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服飾史家 中野香織さんが解き明かす“ロイヤルの肖像”【マキシマ王妃(オランダ)】

  • 2026.7.3

情熱の「マキシマリズム」が拓く伝統と経済自立の新たなエレガンス

2024年のフォトセッションでは愛犬マンボとポーズ。 Patrick van Katwijk / Getty Images

かつて、これほどまでにパワフルで、かつ世界を動かす意志を宿した笑顔を持つ王妃がいたでしょうか。オランダ王室のマキシマ王妃。南米アルゼンチン出身の彼女が、オレンジ公家の伝統に吹き込んだのは、投資銀行勤務で培ったプロフェッショナルな知性と、世界の舞台における圧倒的な「解決力」でした。

投資銀行から王宮へ伝統をアップデートする実学の力

マキシマ王妃のキャリアは、ニューヨークの第一線にある金融機関で築かれました。その経歴は、単なる「元キャリアウーマン」という肩書に留まりません。彼女はウィレム=アレクサンダー皇太子(当時)との結婚後もその専門性を手放さず、2009年からは国連事務総長の特別顧問として、途上国の女性たちや低所得者も金融サービスを受けられるようにする「金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)」の普及に尽力してきました。

国連事務総長特別顧問(金融ヘルス担当)でもある王妃。2025年9月の国際金融公社(IFC)訪問には、母の国連での活動を知るために次期女王のカタリナ=アマリア王女が同行。 Patrick van Katwijk / Getty Images

彼女の活動が慈善だけではなく、経済外交の深部にまで影響を及ぼしていることは、歴史的な場面が証明しています。G20の舞台で各国首脳と対等に渡り合い、デジタル経済を通じた女性の自立を説く姿は、もはや「王妃」の枠を超え、卓越した外交官そのものです。

象徴的なのは'19年のG20大阪サミット。彼女は各国首脳が集うなか、デジタル金融の普及がいかに女性の経済的自由を保証するかを、極めて論理的かつ情熱的に説きました。データの裏付けに基づき実利を語る彼女の言葉は、理想論に終始しがちな公務に実学という新たな価値観を持ち込んだのです。

G20大阪サミット期間、「職場における女性の地位向上」がテーマのサイドイベントに出席。 Pool/ABACA / Getty Images

国内においても、国務評議会のメンバーとして若者の金融教育に鋭いメスを入れ続けています。彼女にとって王室という伝統的なプラットフォームは、世界をよりよき方向へ動かすための、最高にダイナミックなステージにほかならないのです。

身長178センチの姿から放たれるのは、嵐をも払いのける太陽の波動。大粒の宝石以上に雄弁なその笑顔は、自ら運命を拓いた者だけが持つ、知性と生命力の結晶に見えます。

マキシマリズムの美学与える華やかさ

知的な行動力は、彼女の独創的なファッションにも鮮やかに投影されています。スペインのレティシア王妃が「引き算の美」を極めるなら、マキシマ王妃は「足し算の美」、いわば「マキシマリズム」の体現者です。ベルギーのナタンやオランダのイリス ヴァン ヘルペンといったブランドを愛用し、時に大粒の歴史的ジュエリーや巨大なハットを、まるで体の一部のように堂々と着こなします。

2022年のスウェーデン公式訪問にて。イリス ヴァン ヘルペンのドレスを着用。エメラルドのジュエリーやクラッチも同系色に。 Patrick van Katwijk / Getty Images

その華やかさが決して嫌みにならないのは、視線を恐れず、むしろ受け止めることで存在感を完成させるリーダーとしての覚悟があるからでしょう。

かつて、父親の政治的背景が問題視され、国民から厳しい視線を浴びた際、彼女は逃げることなく自ら壇上に立ち、誠実なオランダ語で「父が結婚式に参列しない」という苦渋の決断を伝えました。その潔さと、愛する人の国を受け入れようとする覚悟が、瞬時に国民の心を溶かしたのです。

2025年初夏、ハウステンボス宮殿での家族写真。(右から)アレクシア王女(次女)、アマリア王女、ウィレム・アレクサンダー国王、マキシマ王妃、アリアーネ王女(三女)。 Patrick van Katwijk / Getty Images

2024年、彼女の国連での役割は「金融的健康(フィナンシャル・ヘルス)」の普及へとさらに深化しました。経済的な自立だけでなく、人々が不安から解放され、健やかに生きるための基盤を作る。彼女が振りまく太陽のようなほほ笑みは、そんな強固な経済的裏付けと、人間への深い信頼から生まれています。

マキシマ王妃が教えてくれるのは、伝統に従順であることではなく、自分の才能を社会に還元することで得られる真の気品のあり方です。持てる要素をすべて活かしきる「マキシマリズム」は、私たちが人生の扉を自分の手で開くための力強い光となるのです。

【Hot Topic】国民から“トリプルA”と慕われる三姉妹。次女に注目!

Patrick van Katwijk / Getty Images

母譲りの華やかさとZ世代の自立心を併せ持ち、母のヴィンテージ服をリメイクしたり王室のプロトコルを外したりと自由な表現で注目を集める次女、アレクシア王女。伝統を軽やかに超える「王室の反逆児」 は、現在、ロンドンで土木工学を学ぶ理系女子でもあります。先進的な全寮制高校UWCアトランティック校で国際バカロレアを取得し、ギャップイヤーを経てインフラと気候危機に直結する分野を選んだ、自ら課題をつかみにいく新時代の王女です。

服飾史家 中野香織さん
PROFILE ラグジュアリー領域を中心に著述・講演・教育・企業アドバイザリーに携わる。英ケンブリッジ大学客員研究員、明治大学特任教授などを歴任。著書に『「イノベーター」で読むアパレル全史 増補改訂版』(日本実業出版社)。最新刊は、エレガンスを「思想と力」として多面的に読み解く『エレガンス入門』(ちくまプリマー新書)。YouTubeも好評。


Text : KAORI NAKANO
25ans(ヴァンサンカン)4月号掲載(2026年2月27日発売)

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