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高齢女性「クーラーは毎日つけています」→訪問看護師が確認すると“リモコンの表示に”「一瞬言葉を失った」

  • 2026.7.19
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

夏になると、訪問看護では熱中症や脱水への注意が欠かせません。

特に高齢の利用者さんには、「クーラーを使ってくださいね」「水分をしっかり摂ってくださいね」と繰り返しお伝えしています。

しかし時々、「やっています」という言葉と、実際の生活に大きなズレがあることがあります。

それは嘘をついているわけではなく、本人の中では本当にできていると思っているからこそ難しい問題です。

今回は、認知症のある利用者さんとの関わりの中で、夏場の在宅支援の難しさを実感した出来事についてお話ししたいと思います。

「毎日クーラーつけてるから大丈夫ですよ」

Aさんは高齢の女性。軽度の認知症があり、一人暮らしで訪問看護を利用していました。服薬確認や体調管理を目的に定期的に訪問していましたが、普段は穏やかで受け答えもしっかりしている方でした。

その日も朝から厳しい暑さでした。天気予報では35度を超える猛暑日。車から降りた瞬間に、むわっとした熱気を感じるような一日でした。

インターホンを押すと、Aさんが笑顔で出迎えてくれました。

「こんにちは。暑いですね」

そう声をかけると、Aさんは笑いながら言いました。

「本当ですねぇ。でも私は大丈夫。ちゃんとクーラーつけてるから」

その言葉を聞いて私は少し安心しました。

毎年夏になると、「電気代がもったいないから」「まだそこまで暑くないから」と言ってエアコンを使わない高齢者の方も少なくありません。その点、Aさんはしっかり対策できているように見えました。

けれど玄関に入った瞬間、私は違和感を覚えたのです。

部屋に入った瞬間の違和感

室内に足を踏み入れた瞬間、熱気がまとわりついてきました。外よりはましですが、涼しいとは到底言えません。額にはじんわり汗が浮かびます。

私は思わず部屋を見回しました。

「Aさん、今日はクーラーどこでつけてますか?」

「そこですよ」

指差した先にはエアコンがありました。確かに動いています。しかし表示を確認すると、「送風」になっていました。

冷房ではありません。私は一瞬言葉を失いました。

「Aさん、これ送風になってますね」

するとAさんは驚いた顔をしました。

「え?」「ついてるから冷房やと思ってた」

リモコンを見せながら説明すると、

「そうなん?」

「私、ちゃんと冷房にしてるつもりやったわ」

と苦笑いしました。

認知症が進行すると、機械の操作が以前より難しくなることがあります。ボタンを押したつもりでも違う設定になっている。操作した記憶はあるけれど内容が違う。

Aさんもまさにその状態でした。本人はクーラーを使っているつもりだったのです。

「水もちゃんと飲んでます」

体調確認を続けると、さらに気になることがありました。

「水分は摂れてますか?」と聞くと、

「飲んでますよ」「ちゃんと飲んでるから大丈夫」

いつも通りの返事が返ってきます。

テーブルを見ると、ペットボトルのお茶が置かれていました。けれど、ほとんど減っていません。コップの水も朝から置かれているような状態です。

「今日はどれくらい飲みました?」

「結構飲んでると思う」

「朝から何杯くらいですか?」

「うーん…」

Aさんは考え込みました。どうやらはっきり覚えていないようです。私は冷蔵庫やゴミ箱も確認しました。空のペットボトルはほとんどありません。実際には必要量を飲めていない可能性が高い状況でした。

「暑くないから大丈夫」

さらに話を聞いていると、Aさんはこんなことを言いました。

「でも私、そんなに暑くないんです」

私は少し驚きました。室温計を見ると30度近くあります。看護師の私でも暑いと感じる環境です。

「本当に暑くないですか?」

「うん。だから大丈夫やと思って」

実は高齢になると、暑さや寒さを感じる感覚そのものが鈍くなることがあります。若い頃なら不快に感じる室温でも、高齢者は気づかないことが少なくありません。

そこに認知症による判断力や記憶力の低下が重なると、「暑い」「クーラーをつける」「水を飲む」という行動につながりにくくなります。

Aさんは決して無理をしていたわけでも、注意を無視していたわけでもありません。

本人の中では、「クーラーはついている。」「水も飲んでいる。」「暑くない。」という認識だったのです。

けれど実際の生活環境は違いました。

「できています」の言葉だけでは見えないもの

その日私は冷房設定を一緒に確認し、水分摂取の方法も改めて相談しました。訪問の最後、Aさんは少し申し訳なさそうに言いました。

「私、ちゃんとできてると思ってた」

私は笑いながら答えました。

「そうですよね。Aさんはできていないわけじゃないですよ」

「これからは一緒に確認していきましょう」

訪問看護では、「薬飲めています。」「ご飯食べています。」「クーラーつけています。」そんな言葉を聞く機会がたくさんあります。

もちろん、その言葉を信じることは大切です。しかし、ときには実際の生活環境を確認しなければ見えてこないこともあります。

特に認知症のある方や高齢者の場合、本人の認識と現実との間にズレが生じることがあります。そのズレは嘘ではありません。だからこそ気づきにくいのです。

あの日、私が最初に見たのはAさんではありませんでした。部屋の空気でした。玄関を開けた瞬間の熱気が、「何かがおかしい」と教えてくれたのです。

夏場の在宅支援では、利用者さんの言葉だけではなく、室温や水分摂取状況、生活環境そのものを見ることが大切だと改めて実感しました。

そして私は今でも、利用者さんから「ちゃんとできていますよ」と言われた時ほど、その背景にある生活を丁寧に見ていこうと心がけています。



ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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