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「この人、監視してる」毎朝、椅子に座って見張る隣人。だが、引越しする旨を伝えた結果

  • 2026.6.11

角部屋の前に置かれたキャンプ椅子

入居の挨拶に行ったとき、隣の角部屋の60代くらいの女性はにこやかだった。

「分からないことがあったら何でも聞いてね」

隣が良い人で良かった、と最初は安心していた。ところがその人は、なぜかいつも自分の部屋の前にキャンプ用の椅子を出して座っているのだ。

外が好きな人なのかな、と思っていたのは最初の数日だけだった。

仕事から帰ってアパートの階段を上がると、必ず声が飛んでくる。

「今日は遅かったわね、買い物でもして来たの?」

(この人、監視してる)

そう気づいたのは、その人が私のことだけでなく他の部屋の住人の動向まで把握していたからだった。

「〇〇さん、最近帰ってこないけど、奥様とケンカでもしたのかしら」

別の部屋の夫婦の話まで、まるで実況中継のように聞かされた。

1時間早く出ても始まっている監視

顔を合わせたくなくて、ある朝、いつもより1時間早く家を出ることにした。

まだ薄暗い時間なら、さすがにあの椅子は空っぽだろう。そう思って静かに玄関を開けた。椅子には、もう座っていた。

「あら、今日は早いじゃないの?忙しいの?」

「…ええ、まあ」

「あらあら、無理しないようにね」

笑顔で見送られながら、私は背中に冷たいものを感じていた。

何時に起きれば監視を逃れられるのか、もう分からない。唯一の救いは、雪が降るとあの人が椅子から消えることだった。

だから私は、田舎の冬で誰も望まないはずの大雪を、いつしか心待ちにするようになっていた。

「今日、雪降りそうですね」

同じ階の住人とすれ違うとき、私たちは天気の話にかこつけて、そっと笑い合うのが習慣になっていた。

退去を告げた朝、初めて黙った隣人

次の契約は更新しないと決めた。新しい部屋が決まり、引っ越しの前日、私は菓子折りを持って角部屋の椅子の前に立った。

「お世話になりました。来月、引っ越すことになりまして」

その人は一瞬、口を開きかけて止まった。

「あら…どこに行くの?遠いの?」

いつものように行き先を聞き出そうとする声に、私はにっこり笑って答えた。

「内緒です。次のお部屋、誰にも見張られない静かなところを選んだので」

その人の手が、膝の上でぴたりと止まった。

何か言いかけて、結局その口からは言葉が出てこない。毎朝あれだけ私の予定を当ててきた人が、初めて何も言えずに固まっていた。菓子折りを渡して階段を下りながら、私は久しぶりに自分の歩く速度で歩いている気がした。後ろから声は、もう飛んでこなかった。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、30代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

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