案内(2)

通り過ぎたけれど忘れてはいない私たちの「感情」

『その猫の名前は長い』

イ・ジュヘ 著 牧野美加 訳 ¥2,310 里山社

若くして家計を支える娘が、先輩女性社員に淡い恋心を抱く表題作「その猫の名前は長い」。子育てと家事の合間に育まれた女性同士の友情に亀裂が走る「わたしたちが坡州に行くといつも天気が悪い」。妻の外見ばかりを愛し内面を見ない夫の視点で描かれる「夏風邪」など、韓国社会の生活のリアリティをすくい取った9 つの短篇が収められている。

なかには、1991 年に数十万人が参加した民主化デモをモチーフにした自伝的作品「水の中を歩く人たち」も。その物語のディテールは音もなく心の奥に入り込み、やわらかな部分をそっと押す。

「中年女性にのしかかる家父長制の重圧、抑圧。ままならない人生ではあるけれど、静かに連帯し、抗う姿に元気がもらえる短篇集」

もし両親を雇用する経営者が家族でいちばん有能な娘だったら

『29歳、今日から私が家長です。』

イ・スラ 著 清水知佐子 訳 ¥1,870 CCCメディアハウス

厳格な祖父が支配する家庭に生まれたスラ。成長した彼女は物書きとして成功し、一家の生計を担うようになる。やがて両親を“雇用” する立場となり、家族の経済と決定権を握る存在―つまり家長となる。だがこれは、家父長制を単純に否定する物語ではない。スラはむしろ、常に合理的で立派な家長であろうと考え行動する。

では、家父長の時代が終わり「家女長」の時代が訪れたとき、家族は本当に幸せになるのだろうか。家族という制度のあり方を軽やかなユーモアとともに問うこの作品は、その未来に希望を感じさせる。

「原題は『家女長の時代』。家族でいちばん有能な娘が家長になったら、という思考実験は、若い世代への目線をアップデートしてくれます」

「母親」と「娘」と「彼女」 3人の共同生活がもたらす岐路

『娘について』キム・ヘジン 著 古川綾子 訳 ¥2,090 亜紀書房

キム・ヘジン 著 古川綾子 訳 ¥2,090 亜紀書房

老人介護施設で働く、60 代でひとり暮らしの「私」。ない認知症の女性を世話する日々を送っている。そんな彼女のもとに、長く疎遠だった非常勤講師の「娘」が、突然転がり込んでくる。しかも同性のパートナーをともなって。なぜ娘は「普通」に生きていけないのか―。

レズビアンである娘たちとの生活は「私」にとって受け入れがたく、3 人の共同生活は不協和音を立て始める。クィア、母娘関係、老いと孤独という主題を正面から見すえながら、「娘も肉親も、結局は他人。そのことに至りつくまでの母親の心模様が丁寧に描かれています。世代間ギャップ、社会の価値観の変化を、取り残されるほうから眺める手つきが秀逸」

突然の失踪をきっかけに語られ始める「母」の実像

『母をお願い』

申京淑(シン・ギョンスク) 著 安宇植 訳 ¥1,100 集英社文庫

駅で突然行方不明になった母。目撃情報からは母らしき人物の姿が浮かぶが、たしかな手がかりはつかめない。母を失って初めて、残された家族は母からあたりまえのように注がれていた愛情と、自分の人生にかまけて母を二の次にしていたことに気づかされるのだった。長女、長兄、夫、そして失踪した母自身の視点から、それぞれの人生と無垢の愛が再生され、母もまた夢を見て、恋をして、自分を生きたいと思った時間があったことを示す。複数の語り手によって、母の実像が立体的に浮かび上がってくる。

この小説は、韓国文学が世界に注目されるきっかけとなったベストセラーであり、『82 年生まれ、キム・ジヨン』以前の韓国文学を知るうえでも重要な文芸作品といえる。


『〈弱さ〉から読み解く韓国現代文学』

小山内園子 著 ¥1,870 NHK 出版

目次に挙げられた13 作品だけでなく、その関連書籍の紹介も豊富。多彩な作品を取り上げたブックガイドであり、自国の歴史や社会と対峙する韓国現代文学は、時代に翻弄された人々の人生を知る手がかりともなる。

構成・文/杉村道子

※素敵なあの人2026年7月号「私が私らしくあるための物語との出合いを ――素敵世代へ贈る韓国⽂学案内【好奇心の扉】」より
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この記事を書いた人  韓日翻訳者・社会福祉士  小山内園子さん

1969 年生まれ。東北大学教育学部卒業。NHK 報道局ディレクターを経て、延世大学などで韓国語を学ぶ。ク・ビョンモ『破果』(岩波書店)で翻訳ミステリー大賞を受賞。最新の翻訳書はキム・ユダム『ケアする心』(白水社)。そのほか、主な訳書にカン・ファギル『大仏ホテルの幽霊』(白水社)、キム・イソル『わたしたちの停留所と、書き写す夜』(エトセトラブックス)、イム・ソヌ『光っていません』(東京創元社)など多数。著書に『〈弱さ〉から読み解く韓国現代文学』(NHK 出版)、翻訳家すんみさんとの共著『2 人は翻訳している』(タバブックス)。

この記事を書いた人 素敵なあの人編集部

「年を重ねて似合うもの 60代からの大人の装い」をテーマに、ファッション情報のほか、美容、健康、旅行、グルメなど60代女性に役立つ情報をお届けします!

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