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「うちは都心だからクマ出ないよ」は間違い!? “アーバンベア”急増の理由と実態を子どもに教えるには?[専門家が警告]

  • 2026.8.7

首都圏に出没も時間の問題!?

エサへの執着心と大食漢な理由

クマを正しく知ってもらうために

「クマが凶暴化」「“アーバンベア”出現」と、センセーショナルな報道を目にする昨今。夏休みのキャンプや渓流遊びに不安を覚える保護者も多いはずです。

しかし、20年以上クマの生態を研究してきた山内貴義准教授は、「クマ自身は何も変わっていない」と言い切ります。むしろ変わったのは「人間側」であり、私たちの日常や地域社会の変化こそが、人とクマの遭遇を増やしているといいます。

「クマは本当に悪者なのか?」野生動物や自然との向き合い方について、子どもといっしょに考えてみませんか?

「アーバンベア」急増の背景にある人間の社会問題 >

ここで見逃せないのは、クマの学習能力の高さです。

「人里に放置された柿や栗などの果樹や農作物、屋外に置かれた生ゴミなどの味を一度覚えてしまうと、『人里=エサ場』と学習し、同じ場所へ何度もやってきます。山で木の実などを食べるよりも、栄養効率もいいですよね。さらに、人里に出入りするうちに、人間や車などに慣れてしまう『人馴れ』が進むことも問題です」(山内准教授)

こうしたクマの中には、河川敷や草木が生い茂る場所を移動ルートとして行動範囲を広げ、市街地まで入り込む個体も現れます。

「人に危害を加える個体は、やむを得ず駆除しなければならない。しかし、駆除は根本的な解決にはなりません。まずは『人里に依存するクマをつくらないこと』こそ、私たち人間の重要な役割なのです」(山内准教授)

果樹や野菜畑を放置しない、生ゴミを適切に管理する、草刈りをして見通しをよくする──。こうした地道な取り組みが、人里に依存するクマを生まないことにつながります。

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草むらの茂みから顔をのぞかせるクマ。ただ恐れるのではなく、適切な距離を保つためにはどのような対策が必要なのだろうか。 写真提供:山内貴義

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本来は人を避けるクマが、自ら人里へ下りてくるほど食べ物に強く執着するのには、肉食獣を祖先にもつクマならではの理由がある。 イメージ写真:アフロ

●山内貴義(やまうち・きよし)

岩手大学農学部 地域環境科学科准教授(野生動物管理学研究室)。農学博士。クマをはじめ大型野生哺乳類の生態や、人と野生動物が共存するための科学的根拠に基づく保護・管理手法を研究。明治大学農学部卒業後、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。岩手県環境保健研究センター主任研究員を経て現職。

日本に生息するクマは、本州と四国に分布する「ツキノワグマ」と、北海道に分布する「ヒグマ」の2種です。

一年のサイクルはほとんど同じで、11月下旬~3月ごろは冬眠と出産、6~7月ごろは繁殖期、9~11月ごろは冬眠に備えて食欲が増す飽食期に当たります。

「毎月のように目撃ニュースを見るけれど、冬眠中以外はいつも危険なの?」と思うかもしれません。これは、クマの「体の構造」に理由があります。

「クマは植物を中心に食べる雑食ですが、実は植物の消化率がものすごく悪いんです。シカやカモシカなどは、食べた植物を何度も反芻(はんすう)してゆっくり栄養を吸収できます。

しかしクマは、山ブドウを食べたら実の形のままフンに出てきてしまうほど消化が苦手。腸の長さも肉食獣並みに短いんです」(山内准教授)

そのため、クマは活動している間、ほぼ休むことなく食べ物を探し続けています。食べ物への執着が強いのは、大きな体を維持するため、食べ続けなければ生きていけないからです。

「山のエサが不足すると、生きるために農作物や果樹を求めて人里まで行動範囲を広げます。ただし、このようにクマが人里へ現れること自体は、昔から決して珍しいことではありませんでした」(山内准教授)

では、なぜ近年になって、人里ひいては市街地での人身被害や目撃情報がこれほど増えているのでしょうか。

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クマの毛皮に寝転び、その大きさを体感。「子どもたちはクマの生態を知ることで、人間が適切に対処すれば、そんなに怖い動物ではないということを理解してくれます」(山内准教授) 写真提供:山内貴義

山で暮らすクマの本来の姿は、大人にもあまり知られていません。山内准教授が講演会などで山のクマの映像を見せると、「動物園のクマですよね?」という反応が返ってくることもあると言います。

「思った以上に、『人を襲う恐ろしい動物』という印象を持つ人が多いですね。しかし、ほとんどのクマは山の中で木の実を食べたりして平和に暮らしています」(山内准教授)

クマは人身被害をもたらすこともありますが、木の実の種子を運び、豊かな森を育む役割も担う、森の生態系に欠かせない存在でもあります。

「クマの問題は、クマだけの問題ではありません。人口減少や高齢化による耕作放棄地の増加、里山の荒廃、農業や林業の担い手不足など、人間社会の変化が背景にあります。

クマはその変化に適応しているだけで、むしろ人間の側が対応できていない。だからこそ、野生動物対策だけではなく、農業や林業、まちづくりも含めた『日本全体の課題』として考えていかなければ、根本的な解決にはならないと思います」(山内准教授)

「クマが悪い」で終わらせるのではなく、「なぜそうなったのか」を考えること。その視点は、子どもたちが自然や野生動物とのこれからの付き合い方を、学ぶきっかけにもなるはずです。

取材・文/稲葉美映子

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クマの足裏や頭骨などの標本に触れ、その体のつくりを学ぶ子どもたち。「私が話している間も、早く実物に触りたくてうずうずしているのが伝わってくるほどです(笑)」(山内准教授) 写真提供:山内貴義

山内准教授は、岩手県内の小学校で、ツキノワグマ防除対策の出前授業を続けています。クマの生態や身を守る方法を伝えるだけでなく、毛皮や頭骨、ツメの標本に実際に触れてもらい、クマを身近に感じる機会も設けています。

「子どもたちは『思ったより毛が厚い』『ツメが鋭い』と驚きます。ただ怖がらせるのではなく、クマを正しく知ることで、『出会わないためにはどうしたらいいか』を自分で考えられるようになるんです」(山内准教授)

かつては、人が農業や林業を営み、草刈りなどで里山を管理することで、「山」と「人里」の境界が保たれていました。しかし、人口減少や高齢化によって、その境界は曖昧(あいまい)になりつつあります。

「手入れされない土地が増えたことで、クマは人里へ近づきやすくなっています。地域によっては人と野生動物のパワーバランスが逆転しているところもあります」(山内准教授)

「そうは言っても、都会には関係のない話」と思うかもしれません。しかし、将来的に東京の立川市や府中市といった、これまで出没してこなかった首都圏の都市部にまでクマが進出してくるという説は、専門家の目から見ても決して否定できない現実味があるといいます。

「青梅や高尾山周辺にはクマが生息しています。八王子も、山を切り開いて宅地開発された街ですから、地形的にはクマが出没しても全くおかしくない場所なのです。

一帯を流れる多摩川の河川敷は樹林化が進んでいます。クマは河川敷や森づたいに移動するため、一晩で数十km移動することも決して珍しくありません。

GPSでクマの位置を調査すると、被害報告がまったくないエリアでも、夜間のうちに人里近くの河川沿いなどを普通に行き来しているんですよね。気づいていないだけで、彼らは常に私たちの背後にいると考えていいでしょう」(山内准教授)

「ある意味、クマの行動はまったく異常ではない、ということですよね」という問いかけに、山内准教授はうなずきます。

「『アーバンベア』と聞くと、まるで新種の恐ろしいクマが現れたように思われますが、クマ自体は変わっていません。アメリカの研究者の間では『野生動物の問題は、いかに人間をコントロールするかという問題だ』とよく言われます。

人里に依存するクマをつくったのは、人間が原因であることも多いのです。クマだけを悪者にしていては、本当の原因は見えてこないでしょう」(山内准教授)

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