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ADHDの夫は何を見ているのか? “夫の脳”を疑似体験できる漫画が生まれた理由【著者インタビュー】

  • 2026.7.17

【漫画】本編を読む

夫・翔太と子ども、3人で暮らす結衣。翔太のやりっぱなし、出しっぱなし、突然想定外の行動を取る……などの行動に悩まされていた。そしてある日、「夫はADHDではないか?」という疑念を抱くようになる。そしてADHDについて調べるうちに、発達障害のあるパートナーと生活する中で孤独感や絶望感、無力感に襲われる状態を「カサンドラ症候群」と呼ぶことを知る。しかし、そこまでわかっても解決策は見いだせず、絶望する結衣。そこに「ADHD謎解き探偵団」を名乗るブルドッグと女性が現れて……。

『もしかして、うちの夫はADHD? ~夫の見てる世界を体験したら、すれ違いが減りました~』(はなゆい/オーバーラップ)は、“夫の見てる世界”を通じて、夫婦の間に生じるすれ違いをどう捉え直していくかを描いた作品だ。ADHDの人、そしてそのパートナーからも支持を集める本作は、どのようにして生まれたのか。ADHDグレーである著者・はなゆいさんに話を聞いた。

――ADHDのパートナーを持つ方に向けた作品を描こうと思ったきっかけを教えてください。

はなゆいさん(以下、はなゆい):前作『ただのぽんこつ母さんだと思っていたらADHDグレーでした。』を出版したあと、本当にたくさんの感想をいただきました。その中で「自分自身がADHDな気がする」という声と同じくらい「夫(妻)との関係に悩んでいる」という声が多く寄せられたんです。「何度言っても伝わらない」「なぜそんな行動を取るのか理解できない」などパートナーとのコミュニケーションに関する悩みがとても多く、中には「相手に悪気がないのはわかるけど、もう限界」と、かなり疲弊されている様子の方もいらっしゃいました。

私自身もADHDについて知っていく中で、困りごとは本人だけに起こるものではなく、家族やパートナーとの“感覚のズレ”として現れることが多いと感じていました。ただSNSなどでは「発達障害だから仕方ない」「いや、周りが我慢しすぎだ」と、どちらか一方だけが悪いかのような、極端な議論になってしまうことも多くて……。実際の生活はそんなに単純ではないですよね。

そこで今作では「パートナー同士で見えている世界がどう違うのか」を描こうと思いました。困りごとが起きたときに、「どちらが正しいか」を決めるのではなく「相手にはこう見えていたのかもしれない」と、お互いを理解するきっかけになれば嬉しいです。

――前作は、はなゆいさんご自身の物語でしたが、今作はどなたかモデルとなった方がいたのでしょうか?

はなゆい:今回は特定の誰かの実話ではないんです。ADHD診断済みの夫を持つ妻の方3名、さらにSNSで50名以上の方からアンケートにご協力いただきました。さらに私自身の体験談も加えて構成した“創作漫画”という形になります。いただいた相談を読んで、改めてADHDといっても本当に特性は人それぞれなんだと感じました。すごく忘れ物が多い人もいれば、仕事では非常に優秀だけど、家庭内だけで困りごとが強く出るケースもあります。だからこそ「誰かひとりの実話をそのまま描く」というよりは、取材で聞いたさまざまな困りごとや感覚を整理しながら、“夫婦の間で起こりやすいズレ”を抽出していきました。

特に意識したのは、読者の方に共感していただきやすいよう日常の小さな出来事を大切にすることです。今作に描いていることって、「やりっぱなし」「時間の勘違い」「外出の段取り」などひとつひとつは小さいことです。でもそれが毎日積み重なると、夫婦関係に大きな影響を与えてしまう。小さいズレは周囲から理解されづらく「そんなことで?」と思われてしまう苦しさもあります。だから今回は、特別な事件ではなく、“どこの家庭にもありそうな風景”を丁寧に描くことを意識しました。

――巻末にたくさん参考文献が載っていたのも印象的でした。本を読んだ中で参考になったことや印象に残ったことを教えてください。

はなゆい:一番印象に残ったのは、「困りごとの背景には理由がある」という考え方でした。以前私は自分に対して、「どうしてこんな簡単なことができないんだろう」「やる気がないのかな」と考えてしまうことが多かったんです。でも本を読んで“できない”の背景には、ワーキングメモリや注意の向け方、情報処理の特性など、脳の働き方の違いが関係している場合があると知りました。これは私にとってすごく大きな発見で、ただ「根性が足りない」で終わらせるのではなく、「どういう状態ならばできるのか」を考えることがとても大事なのだと感じました。

また、読んだ本の中には専門用語が多く、理解する前に読むのが苦しくなってしまうこともありました。その経験から、この作品はできるだけ感覚的に伝わる表現を意識しました。例えばワーキングメモリを“記憶のお皿”にたとえたり、「脳内で処理する情報量」を視覚化したり。私は専門家ではないので、医学的な断定はできません。それよりも「こういう感覚なのかもしれない」とイメージしやすくなることを大事にしました。

取材・文=原智香

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