1. トップ
  2. ヘルスケア
  3. 「塗るマグネシウム」で疲労回復は嘘?SNSの噂と経皮吸収の真実を化粧品メーカー研究員が解説

「塗るマグネシウム」で疲労回復は嘘?SNSの噂と経皮吸収の真実を化粧品メーカー研究員が解説

  • 2026.8.7

最近SNSで話題の「塗るマグネシウム(塩化マグネシウム配合化粧品)」。
「塗ると疲れが取れる」「睡眠の質が上がる」「頭痛や足のつり(こむら返り)が消えた」など、さまざまな体験談が発信されています。
しかし、本当に肌から塗るだけでこのような健康効果が期待できるのでしょうか?
本記事では、現役の化粧品メーカー研究員であり、健康管理士でもある船木彩夏さんが、経皮吸収の仕組みや科学的根拠をもとに、「塗るマグネシウム」の真実と正しい向き合い方を解説します。

「塗るマグネシウム」とは?成分(塩化マグネシウム)の性質と製品の種類

「塗るマグネシウム」として販売されている製品には、塩化マグネシウムを油脂やワックスなどと組み合わせた、スキンケア用のバームやクリームがあります。
国内の代表的な製品は化粧品として販売され、「経皮マグネシウム」「塗るミネラル」などと紹介されています。
塩化マグネシウムは、化学式MgCl₂で表されるマグネシウム塩です。
マグネシウムは、私たちにとって必須のミネラルのひとつで、身近な成分でもあります。
例えば、豆腐づくりに使われる「にがり」も、塩化マグネシウムを多く含む海水由来のミネラル混合物です。
マグネシウム製品にはほかにも、硫酸マグネシウム七水和物が主成分で、入浴剤として人気のエプソムソルトがあります。
また、便秘薬として用いられる酸化マグネシウムは、腸内に水分を引き込み、便を軟らかくする医薬品です。
同じ「マグネシウム」でも、化合物の種類、使用量、体に取り入れる経路によって働きは異なります。

【栄養学の視点】マグネシウム不足の日本人は「塗って補う」べきなのか?

マグネシウムは、骨や歯の形成、酵素反応、エネルギー産生、神経や筋肉の働きに関わる必須ミネラルです。
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」の推奨量は、成人男性で1日330~380mg、成人女性で280~290mgです[1]。
令和6年国民健康・栄養調査では、20~40代の平均摂取量は男性で226~243mg、女性で199~211mgとなっており、各年代の平均値は推奨量を下回っています[2]。
そのため、現代の日本人には、マグネシウムを十分に摂れていない人が多い可能性があるとはいえます。
ただし、摂取量が推奨量を下回ったことと、医学的なマグネシウム欠乏症であることは同じではありません。
また、「マグネシウムが不足しがちだから皮膚に塗って補えばよい」といえるわけでもありません。
経口摂取と経皮吸収には大きな違いがあります。

【研究員の検証】角層のバリア機能と経皮吸収の真実:マグネシウムは血中まで届く?

皮膚の最も外側にある角層には、外部の物質を体内に入りにくくするバリア機能があります。
マグネシウムは水中では電荷を持つイオンになります。
その一部が毛穴や毛包などを通る可能性までは否定できませんが、健康な皮膚から吸収され、全身作用を示すほど血中に移行するかどうかは、別に検証する必要があります。
実際、マグネシウムクリームを25人の皮膚に2週間塗布した小規模試験では、参加者全体でみると、血清および尿中マグネシウムに偽クリームとの有意差は認められませんでした[3]。
つまり現時点では、
・皮膚からまったく入らないとは断言できない
・しかし、マグネシウム不足を補えるほど吸収されるとは証明されていない
と考えるのが妥当です[4]。

疲労回復・睡眠改善・頭痛・・・「塗るマグネシウム」の噂に医学的根拠はある?

さまざまな効果が期待され、口コミなどでも報告されている塩化マグネシウム配合化粧品。
しかし、残念ながら、
・疲労が回復する
・睡眠の質が向上する
・頭痛が改善する
・足のつりを予防する
・発毛を促す
・白髪を予防する
といった効果を裏付ける、質の高い臨床的根拠は現時点では確認できません。
2025年に発表された無作為化二重盲検試験においても、運動の前後に市販のマグネシウムジェルを塗布した場合、プラセボのジェルと比べ、筋肉・筋力低下・筋損傷や炎症の指標は改善しませんでした[5]。
また、マグネシウムの経口摂取については、睡眠などとの関係を調べた研究があります。
しかし、経口摂取に関する研究結果を、バームとして皮膚に塗った場合にそのまま当てはめることはできません。
もちろん、「塗ったら頭痛が消えた」という体験談も、本人が嘘をついているといいたいわけではありません。
ただし、
・自然に治まるタイミングだった
・休息を取った影響
・首やこめかみをマッサージした影響
・香りや使用感によるリラックス
・効果への期待(プラセボ効果)
などが考えられるため、塩化マグネシウムの効果を証明するものとはいえないのです。
特に頭痛や強い筋肉痛を「マグネシウム不足」と自己判断すると、ほかの原因を見逃したり、適切な受診が遅れたりする可能性があります。
不調が続く場合は、自己判断せず、医療機関にご相談ください。

なぜ「塗ると肌が潤う」と感じるのか?コスメコンシェルジュが教える化粧品本来の魅力と限界

塩化マグネシウム配合バームやクリームを塗り、肌がしっとりしたと感じることは不思議ではありません。
製品にはシア脂、植物油、ミツロウなどの油性成分が配合されています。
これら油性成分には、皮膚表面を覆い、水分の蒸散を抑える一般的なエモリエント効果が期待できます。
また、マグネシウムを多く含む死海の塩水に腕を浸した研究では、アトピー性乾燥肌の人で皮膚水分量やバリア機能の改善が報告されています[6]。
ただし、これは複数のミネラルを含む塩水への入浴試験による結果であり、塩化マグネシウムを含む化粧品にも同様の効果があるとの断定はできません。
また、化粧品には効能効果の範囲が定められており、
・肌にうるおいを与える
・肌を整える
・皮膚を保護する
・皮膚の乾燥を防ぐ
・頭皮・毛髪を健やかに保つ
といった効能表現が認められています[7]。
ただし、これらは化粧品全般に認められている表現であり、塩化マグネシウムという成分自体に、これらすべての効果が実証されているという意味ではありません。
しかし、化粧品にはSNSで報告されているような、
・疲労回復
・睡眠改善
・頭痛改善
・筋肉痛予防や改善
といった効能は含まれていないことも重要なポイントです。

【危険】手作り「DIYマグネシウム化粧水」や「にがり代用」をおすすめしない理由

SNSでは、市販の化粧水に塩化マグネシウムの粉末を混ぜ、顔や頭皮、全身に使用する方法も紹介されています。
しかし、自己流では濃度を正確に管理できず、塗布部位や肌状態によって刺激やヒリつきが起こる可能性があります。
また、完成品の化粧水に別の成分を加えると、メーカーが保証する品質や安定性の範囲外になります。
食品用のにがり、入浴用のマグネシウムフレーク、化粧品原料では、それぞれ品質規格や想定用途も異なります。
「天然だから」「食品にも使えるから」という理由だけで、顔や頭皮に混ぜて使用することは避けましょう。

【まとめ】マグネシウムは「塗る」から「食べる」へ!正しく楽しむスキンケアと食生活の見直し

マグネシウムを補いたい場合は、穀類、豆類、種実類、野菜、海藻などを食事に取り入れるのが基本となります[1]。
塩化マグネシウム配合化粧品を、保湿用・マッサージ用の化粧品として使用感を楽しむことまで否定する必要はありません。
しかし、マグネシウムが重要な栄養素であることと、肌に塗れば全身の不調が改善することは別の話です。
「マグネシウムは不足しがちだから、塗って補給しよう」
ではなく、
「不足が気になるなら、まず食生活を見直す」
ことが大切。
話題の商品ほど、成分の一般的な働きと、その製品で実証された効果を分けて考えたいですね。

参考文献:
1.厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書 [Internet]. 東京: 厚生労働省; 2024 [cited 2026 Jul 28]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001316585.pdf
2.厚生労働省. 令和6年国民健康・栄養調査報告 [Internet]. 東京: 厚生労働省; 2026 [cited 2026 Jul 28]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/content/001675217.pdf
3.Kass L, Rosanoff A, Tanner A, Sullivan K, McAuley W, Plesset M. Effect of transdermal magnesium cream on serum and urinary magnesium levels in humans: a pilot study. PLoS One. 2017;12(4):e0174817. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0174817
4.Gröber U, Werner T, Vormann J, Kisters K. Myth or reality-transdermal magnesium? Nutrients. 2017;9(8):813. https://doi.org/10.3390/nu9080813
5.Coates AM, Patel DV, Binet ER, Gibala MJ. No effect of topical application of a commercial magnesium gel on exercise recovery in active individuals. Int J Sport Nutr Exerc Metab. 2025;35(5):416-423. https://doi.org/10.1123/ijsnem.2025-0034
6.Proksch E, Nissen HP, Bremgartner M, Urquhart C. Bathing in a magnesium-rich Dead Sea salt solution improves skin barrier function, enhances skin hydration, and reduces inflammation in atopic dry skin. Int J Dermatol. 2005;44(2):151-157. https://doi.org/10.1111/j.1365-4632.2005.02079.x
7.厚生労働省. 化粧品の効能の範囲の改正について(平成23年7月21日薬食発0721第1号) [Internet]. 東京: 厚生労働省; 2011 [cited 2026 Jul 28]. Available from: https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb7518&dataType=1&pageNo=1

[執筆者]


船木 彩夏
化粧品メーカー研究員

[出演情報]
2023.12.2 TBSラジオ:井上貴博 土曜日の「あ」

<資格>
・サプリメントアドバイザー
・健康管理士上級指導員
・健康管理能力検定1級
・日本化粧品検定 特級コスメコンシェルジュ

[監修]キレイ研究室編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ