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「日本中の誰もが夏に麦わら帽子をかぶる時代にしたい」――春日部・田中帽子店、6代目の挑戦

  • 2026.6.18

関東地方は、今週、来週と雨模様ですが、この梅雨時に、忙しい時期を迎えているのが「麦わら帽子」の製造工場です。今回は、麦わら帽子を作り続ける、ある帽子店の物語です。

6代目社長の田中優さん(右)と、祖父で会長の田中行雄さん(左)
6代目社長の田中優さん(右)と、祖父で会長の田中行雄さん(左)

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

「クレヨンしんちゃんが暮らす街」として知られる、埼玉県春日部市。ここに、明治13年創業、140年にわたり麦わら帽子を作り続ける『田中帽子店』があります。「麦わら帽子」と言っても、カンカン帽、中折れ帽、農業用のつば広帽、エレガントな女優帽、お子様向けの可愛らしい帽子など、天然素材の帽子を作っています。

春日部は、昔から米と共に麦の生産地として栄えた地域で、明治30年頃、ドイツから日本に帽子用のミシンが輸入され、本格的な帽子の生産が始まりました。明治の終わり頃から昭和の初期にかけて、夏場の日本人男性は、ほとんどが「カンカン帽」をかぶっていました。「紳士は外出時に帽子を着用する」のが常識だった時代、洋服だけでなく和服にも合わせやすい夏の定番として、爆発的な大ブームとなりました。

しかし戦後の高度経済成長期、ポリエステル製の麦わら帽子が登場します。大量生産されて価格も安く、洗えて、畳める。その利便性に押され、天然素材の麦わら帽子はすっかり影をひそめてしまいました。春日部市内に何軒もあった製造工場が次々と閉鎖され、とうとう『田中帽子店』の一軒だけになってしまいました。

熟練の職人技が光る、美しい仕上がりと、かぶり心地の良さ
熟練の職人技が光る、美しい仕上がりと、かぶり心地の良さ

天然素材の麦わら帽子は、作るのに大変な手間がかかります。熟練の職人さんが、帽子のてっぺん、いわゆる「つむじ」の部分から縫い始め、丸みを帯びた美しい形の帽子に仕上げていきます。わらは、絶妙に伸縮するので、頭にフィットし、かぶり心地も抜群!さらに、通気性が良く、涼しい上に、紫外線を99%カットしてくれます。このところの猛暑も手伝って、天然素材が見直され、今では、子供からお年寄りまで、男女を問わず人気が高まっています。

創業明治13年の老舗『田中帽子店』。現在、6代目の社長を務めるのは、田中優さん、36歳です。子どもの頃から麦わら帽子に囲まれて育った優さんですが、若い頃は「家業は継ぎたくない」と思っていました。大学では外国の言語文化を専攻し、卒業後、将来を模索していたところ、父親から「ぶらぶらしてないで、ちょっと働いてこい」と取引先だった帽子の問屋へ修行に出されることになりました。10年前、26歳で実家に戻ると、父親からこう告げられます。

「これからはお前の時代だ。店を任せるから、社長になれ」。6代目を引き継ぎ、相当、苦労したのかと思いきや、意外と違ったようです。

「先代、先々代の時代は、化学繊維の帽子に押されて大変な苦労をしたと聞いています。ところが、私の代になってからはありがたいことに右肩上がり。年々、売り上げを伸ばしています」

春日部の冬の風物詩となっている、麦わら素材の「寒干し」の風景
春日部の冬の風物詩となっている、麦わら素材の「寒干し」の風景

毎年3万から4万個を生産しているという田中帽子店。ところが、優さんが街を歩いていても、麦わら帽子をかぶっている人をほとんど見かけない。それが寂しいと言います。

「クールビズが進み、アロハシャツやハーフパンツが許される職場も増えたのですから、もっと麦わら帽子が注目されてもいいはずです。日本中の誰もが、夏に麦わら帽子をかぶる時代にすることが、私の夢ですね」

田中帽子店のホームページから通販で購入することができますが、2020年、春日部市にある工場の敷地内に直営店がオープンしました。

「帽子は、自分に何が似合うかが分かりにくいものです。だからこそ、生産者の私たちが直接おすすめし、納得して選んでいただける直営店をつくりました。一番嬉しかったのは、『田中帽子しか、かぶれないよ!』と言っていただけたことですね」

帽子に命と個性を吹き込む、伝統の「型入れ」作業
帽子に命と個性を吹き込む、伝統の「型入れ」作業

明治、大正、昭和、平成、そして令和と時代が変わっても、昔ながらの製法を頑なに守り続けています。それこそが、多くの人を惹きつける信頼の証なのかもしれません。最後に、代々伝わる『田中帽子店』創業者の言葉をご紹介します。

『お洒落は、足元から始まって、頭で終わる……』

写真提供:田中帽子店

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