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標高7000m級で生きるネズミーー哺乳類の生存限界を大幅更新

  • 2026.7.10
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

酸素は地上の半分以下、気温は氷点下、水も植物もほとんどない。

そんな火星環境にもたとえられる高山の頂で、小さなマウスが生きていました。

南米アンデス山脈の標高7000メートル級で確認されたのは、「フィロティス・ヴァッカルム(Phyllotis vaccarum)」という種のネズミです。

これまで哺乳類が安定して暮らせるのは、世界最高所にある人間の定住地に近い標高5500メートルほどと考えられていました。

今回の発見は、その想定を一気に1000メートル以上更新したことになります。

では、これほど小さな動物は、薄い空気と凍える寒さの中で、どうやって体温を守っているのでしょうか。

研究の詳細は、カナダ・マクマスター大学(McMaster University)らにより、2026年7月9日付で科学誌『Science』に掲載されています。

目次

  • 長距離ランナーのような筋肉を持っていた
  • 食べ物はどうやって手に入れているのか?

長距離ランナーのような筋肉を持っていた

研究対象となったネズミは、南米チリの海岸付近からアンデスの山頂まで、極端に広い標高範囲に生息しています。

最高記録は、火山リュジャイジャコの標高6739メートル付近で捕獲された生きた個体です。

この高さでは、酸素量が海面付近の約44%しかなく、気温がマイナス60℃近くまで下がることもあります。

小型哺乳類は体表面から熱を失いやすいため、寒さだけでも深刻ですが、熱を作るには大量の酸素が必要です。

つまりこの場所は、「酸素がないのに、熱を作らなければならない」という二重の難題を突きつけます。

【高地で生きるフィロティス・ヴァッカルムの実際の画像がこちら

チームは2020~2023年に、異なる標高の33地点から167匹を集め、高地と低地の個体を比較。

さらに酸素濃度を変え、海面、標高4300メートル、標高7000メートルに相当する環境を再現し、寒さの中での酸素消費量や体温維持能力を調べました。

その結果、高地のネズミは低地の個体より、低酸素下でも多くの酸素を使って熱を生み、体温を保つ能力に優れていました。

とりわけ筋肉細胞には、エネルギーを作り出す「ミトコンドリア」が豊富でした。

短時間に力を爆発させる短距離走者というより、長く走り続けるマラソン選手の筋肉に近い特徴を持っていたのです。

また、体を震わせる筋肉や、熱を専門に生み出す褐色脂肪組織の燃料として、脂肪を積極的に利用していました。

意外にも、高地動物でよく見られる「ヘモグロビンが酸素を強く取り込む能力」は、明確には向上していませんでした。

このネズミは酸素を多く運ぶより、届いた酸素を筋肉で使い、熱を作り続ける能力を強化していたのです。

食べ物はどうやって手に入れているのか?

チームが予想していなかったのは、食物に関係する適応でした。

標高6000メートルを超える山頂には植物がほとんどなく、安定して手に入る食料もありません。

ネズミは岩に生える地衣類や、風で運ばれた種子、昆虫などを食べている可能性があります。

ゲノム解析では、高地の個体において、食物の代謝や植物由来の有害物質の解毒に関係する遺伝子に変化が見つかりました。

ただし、実際にどの食物をどれほど食べ、どの遺伝子がどの物質への耐性を生むのかは、まだ直接確認されていません。

そのため「有害な成分を含む可能性のある限られた食物を利用できることが、高地生活を支えた」という解釈は、今後検証すべき有力な仮説です。

これは簡単にいうと、食べ物がほとんどない高地では、普通の動物なら利用しない食物まで食べられる能力が、生存に役立っているかもしれないという意味です。

また、高地と低地の集団は完全に分断されておらず、標高の異なる集団間でも遺伝子の交流が続いていました。

それでも高地では、体温調節、エネルギー代謝、血管機能、食物への対応に関係する有利な変異が、自然選択によって残されてきたと考えられます。

今回の研究が描き出したのは、たった一つの「超高地遺伝子」ではありません。

寒さ、低酸素、飢え、不安定な食物という複数の圧力に対し、筋肉や脂肪、代謝、遺伝子が連携して変化した結果、小さなネズミは哺乳類の常識を超える場所に進出できたのです。

生命の限界は、私たちが地図の上に引いた線よりも、はるかに柔軟なのかもしれません。

参考文献

Mouse found near 7,000 meters may rewrite limits of mammal survival
https://phys.org/news/2026-07-uncover-mouse-survives-earth-harshest.html

元論文

Adaptation across an extreme elevational gradient in Andean leaf-eared mice, the world’s highest-dwelling mammal
https://www.science.org/doi/10.1126/science.aec8347

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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