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かつて一世を風靡したトップアイドルが「不倫」役でみせた新境地。欲望、借金にまみれた役柄もこなす女優とは

  • 2026.7.16
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2021年8月、映画『妖怪大戦争ガーディアンズ』初日舞台挨拶に登壇した大島優子(C)SANKEI

ステージの上の大島優子を思い出すとき、多くの人が浮かべるのは屈託のない笑顔だろう。2006年にAKB48の第2期メンバーとして加入し、選抜総選挙では2010年と2012年の2度、1位に立った。明るく、快活で、誰よりも強い。グループの中心に立ち続けたその姿は、「太陽のようなアイドル」という言葉がよく似合った。

しかし女優としての彼女が歩んできたのは、その正反対の場所だ。欲望、借金、不倫、壊れていく人間関係、抱え込んだ秘密。光のあたる場所で輝いた人の足跡を並べてみると、結果として、影の役へ向かう一貫した軌跡が浮かび上がってくる。5つの作品をたどりながら、その女優人生を人物録として描いてみたい。

欲望と借金の世界へ 『闇金ウシジマくん』

最初の大きな落差は、AKB48在籍中の2012年に訪れた。映画『闇金ウシジマくん』への出演である。この年は、彼女が選抜総選挙で2度目の1位に立った年でもある。アイドルとしての輝きが頂点にあったまさにそのとき、闇金融の世界を通して人間の弱さや欲望をえぐり出す作品世界に身を置いたことになる。

キラキラとしたアイドルのイメージからあまりに遠いその選択を、当時のメディアは「汚れ役」と報じた。この報道の言葉づかい自体が、当時の世間の視線を物語っている。アイドルは清潔な光の側にいるべきで、欲望や借金の物語はその対極にある「汚れ」だという前提だ。だからこそ、頂点に立つ現役アイドルがそこへ足を踏み入れたことの意外性は大きな話題を呼び、この出演で彼女は第36回日本アカデミー賞の話題賞(俳優部門)を受けている。

振り返れば、これが「明るいアイドル」という看板の裏側へ踏み出した、最初の決定的な一歩に見える。落差はまだ話題の域を出ていなかったが、その後の歩みの出発点は間違いなくここにあった。

意外性が評価に変わった『紙の月』

2014年6月、彼女はAKB48を卒業する。前年の大晦日に卒業を発表し、本格的に女優の道へ舵を切った。その卒業後初の本格的な映画出演が、吉田大八監督『紙の月』だった。

演じた相川恵子は、角田光代の原作には存在しない、映画のために生み出されたオリジナルの人物である。宮沢りえ演じる主人公・梅澤梨花と同じ、わかば銀行の窓口で働く同僚の銀行員だ。派手な役ではない。どこにでもいそうな、ごく普通の同僚である。しかしその彼女が放つ何げないひと言が、梨花を破滅へと向かわせていく。物語の歯車を静かに、しかし決定的に回すキーパーソンだ。

この演技で第38回日本アカデミー賞優秀助演女優賞、第39回報知映画賞助演女優賞などを受賞。「アイドル出身」という先入観を、演技そのもので越えてみせた節目の作品になった。ウシジマくんで示した意外性は、ここで初めてはっきりと「評価」へ変わったのである。

親しみやすさの内側に置いた危うさ 『東京タラレバ娘』

2017年、日本テレビ系で放送されたドラマ『東京タラレバ娘』(原作・東村アキコ)では、鳥居小雪を演じた。一見すれば、友人たちと軽口を叩き合う親しみやすい女性。アイドル時代の彼女の魅力と地続きに見える人物である。しかし小雪は、妻帯者の会社員・丸井良男との不倫関係を抱えている。裏切られる側ではなく、する側の役だ。

ここで興味深いのは、落差の置き方がまた違うことだ。『闇金ウシジマくん』や『紙の月』では、明るいイメージと暗い作品世界という「外側の落差」が話題になった。タラレバ娘では、その落差が1人の人物の内側に移されている。愛らしさや人なつっこさの内側に、割り切れない関係と後ろめたさが同居する。観る者が親近感を抱いた分だけ、その危うさは深く刺さる。持ち前の明るさが影を隠す衣装として機能する。そういう役の作り方が可能な女優になっていたことを、この作品は示していたように見える。

光が届かない場所まで 『生きちゃった』

2020年10月に公開された石井裕也監督・脚本の映画『生きちゃった』は、彼女の女優人生の中でも最も暗い到達点のように思う。演じたのは山田奈津美。夫の厚久に不倫が露見してしまう妻である。

愛が壊れていく過程を、彼女は逃げることなく正面から引き受けた。石井監督は演技なのか本当に狂ってしまったのか分からなくなって怖くなったと語るほどで、作り手をたじろがせる熱量だった。アイドル時代の肩書きが、良い意味で完全に意味を失った瞬間だ。

秘密を抱え、極限の場に立つ『教場』

そして『教場』シリーズの楠本しのぶ。警察学校という過酷な集団生活の場を舞台に、極限状況に置かれた人間たちの葛藤や感情のもつれを描くこの作品で、彼女もまた、内に抱えたものと向き合う警察学校生を演じた。

追い詰められた場所でこそ、人間の本当の顔が現れる。その顔を引き受けられる俳優として起用されたのだと考えたくなる配役である。注目したいのは、このシリーズが持つ時間の長さだ。2020年のドラマから始まった縁は、2026年のシリーズ最終章、その完結にまでつながっている。単発の映画で見せる落差とは違い、シリーズものでは1つの役と長い時間をともに生きることになる。

影のある人物を6年越しで背負い続け、その影を人物の強さへと変換していく。瞬発力の演技から持久力の演技へ。それが女優・大島優子の現在地である。

光を捨てず、影まで演じる女優へ

欲望と借金の世界に踏み込んだ『闇金ウシジマくん』。他人を破滅へ導くひと言を放った『紙の月』。親しみやすさの内側に不倫を抱えた『東京タラレバ娘』。壊れていく夫婦を生きた『生きちゃった』。そして極限の場に立つ『教場』。並べてみれば、結果として1本の線が見えてくる。

彼女はアイドル時代の光を否定していないように見える。むしろあの明るさと強さがあるからこそ、影の深さが際立つ。太陽のようだった人が、影までも自分の表現領域に加えた。光と影、その落差の大きさこそが、女優・大島優子の最大の武器なのだと思う。


※記事は執筆時点の情報です

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