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マヤ文明に実在した天才数学者の「名前」をついに特定

  • 2026.7.14
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

古代マヤ文明は、巨大な神殿や精密な暦を築き上げたことで知られています。

彼らは望遠鏡もコンピューターもない時代に、太陽や惑星の動きを観測し、複数の時間周期を組み合わせた複雑な計算を行っていました。

しかし、その知識を生み出した学者たちが誰だったのかは、これまで分かっていませんでした。

王や貴族の名前は石碑に残されていても、天体の運行を計算した数学者・天文学者たちは、歴史の陰に隠れたままだったのです。

ところが今回、中央アメリカ・グアテマラにある「シュルトゥン遺跡」に残された約1200年前の壁書きから、数学の計算を担ったとみられる人物の名前が特定されました。

その名は「Sak Tahn Waax(サク・ターン・ワーシュ)」です。

名前は「白い胸のキツネ」を意味するとされています。

研究の詳細は、米マサチューセッツ工科大学(MIT)らにより、2026年7月13日付で学術誌『Antiquity』に掲載されました。

目次

  • 古代マヤの研究室に残された「計算の下書き」
  • 金星と火星の周期を結びつけた「独自の数式」

古代マヤの研究室に残された「計算の下書き」

発見の舞台となったシュルトゥン遺跡は、「古典期マヤ」と呼ばれる西暦250~900年ごろに栄えた古代都市です。

研究対象となったのは、遺跡内の「建造物10K-2」と呼ばれる小さな部屋でした。

その壁には、日付、数字、計算などを記した50点以上の短い「マイクロテキスト」が、薄く描かれたり刻まれたりしていました。

完成した記念碑に彫られた文章とは異なり、これらは計算途中のメモや表に近いものです。

実際の画像の一部と、部屋の復元イメージがこちら

同チームのヘザー・ハースト氏は、その価値を「有名な歴史的文書の初期稿や、偉大な芸術作品のスケッチを発見するようなもの」と表現しています。

いわば、古代の学者が使っていたホワイトボードが、そのまま残されていたような状態です。

ただし、文字は長い年月でかすれていました。

そこでチームは、縮尺図、写真、スキャン画像を作成し、さらに画像をデジタル処理して文字を浮かび上がらせました。

その結果、11個のマヤ文字からなる一群を解読することに成功。

鍵となったのは、末尾に記された部分です。

そこには「かく語る」という意味の「che-he-na」に続き、「SAK-TAHN-wa-xi」と綴られた個人名が記されていました。

チームは、この名前をSak Tahn Waax、すなわち「白い胸のキツネ」と読み解きました。

発見された名前の画像と復元イメージがこちら

古典期マヤの数学上の成果が、特定の個人に帰属すると確認された例は、現在知られている限りこれが初めてです。

金星と火星の周期を結びつけた「独自の数式」

壁に残されていたのは、単なる名前だけではありませんでした。

その人物に帰属するとみられる数式そのものも、既知のマヤ文書には見られない独自性を持っていたのです。

この計算には、260日周期の祭祀(さいし)暦、太陽年、金星や火星の周期など、マヤで用いられていた複数の時間単位が登場します。

個々の周期は研究者にとって既知のものでしたが、それらを結びつける方法は、ほかのマヤ文書では確認されていないものでした。

マヤ社会において、こうした天体計算は単なる知的な遊びではありませんでした。

天体の動きに対応する日付は、王や女王の即位式、宗教儀礼、記念碑の建立、建築計画などを決める際に利用されていたと考えられています。

つまり、サク・ターン・ワーシュは、星を眺めるだけの人物ではなく、政治や宗教、都市づくりにも影響を与えうる専門家だった可能性があります。

調査された文字のスキャン画像がこちら

ただし、彼が壁の数式を自ら書いたのか、別の人物が彼の計算を書き写したのかは分かっていません。

さらに、部下の仕事を自分の成果として示した可能性も否定できず、「本人の直筆署名」とまでは断定できません。

それでも、「この計算はSak Tahn Waaxに属する」と読める記述が残された意義は大きいものです。

私たちはこれまで、マヤ文明の数学を、顔の見えない集団の知識として眺めてきました。

今回の発見によって、その知の背後に、固有の名前を持つ一人の学者が浮かび上がりました。

ピタゴラスやガリレオのように、古代世界の科学はしばしば個人名とともに語られます。

Sak Tahn Waaxの名は、アメリカ大陸にもまた、天体と時間の規則を読み解こうとした高度な学問の伝統が存在したことを、より人間的な形で伝えてくれます。

約1200年前の壁に残された小さな文字は、マヤ文明の偉大な知識だけでなく、それを考えた「一人の人間」の存在を現代に届けたのです。

参考文献

We Finally Know The Name of a Revered Maya Astronomer-Mathematician: Sak Tahn Waax
https://www.sciencealert.com/we-finally-know-the-name-of-a-revered-maya-astronomer-mathematician-sak-tahn-waax

Hidden in Maya wall writings: A named astronomer emerges from 1,200-year-old calculations
https://phys.org/news/2026-07-hidden-maya-wall-astronomer-emerges.html

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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