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結婚18年、夫は世界をまたにかける有名デザイナー。2100人のトップに君臨した「清純派女優」とは

  • 2026.7.17
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2006年4月、「ティファニー・フランク・ゲーリーコレクション」に登場した牧瀬里穂(C)SANKEI

清純派、という呼び名がある。清らかで、明るくて、見ているこちらの背筋まで伸びる。そんな女優にだけ贈られる言葉だ。牧瀬里穂は、長くその代名詞のひとりだった。

武田薬品「ミスビタミンCハイシーガールコンテスト」で2100人の中からグランプリに選ばれ芸能界デビュー。1989年12月、JR東海の「クリスマス・エクスプレス」で脚光を浴びると、その清潔な佇まいは一気に知られていく。翌年には映画『東京上空いらっしゃいませ』『つぐみ』で相次いで主演を張り、清らかなヒロインの像をそのままスクリーンに刻んだ。誰もが思い浮かべる、あの清潔な顔。それが牧瀬里穂の出発点だった。

ところが、その彼女が人生の伴侶に選んだのは、世界を舞台にするデザイナーである。清らかなスクリーンの像と、前衛の最前線に立つ人を隣に置いた選択。この落差にこそ、牧瀬里穂という女優の芯がある。

清純派の証明は賞が認めた

清純派という評価は、人気が先に作り上げるものだと思われがちだ。牧瀬里穂の場合は、順番が逆だった。映画デビュー作で、彼女は各映画賞の新人賞を総なめにする。相米慎二監督の『東京上空いらっしゃいませ』と、市川準監督の『つぐみ』。1990年に主演したこの2本は、翌年の第14回日本アカデミー賞で新人俳優賞と優秀主演女優賞を同時に彼女へもたらした。毎日映画コンクールの新人賞も受けている。

新人賞は、新しい顔への祝福だ。だが優秀主演女優賞は違う。その年に主演を務めた女優たちと並べたうえでの、演技そのものへの評価である。清らかな佇まいが人気を呼んだのではない。その佇まいで主演作を背負いきる力が、賞というかたちで先に認められていた。清純派の清らかさは、印象ではなく実力の裏づけを持っていたのだ。

清純派が動きはじめる

清らかな像は、しかし早くから同じ場所にとどまってはいなかった。1991年の映画『幕末純情伝』で、牧瀬里穂が演じたのは沖田総司である。幕末という激動の時代の名を負ったこの役は、現代のヒロインを清らかに生きてきた彼女の像から、遠く離れた場所にあった。清純派として世に出た女優が、その看板を後生大事に抱え込まず、質感のまるで違う役へ足を踏み入れていく。

見ておきたいのは、変化が外から強いられるより先に、彼女自身の側から始まっていたことだ。人気の出た清らかな顔をなぞり続ければ、しばらくは安全に過ごせる。牧瀬里穂はその安全を早々に手放して、自分の像を自分から動かしにいった。清純派からの振れ幅は、後年に急ごしらえで生まれたものではない。デビューの余熱が残るうちに、もう始まっていたのだ。

約束が結婚へと近づいていく

続く一作は、時代を現代へ引き戻す。1992年、牧瀬里穂はフジテレビ系の連続ドラマ『二十歳の約束』で、初めて連続ドラマの主演を務めた。演じたのは、留学先から一時帰国する天真爛漫な女子大生。物語はその帰国に見合いをからめており、二十歳の約束という題も、この入口も、まだ婚礼そのものではないけれど、結婚という一語のほうへゆっくり顔を向けている。

清純派の像が、時代物の激しさではなく、現代の私的な情のドラマへ踏み込んだ一本だ。幕末の物語とは、ちょうど温度が違う。ここで彼女は、清らかさを保ったまま、恋や約束や身の振り方といった、地続きの感情の側へ入っていった。役の上の変化が、少しずつ人と人が結ばれることのほうへ近づいていく。その予兆が、この現代劇には差している。

役の幅が広がっても清潔感はそのままに

変化は、清純派を捨てることではなかった。同じ時期、牧瀬里穂は役の幅を大きく外側へ広げていく。1994年、日本テレビ系のドラマ『西遊記』では三蔵法師を演じた。現代の清らかなヒロインとも、幕末の人物とも違う、古典に材をとった物語の中心の役どころである。

同じ年には、長く続いてきた人気シリーズの一作、映画『男はつらいよ 拝啓車寅次郎様』にも出ている。片や古典の伝説のなかの役、片や広く親しまれたシリーズの一員。作品の色あいは、これほど遠い二つはない。それでも牧瀬里穂は、どの役に立っても清潔感だけは降ろさなかった。振れ幅が大きくなるほど、真ん中に残るものが際立ってくる。役をどれだけ変えても消えない清らかさ。それが彼女の芯だった。

時を経た代表作が、変化の到達を映す

時間はさらに流れる。2003年の映画『美しい夏キリシマ』。デビューの清らかな像から、もう10年以上が過ぎていた。この一作を境に何かが劇的に変わった、という話ではない。ただ、クリスマス・エクスプレスで世に出た清純派が、いつのまにか長いキャリアの厚みをまとっていたことは確かだ。

役の上で測れる変化は、ここまでだ。だが牧瀬里穂という女優のいちばん大きな変化は、じつはスクリーンの外で、この頃までに静かに決まりつつあった。

いちばんの変化はスクリーンの外に

牧瀬里穂は2008年12月、ファッションデザイナーのNIGOと結婚した。相手のNIGOは、1990年代に裏原宿系ファッションを代表するブランドを立ち上げ、ストリートの文化を世界へ広げてきた人だ。2020年にはLOUIS VUITTONのアーティスティック・ディレクター、2021年にはKENZOのアーティスティックディレクターに就任し、パリを舞台に流行の最前線を走り続けている。

ここで、最初の落差に戻ってくる。清らかで明るい、誰もが思い浮かべる清純派。その女優が人生の隣に選んだのは、世界の流行を最先端で作り替えていく人だった。役の上で、清純派の像はさまざまに振れてきた。幕末の人物にも、伝説の中心にも、現代の情のドラマにも姿を変えた。けれど、その変化のいちばんの到達点は意外なところにあった。清らかなスクリーンと、前衛の頂点。遠く離れた二つの世界を、ひとつの人生のなかで結び合わせたのだ。


※記事は執筆時点の情報です

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