1. トップ
  2. ビジネス・マネー
  3. “がん”と診断された60代妻→『貯金300万円あるから治療費は大丈夫』と思いきや…その後、夫婦が直面した“想定外の大誤算”

“がん”と診断された60代妻→『貯金300万円あるから治療費は大丈夫』と思いきや…その後、夫婦が直面した“想定外の大誤算”

  • 2026.7.10
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは、家計・資産形成・相続など、お金に関するご相談をお受けしている、マネーシップス代表 ファイナンシャルプランナー/IFAの石坂です。

がんへの備えというと、まず手術代や入院費、抗がん剤治療などの医療費を思い浮かべる方が多いでしょう。高額療養費制度があるため、「ある程度の貯金があれば何とかなる」と考える方も少なくありません。

しかし、治療が始まると、病院の会計で支払うお金以外にも、通院交通費、付き添い家族の移動費、食事代、宿泊費、収入減などが家計に影響することがあります。今回は、貯金300万円を残していた60代夫婦の事例をもとに、見落としやすい支出を見ていきます。

「治療費は制度で抑えられる」と考えていた60代夫婦

undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

64歳の夫と61歳の妻は、老後資金とは別に、病気への備えとして貯金300万円を残していました。住宅ローンは完済済み。生活費は、夫の短時間パート収入と貯金の取り崩しで何とか回していたそうです。

妻ががんと診断されたとき、夫は「医療費は高額療養費制度があるから、貯金300万円あれば大丈夫だろう」と考えました。実際、手術や検査、薬の費用については、制度を使うことで月ごとの負担は想定より抑えられました。

ところが、家計をじわじわ圧迫したのは、病院の窓口では見えにくい支出でした。

自宅から専門病院までは片道約70分。電車代に加え、体調が悪い日は最寄り駅から病院までタクシーを使いました。妻1人で通院しても往復約6,800円。夫が付き添う日は、2人分の電車代にタクシー代も加わり、1回あたり1万円を超えることもあったそうです。

抗がん剤治療や検査が重なる月は、通院が月4回になることもありました。その月の交通費だけで4万円前後になることもあります。さらに、診察が昼をまたぐ日は、院内の売店や近くの飲食店で食事を取り、1回あたり2,000〜3,000円ほどかかりました。

朝早い検査の前日は、病院近くのホテルに泊まることもありました。宿泊費は1泊約1万2,000円。遠方から来ている人に比べれば近い方だと思っていましたが、数回重なると無視できない金額になります。

また、夫は付き添いのためにパートの勤務日数を減らしました。月5万円ほどあった収入は、治療が立て込む月には2万円台まで下がりました。高額療養費制度によって抑えられた保険診療の自己負担額に、これらの交通費、食事代、宿泊費、そして夫の収入減をすべて合わせると、 半年で家計への影響(支出増と減収の合計)は約60万円に広がりました。

夫は通帳を見て、「病院に払ったお金だけを見ていたら、実際に減っている金額と合わない」と驚いたそうです。

見落としやすいのは「制度の対象外になる支出」

この事例で大切なのは、300万円という貯金が少なかったという話ではありません。問題は、備えの見積もりが「医療費」だけに偏っていたことです。

高額療養費制度は心強い制度ですが、通院交通費、付き添い家族の交通費、食事代、宿泊費などまで広く補ってくれる制度ではありません。

※なお、患者本人の通院交通費(公共交通機関や、やむを得ない場合のタクシー代)や、病状により必要な場合の付き添い家族の交通費は医療費控除の対象になります。しかし、外来通院時の食事代や前泊の宿泊費などは原則として対象外となるため注意が必要です。 また、控除対象の費用であっても、治療中の家計からいったん現金が出ていく点には変わりありません。

また、治療が長引けば、通院回数が増える、家族の付き添いが必要になる、働き方を変えざるを得ない、といった変化も起こります。ここまで含めて見ておかないと、貯金の減り方を見誤ることがあります。

がんへの備えは「治療費+生活費」で考える

がんへの備えでは、医療費の自己負担だけでなく、治療を続けるための生活費まで確認することが大切です。

特に確認しておきたいのは、次の3点です。

  • 通院が月に何回になると、交通費はいくら増えるか
  • 家族が付き添う場合、食事代や移動費はいくらかかるか
  • 本人や家族が仕事を減らした場合、毎月の収入はいくら下がるか

まず現在の生活費を確認し、「通常の月」「通院が増える月」「収入が減る月」に分けて試算します。医療保険も、入院給付金だけでなく、診断給付金や通院給付金の有無を確認しておきたいところです。

なお、公的保険の「傷病手当金」は、会社員などの被保険者本人が病気で休職した場合に支給される制度です。今回の事例のように「家族の付き添いのために仕事を減らした」というケースでは、たとえ会社員であっても傷病手当金は支給されません。 自営業者や退職後の方はもちろん、家族をサポートする側の減収リスクに対しても、手元資金や民間保険でどう備えるかをあらかじめ確認しておくことが大切です。

※高額療養費制度には、直近12か月で高額療養費に3回以上該当した場合、4回目以降の自己負担限度額が下がる「多数回該当」という仕組みもあります。ただし、それでも交通費や食事代、家族の付き添いによる収入減まで自動的に補われるわけではありません。

病気への備えは、病院に払うお金だけでは足りません。治療中も住宅費、食費、通信費、交通費は続きます。医療費の上限だけで安心せず、治療を受けながら生活を続けるためのお金まで含めて考えておきたいところです。

の記事をもっとみる