1. トップ
  2. カルチャー・教養
  3. 「キャンプに行きたいけどクマが…」夏レジャーで子どもを守る「注意点」と「遊び場選び」の準備とは[専門家が解説]

「キャンプに行きたいけどクマが…」夏レジャーで子どもを守る「注意点」と「遊び場選び」の準備とは[専門家が解説]

  • 2026.8.7
cocreco講談社cocreco

クマ出没の注意喚起をするポスター。

cocreco講談社cocreco

クマの生息域に近づく際は、クマ鈴は必携。高音で遠くまで響くものを選ぶこと。 写真提供:山内貴義

「エサを必死に探しているクマにとって、食材やゴミの匂いは強烈な誘惑です。管理をおこたる人間の油断が、クマを呼び寄せる最大の原因になります」(山内准教授)

クマは、遠くからでも匂いを嗅ぎ分ける優れた嗅覚と、食べ物への強い執着心を持つ動物。いったん「エサのある場所」と認識すると、繰り返し同じ場所へ現れるようになります。だからこそ徹底したいのは、「匂い」の対策です。

キャンプなどで親が無意識にやりがちなのが、お菓子やジュースを出しっぱなしにすること。たとえ中身が空であっても、匂いでクマを引き寄せます。

「お菓子を含む食材、ゴミなどは、匂いが外に漏れないよう、密閉性の高いプラスチック袋などに入れて外に放置しないことです。テントや車内に保管するか、施設のゴミ箱を利用してください。食料やゴミ、使用済みの食器類を外にそのままにして就寝することは厳禁です」(山内准教授)

アメリカの国立公園などでは、丈夫で匂いの漏れない耐クマ容器「ベアキャニスター」を使用し、さらにクマの手が届かないよう木の高い場所に吊るすなどして保管するのが一般的です。日本でも近年、頑丈な「フードロッカー(専用食糧庫)」を設置するアウトドア施設が増えています。こうした施設を積極的に選びましょう。

また、意外な落とし穴も。

「クマは揮発性(きはつせい)の物質が大好きなんです。香水やアロマオイルなど人工的な強い香りにも興味を示すことがある。ハチやアブなどの虫も引き寄せるため、山での使用はおすすめしません」(山内准教授)

cocreco講談社cocreco

クマの爪あとやフン、足跡などを見つけたら、近くにクマがいると思って行動し、静かに引き返すのが鉄則。 写真提供:山内貴義

クマ鈴やホイッスルも、子どもの声と同じように、「人がいる」とクマに伝える役割を果たします。

「クマ鈴は、クマを追い払うためではなく、『人がいますよ』と知らせ、先に逃げてもらうための道具です。私も山ではクマ鈴を携行し、さらにホイッスルも吹き続けます。

沢沿いや風下にいる場合、また雨の日は、鈴の音がかき消されることがあるため、広範囲に音が届くホイッスルが役立ちます」(山内准教授)

クマ鈴は、子どもの腰回りにも装着し、動くたびに自然と鳴るようにしましょう。また、選ぶ際は、遠くまで音が届く「遠達性(えんたつせい)」もポイントです。一般的に、真鍮製は高音域で澄んだ音色になりやすく、音も遠くまで届きやすい傾向があります。

最後に、夏のレジャーに出かける前に、親子で確認しておくべきことがあります。

「まず大切なのは、子ども一人で行動しないことです。『ちょっと先を見てくる』『トイレに行ってくる』と親から離れてしまうと、人の気配が伝わりにくくなり、不意の遭遇につながる危険があります。必ず大人といっしょに複数人で行動してください」(山内准教授)

ただし、人に慣れた個体の中には、鈴やホイッスルの音を聞いても逃げないケースもあるため、過信は禁物です。

さらに“最後の備え”として携行したいのが、クマ撃退スプレー。万が一クマに襲われそうになった際に身を守るための、ほぼ唯一の防御手段です。

「ただし、持っているだけでは意味がありません。すぐに取り出せる位置に携行し、就寝中もすぐ使えるよう常にそばに置いてください。事前に安全装置の外し方や噴射方法を確認しておくことが必須です」(山内准教授)

また、もしクマを見つけても、絶対に大声を上げたり、走って逃げてはいけません。

「クマが攻撃するのは、出会い頭に驚いたり、自分や子グマを守ろうとするときがほとんどです。また、動くものを反射的に追いかける習性もあります。

普段から『クマに出会ったら走らない』『大人のそばを離れない』などと親子で話し合っておくことが大切です。いざというときは、とっさの判断ではなく、普段から話していたことが行動につながります」(山内准教授)

クマは本来、人を避けて暮らす野生動物です。だからこそ、正しい知識と備えがあれば、多くのリスクは減らせます。しかし、どれだけ準備をしていても、生息エリアにおいてはクマと遭遇してしまう可能性はゼロではありません。

もし目の前にクマが現れたら、親はどう行動すべきなのか。あせって取りがちな行動の多くが命取りになる可能性があります。

次回は、クマに遭遇したときに親子の命を守るために本当に取るべき行動を解説します。

取材・文/稲葉美映子

猛暑が続く夏は涼を求めて、キャンプや川遊び、ハイキングといった山間部へ家族で出かけたくなる季節です。しかし、私たちが何気なく楽しんでいるその裏で、夏のレジャーエリアは“最悪の条件”が重なる場所にもなり得ます。

まず、出かける前に確認するべきなのが、目的地周辺のクマ情報です。自治体のホームページやクマ出没マップなどで、最近の出没情報を確認すること。目的地周辺で出没が相次いでいる場合は、場所やタイミングを変更することも検討してください。

なぜなら夏は、クマの行動が活発になる季節だからです。そこには生態に関わる理由があります。

「6~7月の繁殖期は、雄グマが、雌グマを探して広範囲を移動します。この時期に、もっとも警戒すべきなのが『子連れの母グマ』です。

雄グマには、自分の子孫を残すために血縁のない子グマを排除して、母グマを再び発情させようとする習性があります。そのため、子育て中の母グマは周囲への警戒心がいっそう強くなり、我が子を守ろうとして、人間を脅威と判断すると攻撃してくることがあります」(山内准教授)

匂い対策を徹底したら、次に重要なのは「どこで遊ぶか」。クマと遭遇しにくい遊び場を選ぶことも、家族を守る大切な備えになります。

キャンプ場やバーベキュー場などアウトドア施設を利用する際は、管理者による対策、例えば「電気柵」の設置や、見通しをよくするための「草刈り」、「定期的な見回り」などがされているかをチェックしましょう。

「実際、クマが多数出没しているエリアでも、安全管理が行き届いたキャンプ場では被害はほとんど起きていません。

近くまで来てはいるようですが、適切に人の手で管理された領域であれば、クマは基本的に人間を嫌がって近づかないのです。また、川沿いはクマの通り道になりやすいため避けるのが賢明です」(山内准教授)

クマ対策の本質は「ここに人間がいる」ということをクマに正しく認知させ、クマから自発的に避けてもらうことにあります。その意味では、「静かにしなさい!」と注意したくなるような子どものうるささも、必ずしもマイナスではありません。

「クマは本来、臆病な動物です。実際、子どもの被害が比較的少ないのは、よく声を出していることも一因かもしれません」(山内准教授)

cocreco講談社cocreco

畑を横切るように残されたクマの足跡。輪郭が鮮明な場合は、最近の痕跡である可能性が高い。 写真提供:山内貴義

山の食べ物が減る8月は受難のとき

「クマに襲われケガ」「市街地にクマ出没」──連日のようにクマのニュースが報道されています。

環境省の速報値では、2025年度は人的被害238人(うち死亡13人)、出没件数5万801件(北海道を除く)で、いずれも2006年度の統計開始以降で過去最悪を更新(※1・※2)。個体数の増加と生息域の拡大により、今やクマは山奥だけの話ではありません。

昨年は秋の事故が目立ちましたが、「実は、夏こそ気をつけるべき季節です」と、クマの生態を研究する岩手大学農学部の山内貴義(きよし)准教授は話します。

だからといって、クマを過度に恐れたり悪者扱いする必要はありません。大切なのは、クマの習性を知り、リスクを見極め、「正しく恐れる」こと。

夏休みのレジャーで、クマから我が子を守るための「失敗しない遊び場選び」や、「持っておきたい対策グッズ」、そして子どもに「必ず伝えておきたい鉄則」を伺いました。

子どもがうるさいと逃げていく?

命を守る「3つの対策グッズ」と正しい使い方

キャンプのNG お菓子やゴミの放置がクマを呼ぶ

さらに8月のクマは、空腹状態にあります。

「8月は、葉が硬くなるなど山の食べ物が減るため、常に腹を空かせた彼らは、エサを求めてより広い範囲を動き回るようになります。トウモロコシやスイカなど、農作物の被害が増えるのもこの時期ですね」(山内准教授)

そこへ格好の相手として現れるのが、食材やお菓子、ゴミを無防備に放置するレジャー客です。

cocreco講談社cocreco

野生下のツキノワグマ。本来クマは警戒心が強く、人を積極的に襲う動物ではない。基本的には人を避けて生活している。 写真提供:山内貴義

cocreco講談社cocreco

ホイッスルは、クマとの遭遇を防ぐだけでなく、万が一の遭難や緊急時に自分の居場所を知らせるアイテムとしても有効。 写真提供:山内貴義

走って逃げると反射的に追いかけてくる

●山内貴義(やまうち・きよし)

岩手大学農学部 地域環境科学科准教授(野生動物管理学研究室)。農学博士。クマをはじめ大型野生哺乳類の生態や、人と野生動物が共存するための科学的根拠に基づく保護・管理手法を研究。明治大学農学部卒業後、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。岩手県環境保健研究センター主任研究員を経て現職。

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ