1. トップ
  2. エピソード
  3. 「結婚は考えられない」と別れを告げた俺→彼女の荷物に残した指輪ケース

「結婚は考えられない」と別れを告げた俺→彼女の荷物に残した指輪ケース

  • 2026.7.23
ハウコレ

本当のことは、最後まで声にできませんでした。だから俺は、声にできなかったものを1枚だけ、彼女の荷物の底に残してきたのです。伝える資格を、もうなくしたあとで。

上着の内ポケットに手を入れる癖が、別れてからも抜けません。少し前まで、そこにはいつも同じ重みがありました。彼女に渡すはずだったものを、俺は最後まで渡せずにいました。臆病さの言い訳を並べているうちに、すべてが手遅れになっていたのです。

指輪を選んだとき

あの指輪を選んだのは、付き合って半年が過ぎた頃でした。彼女と過ごす時間が、俺の中で当たり前になりはじめていました。隣で笑う彼女に、この先もそばにいてほしいと思ったのです。すぐにでも渡したいと思っていました。けれど、ふさわしい言葉も場面も見つけられないまま、季節だけが移っていきました。

遠ざかった理由

渡せないまま、俺のほうが先に怖くなっていきました。仕事は思うように進まず、彼女を本当に幸せにできるのかと、自分を疑うことが多くなりました。このまま縛りつけるより、身を引いたほうが彼女のためになる。そう思い込んだ俺は、別れ話の場で「結婚なんて、今は考えられない」と口にしました。本心とは正反対の言葉でした。彼女が傷ついた顔を見せても、訂正できないまま、俺はその場をあとにしました。

箱に残したもの

待ち合わせたカフェで、彼女に荷物を返しました。上着の内ポケットには、あの指輪はもうありません。指輪は手放し、空になったケースだけが手元に残っていました。それでも俺は、レシートを抜かずにケースへ戻し、彼女の荷物の底にそっと忍ばせました。声に出せなかった本当のことを、紙の1枚に託すしかなかったのです。

「ごめん。これ、君のだから」

そう言うのが、その日の精いっぱいでした。

そして...

あのレシートに気づいてくれただろうか。気づいたとして、ただの未練だと笑われても仕方がない。それでも、俺が彼女を選んでいた時間は、確かにあったのだと、1枚の紙だけは知っています。伝える資格をなくしてから、伝えたいことばかりが増えていきます。身勝手な話だと、自分でもわかっています。

(20代男性・会社員)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

元記事で読む
の記事をもっとみる

注目コンテンツ