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大嫌いだった父親の知らなかった一面。認知症をきっかけに見えてくる父親の素顔と、変わっていく親子関係を描いた実録コミックエッセイ【書評】

  • 2026.7.24

【漫画】本編を読む

この記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承の上、お読みください。

一緒に暮らしている家族が認知症と診断されると、これまでの生活は形を変え、そして記憶や感情、行動の変化に戸惑いながらどう接すればいいのか悩む場面が増えていく。『大嫌いだった父が認知症になった日』(鐘木ころも/竹書房)は、認知症になった父親と向き合った著者・鐘木ころも氏の苦悩と葛藤、そして変わっていく関係を描いたコミックエッセイである。

鐘木氏の父親は子どものころから優しく接してくれたことはなく、将来の夢も頭ごなしに否定してくるなど、彼女にとって苦手で嫌いな存在であった。そんな鐘木氏が20代後半のころ、父親が認知症と診断され、これまで厳格だった彼とは大きく変わり、鐘木氏は父親とどう接していけばいいのか迷い続ける。第2巻で描かれるのは、認知症が進むなかで起こる、より切実な出来事だ。ショートステイを嫌がる父親に振り回されたり、彼の急激な身体機能の低下にも直面したりする。本人の不安や怒り、家族の疲れ、どうにもならない思いが、日々のなかに重なっていく。

そんななか、これまで見えなかった父親の一面がところどころで顔を出すのだ。印象的なのは、父親の弟(叔父)が家を訪ねてきた場面である。お菓子をおいしそうに食べる父親を見て、「甘いもの苦手だろ?」と叔父は目を丸くする。子どものころ、父親は自分のお菓子を「嫌いだから」と弟にすべて渡しており、一度も口にしているところを見たことがなかったという。貧しい家庭で育った父親は、本当は食べたかったのに、弟に譲っていたのかもしれない。

そんな出来事から、厳しいだけと思っていた父親は、家族が気づかないところで一家を支えるために多くのものを胸にしまってきたのだろうと鐘木氏は思い至る。これまでの過去が消えるわけではないが、それでも残された時間が少なくなっていく状況で、今まで気づけなかった父親の優しさを心に刻んでおきたいという思いが芽生えていくのだ。

認知症がもたらした鐘木氏と父親との関係の変化は、不器用がゆえに素直になれない親子関係と、かけがえのない絆を見つめ直すきっかけになるかもしれない。

文=坪谷佳保

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