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冬、見えない神をもてなす。春夏秋冬、能登めぐり。写真と文:小川紗良 (アーティスト) #4

  • 2026.6.24

奥能登には、ユニークな祭りや神事が数多く存在する。中でも私が興味を惹かれたのは、ユネスコ無形文化遺産にも登録されている「あえのこと」だ。

輪島市三井町の神事の様子。

「あえのこと」は奥能登地域の米農家に伝わる神事である。開催日は年に2回、12月5日、2月9日と決められている。12月には、その年米作りを支えてくれた田の神様を家へ迎え入れてもてなす。そして2月には再び田んぼへ送り出し、新年の豊作を願うというものだ。一説では、「アエ=饗(もてなし)」「コト=神事」を意味するといわれている。地域によっては「あいのこと」「田の神様まつり」とも呼ばれている。

輪島市三井町のボランティア拠点。
風呂などが設置されているテント。

2024年12月5日、私は噂に聞く「あえのこと」を目撃すべく、輪島市三井町を訪れた。本来の「あえのこと」は、各農家の家庭内で行われているため中々見ることはできない。しかし三井町ではこの神事を継承するため、地域共同で開催し、見学者も迎え入れている(予約制)。ちなみに三井町での呼称は「田の神様まつり」である。

もともと神事を執り行っていた場所が地震の影響で使用できなくなり、現在は代わりにボランティア団体「のと復耕ラボ」の拠点である『茅葺庵』を借りている。この日は、まもなく地震の発生から1年というタイミングだったこともあり、報道陣も多く駆けつけていた。

歌いながら田んぼへと神様を迎えにいく。
たくさんの野菜や輪島塗の御膳でもてなす。
田の神様に御膳の内容を説明する。

まずは歌いながら田んぼへ向かい、鍬(くわ)で泥をかき寄せ神様を迎え入れる。当然、神様の姿は見えないのだが、「ゴテ」と呼ばれる世帯主(ここでは地区の公民館長)は神様が見えている様子で、「段差がございますのでお気をつけください」「本日の御膳は…」などと語りかけ続ける。しかも神様は夫婦でやって来るらしく、円座や湯呑み、御膳などすべて2つずつ用意されている。

神様たちを家に迎え入れ、白湯で一服したあとは、なんとお風呂に案内する。ここでも「お湯加減いかがですか」「お背中を流します」などと語りかけ、誠心誠意もてなす。この年はボランティア拠点のテントの浴室を使用したため、「これまでより広くなりました」とも伝えられていた。

湯船から上がると御膳の前へと案内し、一品一品その日の献立を説明する。本来はその土地でとれた食材を使った郷土料理を出すものだが、この年は全国からの支援で寄せられた食材も並び、その感謝も伝えられた。神様たちが食事をしているあいだ、じっと待つ時間がまた趣深い。ちなみにこれらの食材は、神事が終わったあと地域の人々で分け合っていた。

雪の中、田の神様を送り出す。
円座で休んでいる神様ご夫妻。

2026年2月9日には、同じく輪島市三井町で田の神様を送り出す儀式も見ることができた。送り出す際も同様に、円座や白湯、御膳、風呂などの用意をし、盛大にもてなす。最後に雪の降り積もる田んぼへ歌い出て、神様たちは帰っていく。

これだけ手間のかかる神事が、いまだに米農家たちによって受け継がれているということに驚く。別の場で、観光化されていない民家のあえのことを見たこともあるが、家庭によってアレンジや工夫があるのも面白い。この奥深い風習には、自然の脅威も恩恵も知る奥能登の人々の、見えないものに対する畏怖の念と、手間を厭わぬ生き方が表れている。

アーティスト 小川紗良

出典 andpremium.jp

1996年、東京生まれ。文筆家、映像作家、俳優。早稲田大学文化構想学部卒業。俳優として、映画『イノセント15』、NHK『まんぷく』等に出演。初長編監督作『海辺の金魚』は韓国・全州国際映画祭に出品され、自ら小説化も手がけた。2023年1月より、J-WAVE「ACROSS THE SKY」(日曜午前9時〜12時)にてナビゲーターを務めている。同年3月、創作活動の拠点として「とおまわり」を設立した。

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