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エジプト―ミューズと共鳴する旅【今、真に贅沢な旅とは? vol.5】

  • 2026.6.17

子どもの教育のためロンドンで生活を送り、旅をライフワークの一つとして世界各国を巡っている久住あゆみさん。インスタグラムやブログでは、その洗練されたライフスタイルが注目されています。今回は、偉大なファラオ、ラムセス2世に愛された王妃ネフェルタリに思いを馳せる、エジプトの旅について語っていただきました。

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<Profile>
久住あゆみ(くすみあゆみ) /エッセイスト
大阪府出身。モデルとして活躍後に結婚、2児の母に。子どもの教育のため2023年にロンドンへ移住。旅をライフワークの一つとし、世界各国を巡っている。旅先や日常での出来事を映し出したエッセイと写真をインスタグラムやブログで発表、注目を集めている。
Instagram/@ayumikusum

謎多き王妃を心に宿して、エジプトの旅へ

天井が失われたカルナック神殿の大列柱室。かつては採光窓から美しい光が降り注いだそう。 Ayumi Kusumi

昔から憧れの女性はもうこの世にいないひとばかり。なぜでしょう。分からないことが多いほど、自分でその女性像を完成させられるからかもしれません。残っている限られた史料とそこから広がる想像をミックスして、自分だけのミューズを作ります。神格化に近いのかもしれませんが、その過程で感じられるロマンや、悠久の彼方(かなた)へ心を連れ去られるような感覚が、たまらなく好きなのです。

エジプトへの旅で私が出会ったミューズはネフェルタリでした。古代エジプト史で唯一大王と呼ばれる偉大なファラオ、ラムセス二世の第一王妃です。ネフェルタリの「ネフェル」は古代エジプト語で美という意味。聡明かつ絶世の美女だったと伝えられています。

カイロからスタートした旅。ホテルから見たナイル川の夕暮れ。 Ayumi Kusumi

エジプト滞在時は彼女を心の中に住まわせたまま、遺跡や博物館を巡り、そのおかげで自分ひとりでは思いもよらなかった視点や感覚に出合うことができました。壁画に刻まれた物語を見ては、その当時の彼女から見た景色を想像する。喜びや悲しみや葛藤を思い浮かべる。目の前に残る事実を見つめ、それから目を閉じる。すると、彼女が白い羽衣のようなドレスを纏(まと)いながらゆったりと歩いている場面や、情熱を内包しながらもどこか距離を感じるような目線、控えめな微(ほほ)笑み、甘くスモーキーな香りにいたるまで、リアリティをもって心の中に立ち上ってくるのです。

ルクソールで滞在したソフィテル ウインター パレス ルクソール。 Ayumi Kusumi

ネフェルタリについて多くのことは分かっていません。彼女自身の発言なども残されておらず、今も謎に包まれています。だけど、ひとつだけ確かなことがあります。ラムセス二世が寵愛(ちょうあい)という言葉では足りないほど、彼女を特別に愛していたという事実です。

約3300年前当時の色彩のままのネフェルタリの墓。 Ayumi Kusumi

ルクソールの王妃の谷にある彼女の墓を訪れたとき、三千年以上前とは信じられないほどの色彩の鮮やかさに息をのみました。いくつもの部屋と廊下が続く地下の家のような空間。玄関部から奥に続く壁画は冥界へのいざないの物語。美と愛の女神イシスに手を引かれて部屋の奥へ奥へと進む彼女や、ボードゲームに興じている姿も。ただ、彼女の向かいには誰もいません。運命と戦っているのです。そして天井を見上げれば一面の深い夜空に黄色い星がびっしりと瞬いていました。どの空間も彼女がファラオに与えた愛、喜び、そして深いインスピレーションを示すかのようでした。

ここは、墓でありながら、ラムセス二世から最愛のネフェルタリへ贈られた究極のラブレターであり、宝石箱。こんなにも想われた彼女はどんな気持ちだったのだろう。そして、実際彼女はファラオをどれほど愛していたのか。なんて、ドキッとすることを考えてみたりもします。

旅の締めくくりはエジプト屈指のリゾート、シャルム・エル・シェイクへ。 Ayumi Kusumi

史実は限られています。だからこそ想像を自由に羽ばたかせることができます。こんなふうに歴史を彩るミューズたちは、遠い過去のひとでありながら、いまも私を引きつけてやみません。きっとこれからも旅をするたびに、彼女たちの残した断片を拾い集めながら、息を吹き込み続けるのでしょう。ミューズたちが私の手をとり、遥(はる)か遠くの神秘へといざない続けてくれるのを夢見ながら。

初出:リシェスNo.55 2026年3月27日発売
EDITING:YUKO KAMIYAMA

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