1. トップ
  2. カルチャー・教養
  3. 美容施術経験者の5人に1人が依存リスク――SNSが美のゴールポストを動かす

美容施術経験者の5人に1人が依存リスク――SNSが美のゴールポストを動かす

  • 2026.7.31
美容施術経験者の5人に1人が依存リスク――SNSが美のゴールポストを動かす
美容施術経験者の5人に1人が依存リスク――SNSが美のゴールポストを動かす / Credit:Canva

イスラエルのエルサレム・ヘブライ大学(HUJI)などで行われた研究により、イスラエルの成人女性1614人を調べたところ、美容施術を受けたことのある人の20%が生涯で中程度から重度の依存リスクに該当することが分かりました。

この数字を出すために使われたのは、なんと薬物依存の問診票でした。

研究者たちがやったのは「薬物」の部分を「美容施術」に入れ替えただけ。

論文は、この結果を「懸念すべきもの」と評しています。

なぜ、私たちが軽く考えている美容施術が、薬物と同じ形の「依存」のサインを見せるのでしょうか?

研究内容の詳細は、心理学の学術誌『Journal of Health Psychology』にて発表されました。

目次

  • 街のなかに、依存は何人いたのか
  • 美容施術の依存に結びつくもの
  • なぜSNSは美容施術の依存リスクと結びつくのか?

街のなかに、依存は何人いたのか

街のなかに、依存は何人いたのか
街のなかに、依存は何人いたのか / Credit:Canva

写真に写った自分の顔を見て、あれ、と思ったことはありませんか。

普段は自分の顔なんて意識していないのに、写真に写った瞬間だけは、目が勝手にあの一点へ行く。目尻の線。あごのライン。「ここ、ちょっと気になるな」。

その気持ちは、たぶん誰の中にもあります。

そして今は、それに応えてくれる場所が、驚くほど近くにあります。切らずに済む注射なら、昼休みに寄って、その日のうちに職場へ戻れてしまいます。

こうした美容施術の幅広い利用は、2019年から2023年にかけて、世界でおよそ40%増えました。

これだけ増えれば、現場の空気も変わります。

美容クリニックなどの現場で、心の専門家たちは、ある時期から奇妙な影に気づきはじめました。一部の人が、どう見ても依存のように見える状況に陥っていたのです。

2021年、アメリカの研究者たちが薬物依存を診断するための問診票を持ってきて、そこに書かれた「薬物」という単語を、そっくり「美容施術」に置き換えたものを作りました。

そしてその問診票を、美容皮膚科クリニックを訪れた人たちに答えてもらったのです。

すると、6.6%が中程度から重度の依存リスクに該当することがわかりました。

しかしクリニックにいるのは、すでに自分で美容施術のためのドアを開けて入ってきた人たちです。

つまりわかったのは「クリニックに来た人のなかに、依存に似た状態の人がいるらしい」ということでした。

しかし、電車で隣に座っている人、職場のフロアですれ違う人――あの人たちのなかに何人いるのかは、十分には調べられていませんでした。

そこで今回研究チームは、その問診票を街に持ち出すことにしました。

調査に当たっては、イスラエルの1614人の成人女性たちが集められ問診票に答えてもらいました。

この集め方には工夫がされており、年齢や信仰のあり方などが、イスラエルに住むユダヤ系の成人女性の、いわば縮小版になるように調節がなされていました。

すると、全体(1614人)のうち、過去1年で6.8%が中程度から重度の依存リスクの線を越えていることがわかりました。

過去にイスラエルの女性を対象にした別の調査では、ギャンブル依存が2.6%、ゲーム依存が2.9%であることが報告されています。

この結果は美容施術に対する依存が、すでに社会が「これは危ない」と認めている二つの、倍以上の率に達している可能性を示しています。

さらに過去に施術を受けたことのある人(710人)に限ると、中程度から重度の依存リスクの線を越えている人の割合は20%にまで達することがわかりました。

しかし、何が彼女たちをそこまで駆り立てていたのでしょうか?

美容施術の依存に結びつくもの

美容施術の依存に結びつくもの
美容施術の依存に結びつくもの / Credit:Canva

「美容施術がやめられなくなるのは、自分に自信がないからだ」というのはよく聞く話です。

しかし今回の研究では、美容施術の依存がそんな単純な問題ではないことが示されました。

研究者たちが参加者を詳しく分析したところ、「自分の外見への満足度」「外見とは別の、人間としての自分への自信」「困ったときに支えが得られるという確信」「老いへの恐れ」「問題のあるSNS利用(SNSへののめり込み)」「フェミニズム意識の低さ」という6項目の多くが、美容施術の依存との関連をみせていたことが示されました。

しかし研究者たちは、6項目のすべてが、それぞれ単独で効いているとは考えませんでした。

理由は、彼らが互いに深く絡んでいるからです。

自分に自信がない人は、たいてい見た目にも自信がありません。

孤独な人は、SNSに長くいる傾向があるからです。

そこで「AだからBにもなる」という連鎖を統計学の力で解きほぐしていきました。

結果、「自分の外見への満足度」「SNSへののめり込み」「フェミニズム意識の低さ」が、依存と独自の関連を持つ要因として残りました。

ただ「フェミニズム意識」については関連が弱く、研究者自身も測り方に限界があったことを認めています。

そこで、はっきりした関連が出た「自分の外見への満足度」と「SNSへののめり込み」の2つに絞って、分析を進めることにしました。

参加者をSNSからの距離が遠い人と近い人にわけて、それぞれ「自分の外見への満足度」と組み合わせた時に依存リスクがどうなったかを調べたのです。

すると、SNSから遠い人は「自分の外見への満足度」が高かろうと低かろうと、依存リスクとの関連は見られませんでした。

一方でSNSに近い人は「自分の外見への満足度」が低い人ほど、依存リスクが目に見えて高くなっていくことがわかりました。

なぜSNSは美容施術の依存リスクと結びつくのか?

なぜSNSは美容施術の依存リスクと結びつくのか?
なぜSNSは美容施術の依存リスクと結びつくのか? / Credit:Canva

なぜSNSは美容施術の依存リスクと結びつくのでしょうか?

研究者たちは論文の中で、SNSが次のような形で依存を後押しする可能性を挙げています。

1つ目は「SNSが自分の体への不満を、育てる」ということです。

不満は、放っておけば、ただの不満です。仕事や食事や眠気に紛れて、薄れていきます。ところがSNSを開くと、そこには終わりのない人の顔が流れています。しかも、流れてくる顔は全員、最良の一枚です。最良の角度、最良の光、最良の加工を通った顔。

そうすると不満は、薄れる機会を失います。

それどころか、比べる材料を毎日届けられることになってしまいます。

2つ目は「SNSが人から見られる不安を、育てる」ということです。

SNSには、いいねがあり、コメントがあり、数字がついています。

見られることが、常に測られることにつながってしまうのです。自分の見た目が、その日ごとに点数をつけられているような感覚が続けば、外見への意識は張りつめたまま解けなくなっていきます。

3つ目は「SNSが何を美しいと思うか。その基準そのものを、書き換えていく」ということです。

これは非常に厄介です。

1つ目と2つ目は不満や不安を育てる作用がありました。

しかし3つ目は、不満や不安をはかる“ものさし”そのもの――つまり何を美しいとするかの基準――が変わってしまうことを意味します。

美の基準が時代とともに変わることを、私たちはとっくに知っています。平安時代の美人と、いまの美人は違う。太眉が流行れば、太眉が美しく見えてくる。それは、知っていました。

ただ、それを書き換えているのは「時代」という、自分の手の届かない、どこか遠くの大きなものだと思っていました。

ですが研究チームの見立てが正しければ、美の基準は時代のような何十年単位で動くのではなく、SNSという流行り廃りが激しい世界で急速に動き回っているのかもしれません。

そしてSNSに近い人たちは、顔や体という動かしにくいものを持ったまま、動き回る美の基準にも振り回されることになります。

白雪姫でたとえるなら、「鏡よ鏡」と問いかけると世界で一番美しい人を答える、あの魔法の鏡が、数か月ごとに判定基準を変えてしまうようなものです。
もしそんな鏡が相手なら、悪いお妃様は白雪姫を憎むより遥か前に、精神的に参ってしまったでしょう。

もっとも、今回の研究により美容施術の依存の原因が全て解明されたわけではありません。

今回の研究は統計分析による関連性を調べたものであり、依存についての脳科学的・神経科学的な原因を確かめたわけではありません。

また調査が行われたのもイスラエルに住むユダヤ系の女性だけで、男性についてはデータがありません。

それでも今回の研究は、依存に対する私たちのみかたを変える切欠になるでしょう。

私たちは長いあいだ、依存の原因を物質か人間性か、そのどちらかに求めてきました。

しかし今回の研究は人と環境の「あいだ」に、依存の入り口がひそんでいる可能性を示しました。

もしあなたが、SNSを閉じたあとに、鏡に映る自分の顔に不満が増していたなら、あなたの美の基準が揺らぎはじめた瞬間なのかもしれません。

元論文

Prevalence of addictive use of cosmetic procedures and risk factors among Israeli women
https://doi.org/10.1177/13591053261444719

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ