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「塩づくりを通して、日本の自給自足率を上げていく」を目標に、サステナブルな天日塩づくりを行う若き社長の壮大なプロジェクトとは?

  • 2026.7.30
内田さんが手がける天日塩の「月読」と「天照」
内田さんが手がける天日塩の「月読」と「天照」

「塩を通じて、日本という素晴らしい国を守る」という志のもと、持続可能な製塩事業を行うアークピースコーポレーション株式会社。17歳で起業し、名古屋市緑区で塩づくりを行う代表取締役の内田翔璃さんに、会社立ち上げの経緯や未来への想いについて聞いた。

日本が持つ課題点が見えてきました

内田さんが塩づくりに携わるきっかけとなったのは、11〜16歳のイギリス留学に端を発する。「学校は、文化も宗教も異なる世界中の国から生徒が集まっていました。とある授業で自国の魅力をアピールする機会があったのですが、友人たちに比べて日本の魅力をしっかりとアピールすることができず、それが悔しくて」と振り返る内田さん。

その後、コロナで一時帰国となり、時差の関係でオンライン授業は午前中のみに。午後は読書の時間に充てたという。「経済の本や歴史、食の本などたくさんの本を読むうちに、日本が持つ課題点が見えてきました。もともと自分の曽祖父が会社を経営していて、事業の一部として植物工場をやっていたことから農業にも興味があって。日本の食料自給率がカロリーベースで38%しかないことを知り、一次産業をやっていけたらいいと考えるようになりました」。

しかし、13歳でできることは限られているため、読んだ本を要約し、Instagramに投稿したところさまざまな経営者や投資家、起業家がフォローし始めたという。

「フォローしてくれた人たちに自分からDMを送って、インタビューしました。そのときに今の師匠となる、淡路島で塩づくりを行う山下さんと出会いました」。

イギリス留学時代の仲間と
イギリス留学時代の仲間と

自給率の問題をより一層意識するようになった

コロナが明けてイギリスに戻った内田さんは勉強を進める中で、日本の塩の自給率がわずか11%で、しかもそのうちの8〜9割に化石燃料が使われていると学んだ。「塩の年間消費量は800万トンといわれますが、その生産のうち食べるために使われる塩は10%。残りの約90%は工業製品などインフラに関わる資源として使われています」と話す内田さん。

「今、中東情勢でエネルギーが高騰していますが、万が一今後、身近で有事が起こり、シーレーンが封鎖されるとエネルギーだけではなく食料や塩の輸入が止まってしまう。それに危機感を感じて、まだイギリス留学中でしたが15歳で自分と同じ志を持つ山下さんのもとへ入り、海外営業部長としての活動を始めました。そこであらためて塩について学び、自給率の問題をより一層意識するようになりました」。

山下さんのもとでは英語が話せる強みを活かし、世界15カ国200名以上のミシュランシェフたちに塩を提案。味、粒の大きさなど各シェフたちの要望に合わせてオーダーメイドの塩を提供している。

淡路島で塩づくりを行う山下さん(右)。左は内田さん
淡路島で塩づくりを行う山下さん(右)。左は内田さん

また、山下さんのもとでの仕事と掛け持つ自社のアークピースコーポレーション株式会社では、南知多・師崎の海水から塩づくりを行っている。1週間に一度師崎へ行き、200リットルの水を手で汲んで持ち帰り、タンクで不純物を取り除いてからビニールハウス内に設えた黒い容器に入れて太陽熱だけで塩をつくる。

「初夏は60度、真夏は90度の中で塩をつくります。粒の大きさや形、浸透圧などさまざまな条件で味が変わるので、毎日手でもんで調整します」と話す内田さん。電力を使う脱水機は使用せず、釜炊きもしないので廃材燃焼によるCO2排出やダイオキシン発生もゼロ。環境負荷のない持続可能な塩づくりだ。

現在の生産量は年間200キロ前後だが、近い将来、年間10トンの生産量をめざす。「しかし、たとえ量が増えても、製法は変えません。手でつくることを大切に、可能な限り環境に配慮した塩を提供していきたいと思っています」。

師崎から手作業で運ぶ海水
師崎から手作業で運ぶ海水
塩の様子を見ながら作業を行う内田さん
塩の様子を見ながら作業を行う内田さん
丁寧に手でもんで塩の粒を整える
丁寧に手でもんで塩の粒を整える
粒が大きい「月読」と、小さい「天照」。調理法によって用途を変えるシェフが多い
粒が大きい「月読」と、小さい「天照」。調理法によって用途を変えるシェフが多い

泉大津市は内田さんの想いに共鳴

内田さんは山下さんら仲間とともに、日本の自給率を上げる取り組みの一環として、将来を担う子どもたちに「一次産業に興味を持ってもらいたい」と、兵庫県淡路市や大阪府泉大津市、小中学校の給食用塩の寄付を行っている。泉大津市は内田さんの想いに共鳴し、これから1年半以内に、子どもたちが塩づくり体験をできるよう、小中学校にビニールハウス建設を予定している。

また2024年に発生した能登地震のボランティアで「何か力になりたい」と能登町の全小中学校へ給食用の塩1年分を寄付している。

ほかにも、「人口流出を防ぎ、地方を活性化したい」という思いのもと、羽咋市や種子島、鎌倉市などで山下さんの技術を活用した製塩モデルを確立。新たな地方の雇用創出の支援も行っている。

活動は国内にとどまらず、海外でも展開。フィリピンの離島3島で塩の生産プロジェクトを立ち上げている。「フィリピンの一部地域ではスラムが多く、子どもたちはゴミ拾いをしても1日1円も稼ぐことができず、学校に通えない状況です。あちらのNPOと連携しながら、お金を稼げる仕組みづくりを行って、彼らが学校へ通えるようにしていきたいと考えています」と話す内田さん。今後も、開発途上国をメインに活動を広げる予定だ。

月に1回の割合で講演も行う
月に1回の割合で講演も行う
能登の復興支援で塩を寄付
能登の復興支援で塩を寄付
大阪・泉大津市へ学校給食用天日塩を寄付
大阪・泉大津市へ学校給食用天日塩を寄付
フィリピンの子どもたちと塩づくりを行う
フィリピンの子どもたちと塩づくりを行う

塩だけに及ばず、内田さんは南知多の耕作放棄地を活用してサトウキビの栽培も始めている。「南知多の役所で耕作放棄地問題を聞いて、サトウキビ栽培を行う決断をしました。昨今の温暖化で、栽培にも適していると考えています」。今年は約700苗を栽培し、11月には収穫を予定。黒糖にするほか、ゆくゆくはラム酒づくりも行っていくつもりだと内田さんはにこやかに話す。「塩、砂糖、酒の3本立てで一次産業を盛り上げていきたい。ほかの栽培も考えていきたいと思います」と内田さんは日本の未来を守るために、今後も多様な活動を展開し続ける。

すくすくと育つサトウキビ
すくすくと育つサトウキビ
【写真】持続可能な塩づくりに尽力する内田さん
【写真】持続可能な塩づくりに尽力する内田さん

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