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口裂け女も、のっぺらぼうも、老いには勝てなかった…怪異専門の介護施設を舞台に繰り広げられる、怪談よりも怖い老後の問題【書評】

  • 2026.7.12

【漫画】本編を読む

『怪異の介護』(コイケナツキ/新潮社)は、「怪異も老いる」という斜め上の発想から生まれた介護×妖怪というコメディである。

舞台となるのは、認知症や体の不調を抱えた怪異たちを受け入れる介護施設「阿弥陀」。所長を務める謎の人物・ミロクのもとに、就職希望者の新人介護士・久世観音が訪れることから物語は始まる。

阿弥陀に入所しているのは、かつて人々に恐れられていたが老いには勝てなくなった「伝説の怪異」ばかり。「キレイです」が聞こえなくなった口裂け女、自分の顔を忘れてしまったのっぺらぼう、免許返納を迫られる首無しライダー、変身の仕方を忘れた狼男など、怪異の症状は人間の高齢者とまったく変わらない。「妖怪だから怖いまま」ではなく、「妖怪なのに老いる」という切なさの構図が斬新だ。

「本当に怖いもの」が増えた現代社会で、人間社会から遠ざかり、忘れられ、あまり恐れられなくなった名物怪異たちが弱っているという設定が、誰もが平等に「老い」に直面し、「介護」が必要になるという現実。それを怪異というフィルターを通してよりくっきりと浮かび上がらせているところが非常に巧みだ。

久世観音はそんな怪異たちに振り回され、予想外のトラブルや理不尽な要求に疲弊することもある。それでも介護士として、彼らの尊厳を守ろうと向き合い続ける。人間も怪異も関係なく、老いた者に寄り添いやさしく語りかける姿は、お仕事漫画としての熱さもある。

誰もが老いから逃れることはできない。そして誰かに世話をしてもらわなければ生きられなくなる時がいつかやってくる。本作はそんな普遍的なテーマを、妖怪の介護というユニークな切り口で描き出した意欲作だ。怪談(?)でありながら、背筋が凍るどころか心が温かくなる、不思議な魅力に包まれた作品である。

文=富野安彦

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