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「果糖」が「がん転移」を促すと判明

  • 2026.8.2
果糖が「がん転移」を促す意外な要因かもしれない / Credit:Canva

果物や甘い飲料などに含まれる「果糖」は、私たちにとって身近な糖の一つです。

ところが今回、米ウィスター研究所(Wistar Institute)を中心とする研究チームは、この果糖が卵巣がん細胞の接着を弱め、がんが広がるきっかけを作る可能性を示しました。

研究成果は2026年7月30日付で学術誌『Nature Aging』に掲載されています。

目次

  • がんが広がる第一歩は「元の腫瘍から離れること」
  • 果糖が細胞膜を変え、腹腔内への播種を増やした

がんが広がる第一歩は「元の腫瘍から離れること」

がんの転移では、がん細胞が元の腫瘍から離れ、別の場所へ移動して新たな腫瘍を作ります。

今回対象となったのは、卵巣がんの中でも悪性度が高い「高異型度漿液性卵巣がん」です。

このがんは、がん細胞が腹腔内へこぼれ落ち、腹膜や腸、大網などに付着する「腹膜播種」という形で広がりやすい特徴があります。

このように、がん細胞が周囲との接着を失い、腫瘍の塊から離れていく現象が、がんが腹腔内へ広がる重要な第一歩なのです。

そして卵巣がんには、細胞のDNAを傷つけるプラチナ製剤による化学療法が広く使われます。

その結果、治療を受けたがん細胞の一部は死なず、裂を長期間止めた状態(細胞老化)になることがあります。

これは分裂を止めても活動が完全に終わるというわけではなく、周囲へさまざまな物質を放出してしまいます。

今回研究チームは、こうした細胞が出す物質が、近くに残ったがん細胞の接着を弱めているのではないかと考えました。

そこで卵巣がん細胞に、プラチナ製剤の一種であるシスプラチンを与えて分裂を止め、その細胞を増殖可能ながん細胞と一緒にマウスの腹腔内へ移植しました。

さらに、分裂を止めた細胞を培養した液だけを回収し、がん細胞を移植した別のマウスへ週3回投与しました。

これにより、細胞そのものではなく、細胞が放出した物質だけでも影響が出るかを確かめたのです。

その結果、培養液だけでもお腹の中でがんのかたまりが増えました。

一方、がん細胞の増え方や死にやすさには大きな変化はなく、主に細胞同士のくっつきが弱くなり、はがれやすくなっていました。

さらに原因を詳しく調べると、重要な物質として果糖が見つかりました。

果糖がどのように細胞のくっつきを弱めたのか、次で詳しく見ていきましょう。

果糖が細胞膜を変え、腹腔内への播種を増やした

調べてみると、分裂を止めたがん細胞の培養液では、ブドウ糖が減る一方、果糖が増えていました。

そして通常の培養液に果糖を加えるだけでも、卵巣がん細胞の脱離は増えました。

また果糖を利用するために必要な酵素の働きを抑えると、この変化は起こりにくくなりました。

つまり、果糖がそこにあるだけでなく、がん細胞が取り込んで代謝することが重要だったのです。

加えて、果糖を利用したがん細胞では、細胞内でエネルギーを作るミトコンドリアの働きが高まり、その先でコレステロールを作る仕組みが抑えられました。

コレステロールは血液中に多すぎると問題になりますが、細胞にとっては細胞膜を保つ大切な材料です。

細胞膜のコレステロールが減ると、細胞同士や周囲の組織との接着が弱まり、がん細胞が腫瘍の塊から脱離しやすくなります。

実際、コレステロールを補うと脱離は減り、反対にコレステロール合成を妨げると脱離が増えました。

これらの結果から、果糖の代謝やコレステロールの仕組みが、がんの広がりに関わる可能性が示されました。

さらに研究チームは、食事由来の果糖についても調べるため、研究チームはマウスの飲み水に30%濃度の果糖を加えました。

すると、同じ濃度のブドウ糖を与えた群より腹腔内の腫瘍のかたまりが増加。

逆に、がん細胞が果糖を利用できないようにすると、この増加は抑えられました。

患者の血液を調べた分析でも、血中果糖が高い人ほど診断時の病期が進んでいる傾向がありました。

つまり、私たちにとって身近な「果糖」が、がんの転移を促進する意外な要因かもしれないのです。

それでも今回の研究にはいくつか限界があり、果糖を控えることで患者の転移や再発を防げるかは、今後の臨床研究で確かめる必要があります。

そして今後研究チームは、膵臓がんや大腸がん、肝臓がんでも同じ仕組みが働くかを調べる予定です。

参考文献

Wistar Scientists Identify Fructose as a Surprise Driver of Cancer Spread
https://www.wistar.org/press-releases/wistar-scientists-identify-fructose-as-a-surprise-driver-of-cancer-spread/

元論文

The chemotherapy-induced senescence-associated secretome promotes cell detachment and metastatic dissemination through metabolic reprogramming
https://doi.org/10.1038/s43587-026-01172-5

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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