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床の間の主役・掛け軸の種類やその意味を目利きが解説|和室のマナー

  • 2026.6.11
撮影=高嶋佳代

日本人の暮らしに欠かせない存在として受け継がれてきた和室。現代的なライフスタイルのなかで和室で過ごす機会は少なくなりつつありますが、和室で行われる作法には、相手を尊び、場に心地よい調和を生むための先人の知恵が息づいています。今回、茶道や礼法の専門家の監修のもと、嗜みとして知っておきたい基本のマナーを具体的にご紹介します。

ここでは、床の間の掛け軸について解説します。床の間の掛け軸には、さまざまな種類があります。東京・虎ノ門に店を構え、茶の湯の道具を通して日本の美意識を伝える「壽泉堂(じゅせんどう)」のコレクションを例に、お話を伺いました。

お話を伺ったのは...

樫本昌大さん(「壽泉堂」代表)

かしもとまさひろ◯1965年生まれ。97年、茶道具を中心に取り扱う美術商「壽泉堂」の3代目を継ぎ、茶人や蒐集家から厚い信頼を得る。古美術の美と精神性を現代につなぐべく、確かな審美眼で名品を世に伝える。

掛け軸は空間を司るしつらえの中心。主人の心を映す書画と向き合う

談=樫本昌大

現代に通じる様式の掛け軸は、平安時代に仏画として中国から伝来し、室町時代以降の茶の湯の発展とともに、日本独自の進化を遂げました。「和室という空間において、掛け軸は単なる装飾品ではなく、その場の“格”や“主人の思い”を象徴する、しつらえの主役。茶会の会記の初めは必ず『床』で、掛け物の内容が第一に載ることからも、その重要性が窺えます」と、樫本昌大さんは言います。

書や絵画などの本体を「本紙」、それを表装するものを「表具」といいます。本紙は、以下で紹介する「墨蹟」「絵画」「古筆切」「消息」など多岐にわたります。表具に用いられる裂地(きれじ)にも金襴(きんらん)、金紗(きんしゃ)、竹屋町(たけやまち)、緞子(どんす)などさまざまな種類があります。

「まずは墨の濃淡や紙の質感、表具との調和を楽しみましょう。季節を先取りして選ばれる掛け軸は、本紙の題材だけでなく、表具にも季節感が表現されています。絵と違って書の掛け軸は読めないことがほとんどですが、例えば消息には日付が入っており、時期に合わせて選ばれたことがわかります。主人の意図を汲める一助となるのが掛け軸なのです」

墨蹟(ぼくせき)

大徳寺185世 玉舟宗璠 《行到水窮処 坐看雲起時》 撮影=高嶋佳代

墨筆で書かれた禅語の掛け物。特に禅宗の高僧の筆跡を指し、茶の湯において最も格式高いとされる。縦に書かれたものを堅物(たてもの)、横に書かれたものを横物(よこもの)といい、行数により一行物(いちぎょうもの)、二行物(にぎょうもの)と称する。双幅(そうふく)、三幅など複数掛けの「対幅(ついふく)」はより格が高いしつらえ。こちらの禅語は、中国・盛唐の詩人である王維の詩「終南別業」の一節。「行きては到る水の窮まる処、坐しては看る雲の起こる時」と読む。

古筆切(こひつぎれ)

伝 藤原行成 《久松切》 撮影=高嶋佳代

平安・鎌倉期の和歌集の断簡を軸に仕立てたもの。流麗な仮名文字が空間に王朝文化の雅を添える。装飾料紙の美しさも見どころで、和室に文学的な薫りと歴史の奥行きをもたらす優美な一幅。ゆかりの地名や所有者にちなみ「○○切」とも呼ばれる。こちらは『和漢朗詠集』を書写した、もとは上下二巻の巻物。「女郎花」の題が読める。

消息(しょうそく)

豊臣秀吉 《竹中半兵衛宛書状》 撮影=高嶋佳代

高僧や茶人、武将らが記した手紙(書状)。本来は私的な通信であるが、筆跡の美しさや内容の深さから珍重され、軸に改装された。発信者の人柄や当時の息遣いが直接伝わり、対面の場に生きた物語を添える。写真の消息は豊臣秀吉が竹中半兵衛に宛てた書状で、秀吉の花押と七月十五日の日付が読める。

懐紙(かいし)

近衛信尋 《和歌懐紙》 撮影=高嶋佳代

和歌や俳句をしたためるための細長い料紙。限られた余白に凝縮された言葉の美しさを愛でる一幅。軽妙な趣があり、数寄屋造のようなくつろいだ空間にも馴染みやすい。表具はそのままに短冊を入れ替えて楽しむこともできる。「なくせみのこえもやかよふ岩ふれて わきかへる水のきよきこころは」は、江戸時代前期の歌人・能書家の烏丸光広の和歌。

絵画

松村景文 《秋の七草》 撮影=高嶋佳代

山水や花鳥などを描いた純粋な絵画。季節の趣を室内に取り込む役割を担う。掛ける場所の格や季節に合わせ、墨画から着彩まで幅広く選ばれ、和室に視覚的な華やぎと豊かなうるおいを与える。秋の七草が描かれたこちらは、四条派の名手といわれる江戸後期の絵師・松村景文の作。桔梗の代わりに朝顔が描かれており、夏から秋への繊細な移ろいが見える。

短冊

烏丸光広 《和歌短冊》 撮影=高嶋佳代

和歌や俳句をしたためるための細長い料紙。限られた余白に凝縮された言葉の美しさを愛でる一幅。軽妙な趣があり、数寄屋造のようなくつろいだ空間にも馴染みやすい。表具はそのままに短冊を入れ替えて楽しむこともできる。「なくせみのこえもやかよふ岩ふれて わきかへる水のきよきこころは」は、江戸時代前期の歌人・能書家の烏丸光広の和歌。

色紙

酒井抱一 《色紙幅》 撮影=高嶋佳代

書画を記すためのほぼ正方形の料紙。平安時代より続く伝統的な寸法であり、画面の構成力と濃密な芸術性が凝縮されている。軸のほか、額状の色紙掛けに飾られることも。写真は、鎌倉時代の歌人・藤原光俊の和歌「山がらの まはすくるみの とにかくにもてあつかふは 心なりけり」に、江戸琳派の創始者・酒井抱一が絵を添えた一幅。金箔紙に、くるみの実に乗った山雀(やまがら)が描かれている。

画賛

狩野探幽 《山水図》 撮影=高嶋佳代

絵画に、その画題を称える言葉(賛)を書き添えたもの。絵と書が呼応し、ひとつの世界を創り出す。筆者と画家の感性が重なり合うことで、多層的な精神性や教養を空間に醸成する一幅。画と賛は別々の作者のことが多いが、こちらは画賛ともに狩野探幽の作で、「自画賛」という。

竹屋町

鈴木 一 《天と地》 撮影=高嶋佳代

京都の竹屋町で創始された、紗に金糸などで刺繡を施した贅沢な裂(きれ)を使った表具を指すが、本紙としても用いられる。華やかさと精緻な技巧が特徴。透け感がある写真の紗の軸は、後ろの絵を重ね替えて楽しむこともできる。

撮影=高嶋佳代 編集・文= 柏木敦子(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年7月号より

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