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9月公開予定の映画を手掛ける監督が初挑戦した【ネトフリドラマ】 “全9話”で女優の魅力を引き出した演出の妙

  • 2026.9.2
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出口夏希 (C)SANKEI

2023年にNetflixで配信された全9話のドラマ『舞妓さんちのまかないさん』は、『誰も知らない』、『万引き家族』、『ベイビー・ブローカー』のほか、9月11日公開予定の『ルックバック』などの映画の監督として知られる是枝裕和が、初めて手掛けたNetflix作品だ。

※以下本文には配信内容が含まれます。

野月キヨ(森七菜)と戸来すみれ(出口夏希)は、青森から舞妓になるために京都の屋形(舞妓置屋)にやってきた。
二人は住み込みで、日本舞踊や礼儀作法を学んでいたが、すみれが「百年にひとりの逸材」と期待される中、不器用なキヨはうまく覚えることができない。
そのため、女将の氷川梓(常盤貴子)から舞妓には向いていないと言われ、青森に帰されそうになるが、ある日、キヨはみんなのために親子丼を作り、好評だったことから、キヨは毎日のごはんを用意する「まかないさん」として働くことになる。

穏やかな時間の流れが心地よい写真集のようなドラマ

本作は、『週刊少年サンデー』で連載されていた小山愛子の同名漫画をドラマ化した、二人の少女の物語だ。

Netflixのドラマというと、『地面師たち』や『地獄に堕ちるわよ』のような、ショッキングな出来事が次々と起こる激しい物語という印象が強いが、『舞妓さんちのまかないさん』は真逆で、緩やかな時間の流れが描かれた静かなトーンの物語となっている。
本作を観ていて強く感じるのは、どのシーンも綺麗に撮られているということ。

舞妓や芸者の佇まい、キヨが作るおいしそうな料理、そして祇園の街並みも実に美しく、映像に見惚れてしまう。

そのため、写真集を見ているような気持ちになる。
もちろん、キヨとすみれの成長も描かれているのだが、あまりドラマチックにならないように盛り上がりは抑制されている。そのため、ドラマでありながら、綺麗な映像で撮られたドキュメンタリーを観ているような気持ちになる。

本作の総合演出・監督・脚本を務めた是枝裕和は、ドキュメンタリー番組の制作会社として定評のあるテレビマンユニオン出身で、様々なドキュメンタリー番組の制作に関わってきた。
そして、映画監督になった後も、ドキュメンタリーテイストの映画を多数撮っており、代表作の『誰も知らない』のような、実際に起こった事件に着想を得た映画もある。

また、是枝は子供の演出に定評があるのだが、これもドキュメンタリーを撮るように撮影しており、被写体の子どもたちの持つ素の魅力を引き出すことに成功している。

『誰も知らない』や『万引き家族』といったシリアスな社会問題を扱った重厚な作品の印象が強い是枝だが、これらの作品はドキュメンタリー番組が持っている社会問題にメスを入れるジャーナリズム的なアプローチで作られているため、国内外で高く評価されている。
一方、ドキュメンタリー的なアプローチで、美しい街と女優を撮ろうとした映画が『海街diary』だ。

本作は鎌倉で暮らす四姉妹の物語で、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずという人気女優が姉妹を演じた。
この4人が同じ画面に映ると映像が華やかになりすぎて、作品世界に集中できなくなりそうだが、4人は鎌倉で暮らす姉妹として完全に映画の中に溶け込んでいた。
ドキュメンタリー的な抑制された演出によって、他の映画やドラマでは観ることができない彼女たちの素の表情の魅力を引き出すことに、本作は成功していた。

『海街diary』で是枝が試みた演出を、全9話のドラマの中で展開したのが『舞妓さんちのまかないさん』だ。

女優の魅力を引き出す是枝裕和の演出

本作は森七菜と出口夏希のW主演となっている。
森が演じるキヨは普通の女の子で、華やかな舞妓、芸妓たちの中に彼女がいるからこそ、視聴者は安心して作品世界に没入することができる。 森七菜は平凡な女の子の感情を芝居に落とし込む感覚が突出しており、どのシーンも目が離せない。すみれを演じる出口夏希は、舞妓の持つ美しさを体現する存在で、みるみる綺麗になっていく。彼女が舞妓としてどんどん磨かれていき美しくなっていく姿は、本作の見どころだ。

二人を取り巻く屋形の女性たちもとても魅力的で、演じる女優の個性とマッチしている。

祇園で人気ナンバー1の芸妓・百子を演じる橋本愛は、カリスマ性を感じさせるクールな美女でありながら、後輩のキヨとすみれに優しい大人のお姉さんを見事に演じている。
対して、出戻りの芸妓・吉乃を演じる松岡茉優は、軽妙で明るい台詞回しの中に、したたかさと愛嬌が滲みでている。淡々とした落ち着いたトーンで進んでいく本作だが、彼女が登場すると画面が賑やかになるのが、観ていて面白い。

逆に、屋形の女将の高校生の娘・氷川涼子を演じる蒔田彩珠は、超然とした佇まいで全体を観察しており、時々、本質を突いた鋭い発言をする。
蒔田は是枝の作品に多数出演しているが、涼子のような冷静に全体を見ている少女を演じる機会が多い。
その意味でも、見事なハマり役だと言える。

もちろん、他の女優も全員魅力的に撮られている。
本作を観ていると是枝監督は女優の演出が、日本で一番上手いと感じる。
シリアスな社会派映画の印象が強い是枝監督だが、『舞妓さんちのまかないさん』を観ると、女優を魅力的に撮ることに特化した作品も、もっと撮ってほしいと思わせられる。


出典:Netflixシリーズ『舞妓さんちのまかないさん』公式HP より

ライター:成馬零一
76 年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に 『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレ ビドラマを更新する 6 人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』 (PLANETS)がある。

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