1. トップ
  2. カルチャー・教養
  3. 子どもの「根拠のない自信」が学習を伸ばす説、実は”統計の錯覚”だった

子どもの「根拠のない自信」が学習を伸ばす説、実は”統計の錯覚”だった

  • 2026.8.7
「根拠のない自信」が子どもの学習に影響を及ぼさなかった / Credit:Canva

「自分ならできる」と信じることは、子どもの成長や学習を後押しするように思えます。

実際、これまでの研究では、自分の能力を実際以上に高く見積もる子どもほど、学習課題で有利になる可能性が指摘されてきました。

しかし北京師範大学(Beijing Normal University)の研究チームが過去の研究を再検証したところ、記憶課題で報告されていた優位は、子どもの自信そのものではなく、参加者の分け方と「平均への回帰」が生み出した統計上の錯覚だったことが示されました。

研究成果は2026年7月1日付で学術誌『Psychological Science』にオンライン掲載されています。

目次

  • 「自信過剰な子どもほど学習に有利」という説を再検証
  • 最初の成績が低い子どもほど「伸びた」ように見えていた

「自信過剰な子どもほど学習に有利」という説を再検証

幼い子どもは、自分の能力を実際より高く見積もる傾向があります。

たとえば、実際には数個しか覚えられなくても、「もっとたくさん覚えられる」と予想することがあります。

ここでいう自信過剰とは、性格として自信が強いことではなく、「覚えられると予想した数」が実際の記憶成績を上回ることです。

こうした自信過剰は、自分の能力を正確に把握できていない状態ともいえます。

しかし一方では、「自分ならできる」と思えるからこそ、失敗を恐れず課題に挑み、粘り強く続けられる可能性もあります。

この考えを後押ししたのが、2007年に発表された子どもの記憶学習に関する研究でした。

その研究では、過信の程度が高い子どもほど、記憶課題を繰り返した際の成績変化が良好に見えました。

そこで、実力以上の自信が課題への積極性を高め、学習に役立つのではないかと考えられたのです。

しかし、この結果は広く引用されてきた一方で、再現研究は報告されていませんでした。

そこで北京師範大学の研究チームは2007年の研究を再現し、追試、コンピューターシミュレーション、実験的な介入という3段階で、自信過剰に本当の学習効果があるのかを検証しました。

研究1では、6~8歳の子ども30人が、絵と名前が書かれたカードを覚える課題に取り組みました。

カードは18枚ずつ5つのリストに分けられ、子どもたちは各リストを覚える前に「何個思い出せると思うか」を予想しました。

研究者らは、最初の予想から実際に思い出せた数を引いて過信の程度を求め、子どもたちを高過信群と低過信群に分けています。

研究2では、異なる条件を設定した4種類のモデルを使い、それぞれ1000人分の仮想データを作成しました。

そして、自信過剰に学習効果がない場合でも、従来と同じ分析によって群の差が現れるかを調べました。

研究3では、6~8歳の子ども64人を無作為に2群へ分けています。

子どもたちは、「記憶力を判定する装置」だと説明された機器を装着し、一方は「記憶力が優れている」、もう一方は「記憶力が低い」という偽の評価を受けました。

その結果、研究1では従来の結果が表面的に再現されたものの、研究3で子どもの自信を実験的に変化させても、2群の記憶成績の変化に差はありませんでした。

ではなぜ、このような結果になったのでしょうか。

その仕組みを次項で詳しく見ていきます。

最初の成績が低い子どもほど「伸びた」ように見えていた

研究1では、高過信群のほうが、低過信群よりも課題を通じた成績の低下が小さくなっていました。

しかし詳しく調べると、高過信群は最初の記憶成績が低く、後半の成績では2群に明確な差がありませんでした。

つまり、高過信群が優れた成績へ伸びたのではなく、最初の成績だけが低かったため、その後の変化が良く見えていたのです。

この偏りは、子どもを2つの群に分ける方法によって生じました。

研究では、「覚えられると予想した数」から「最初に実際に思い出せた数」を引き、その差が大きい子どもを高過信群に分類していました。

そのため、同じ10個を覚えられると予想した場合でも、実際に4個しか思い出せなかった子どもは、8個思い出せた子どもより過信の程度が高いと判定されます。

つまり、最初の成績が低い子どもほど、高過信群に入りやすい仕組みになっていたのです。

さらに、ここへ「平均への回帰」と呼ばれる現象が加わります。

テストの成績には、本人の能力だけでなく、その日の集中力や偶然の揺れも影響します。

そのため、最初にたまたま極端に低い成績を取った人は、次の測定では普段に近い成績へ戻り、成績が上がったように見えやすくなります。

反対に、最初に偶然よい成績を取った人は、次には成績が下がったように見えやすくなります。

今回の方法では、最初の成績が低い子どもを高過信群へ集めたうえで、その同じ成績を基準に後の変化を測っていました。

その結果、自信過剰に本当の効果がなくても、高過信群のほうが改善したり、成績の低下が小さかったりするように見えたのです。

研究2でも、自信過剰に学習効果がないと仮定したモデルを従来の方法で分析すると、同じ見かけ上の優位が現れました。

さらに研究3では、偽の評価によって子どもの自信を変えることには成功しましたが、実際の記憶成績の変化には差がありませんでした。

それにもかかわらず、子どもたちを従来の方法で分類し直すと、自信過剰が有利に見える結果が再び現れました。

このことから研究チームは、過去に報告された学習上の優位は、自信過剰の本当の効果ではなく、分析方法によって生じたものだと結論づけています。

ただし研究チームは、「子どもを励ましても意味がない」「楽観的であっても無意味だ」と言っているわけではないことを強調しています。

ちなみに、この研究には限界もあります。

対象は6~8歳の子どもによる短期的な記憶課題であり、長期的な学校成績や挑戦する意欲、運動や創造的な活動への影響までは分かりません。

今後は、異なる年齢や課題、より長い期間を対象に、自信が行動や学習へ与える影響を確かめる必要があります。

今回示されたのは、能力を実際以上に高く思わせるだけでは、記憶成績の向上にはつながらなかったということです。

子どもを励ますときには、能力を誇張するのではなく、本人の努力や工夫、実際の進歩に目を向けることが大切でしょう。

参考文献

Inflated confidence may not give children a learning advantage after all
https://phys.org/news/2026-08-inflated-confidence-children-advantage.html

元論文

Does Overconfidence Really Confer Adaptive Benefits to Children’s Learning?
https://doi.org/10.1177/09567976261455283

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ