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患者「下着と靴下がなくなった」病棟で紛失騒動→看護師が面会記録を見て判明した“思わぬ真相”

  • 2026.7.28
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科病棟では、患者さんからさまざまな訴えを受けます。

「誰かが部屋に入った。」
「物がなくなった。」
「勝手に触られている。」

精神症状の影響で起こることもあれば、本当に何かが起きていることもあります。だからこそ私たちは、「症状かもしれない」と思いながらも、簡単に決めつけないようにしています。

今回は、精神科病棟で実際にあった「なくなる洗濯物」をめぐる出来事です。最初は精神症状による思い込みかもしれないと思われていた訴えが、思いもよらない事実につながりました。

「また靴下がなくなったんです」

Aさんは中年の女性。うつ病の治療のため精神科病棟に入院していました。

入院当初は気分の落ち込みが強く、自室で過ごす時間も多かったのですが、少しずつ状態は安定してきていました。そんなAさんが、ある日ナースステーションへやって来ました。

「看護師さん」

「どうしました?」

「靴下がなくなったんです」

病室を確認しましたが見当たりません。

「洗濯に出しましたか?」

「いいえ」

「自分でしまいました?」

「ちゃんと引き出しに入れました」

結局その日は見つからず、「どこかに紛れ込んだのかな」という話で終わりました。ところが翌週、今度は下着がなくなったと訴えます。

さらにその次の週には、「またなくなりました」と話すようになったのです。

「誰かが持っていっているんでしょうか」不安になるAさん

回数が増えるにつれ、Aさんの表情も不安そうになっていきました。

「誰かが持っていっているんでしょうか」

そう話すこともありました。
同室患者さんの名前を出すことはありませんでしたが、「私がいない間に誰かが触ってる気がする」と口にすることもありました。

精神科病棟では、被害的な訴えが症状として現れることもあります。そのためスタッフの中にも、「不安が強くなっているのかもしれない。」という見方がありました。

実際、病室を確認しても決定的な証拠はありません。他の患者さんから同様の訴えもありませんでした。私も当初は、「もしかしたら思い込みもあるのかな。」と考えていました。しかし、どこか引っかかるものがあったのです。

Aさんの話は毎回具体的でした。なくなった物もはっきりしています。

ある日、記録を見返していて気づきました。Aさんが洗濯物の紛失を訴えるのは、決まって家族面会の翌日だったのです。

一度や二度なら偶然かもしれません。けれど毎回となると気になります。私は家族が面会に来た際、何気なく尋ねてみました。

「面会の時、お荷物の整理などされていますか?」

すると家族は少し驚いた様子で答えました。

「あ、してますよ」

「洗濯物を持って帰ったり?」

私は思わず聞き返しました。

「洗濯物ですか?」

「はい。下着とか靴下とか」

「汚れていたので家で洗濯して持ってきてました。病院で洗ってくれるけど、下着だけでも家でと思ってね」

さらに続けます。

「本人にはわざわざ言ってません」

その瞬間、私はようやく状況を理解しました。Aさんがなくなったと思っていた洗濯物は、家族が持ち帰って洗濯していたのです。

もちろん悪意はありません。むしろ家族なりの気遣いでした。しかし、そのことをAさんは知らなかったのです。

「盗られたと思って怖かった」

私はAさんのもとへ行き、家族から聞いた内容を説明しました。

「Aさん。靴下や下着なんですが、ご家族が洗濯のために持ち帰っていたそうですよ」

Aさんは一瞬きょとんとした表情をしました。

「え?」

「お母さんが?」

「はい」

「洗濯して持って帰ってきてくれていたみたいです」

しばらく沈黙が続きました。そしてAさんの目に涙が浮かびました。

「そうだったんですね…。私、本当に盗られたと思ってました」

声は少し震えていました。

「誰かが部屋に入ってるんじゃないかと思って。またなくなったらどうしようって」

その表情を見て、私は胸が締め付けられる思いがしました。家族は善意でやっていたことです。けれど、本人に伝わっていなかったことで、不安や恐怖につながってしまっていました。

その後、家族にも状況を説明すると、「そんなふうに思っていたなんて。」と驚かれていました。

それ以来、洗濯物を持ち帰る時は必ず本人へ声をかけるようになり、紛失騒動はぴたりと止まりました。

「症状かもしれない」で終わらせないために

精神科病棟では、患者さんの訴えをどう受け止めるかがとても重要です。もちろん精神症状が影響している場合もあります。けれど、「症状だから」と決めつけてしまうと、本当に起きていることを見逃してしまうことがあります。

もしあの時、「気のせいですよ」「考えすぎですよ」そう片付けて、気にしていなかったらどうなっていたでしょうか。Aさんの不安はさらに強くなっていたかもしれません。そして家族も、自分たちの行動が原因だとは気づかなかったでしょう。

精神科看護では、患者さんの言葉の背景にある事実を一つひとつ確認していく姿勢が大切だと思います。あの日の出来事は、私にそのことを改めて教えてくれました。

「犯人は患者さんじゃなかった」

その真相が分かった時、私たちは安心すると同時に、思い込みの怖さも実感しました。患者さん本人だけでなく、家族との情報共有もまた大切な支援の一つです。

そして私は今でも、患者さんから何かを訴えられた時ほど、「本当にそうだろうか」「別の可能性はないだろうか」と立ち止まって考えるようにしています。

それが、安心して治療を続けられる環境づくりにつながるのだと思うのです。



ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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