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「開発の鍵は技術ではなく人」ダッリーニャが語るドゥカティ成功の理由

  • 2026.6.8

圧倒的な強さを誇るドゥカティMotoGPの指揮官であるルイージ・ダッリーニャは、かつての原田哲也氏の僚友であり、現在の親友でもある。気が置けない間柄のふたりだからこそ実現した特別対談が、MotoGP日本GPの舞台、モビリティリゾートもてぎで行われた。「強さの秘密なんて、特にないよ」と笑いつつも、ダッリーニャが真摯に語ったレースの真髄とは──。

PHOTO/S.MAYUMI, Ducati

TEXT/G.TAKAHASHI

※この記事は『RIDERS CLUB 2025年6月号(No.620)』に掲載された内容をもとに、WEB掲載用として再構成しています。

30年来の友人だからこそ聞けたドゥカティの強さ

僕とジジ(ルイージ・ダッリーニャの愛称)の付き合いは長い。

'97年に僕がアプリリアのファクトリーライダーになった時、ジジは30代始めの若手エンジニアだった。僕も27歳だったから、お互いに若かった。ジジは当時から穏やかな物腰で、ライダーである僕の言い分にいつも静かに耳を傾けてくれた。だが、意思ははっきりとしていた。

新しいパーツの投入に関しては、非常に積極的だった。正直、結果を最優先するライダーとしては、安全策を採ってほしい時もある。だがジジは、「テツヤの言いたいことも分かる。でもこのパーツを使いたいんだ」と、攻めの開発姿勢を貫いた。

十分なテストを行うことなく、新しいパーツをどんどん実戦投入することもあった。いきなり苛酷なレースの現場に叩き込まれるのだから、トラブルに見舞われ、リタイヤを喫する場合も多い。

「だから言ったじゃないか!」と僕が頭に来ていても、ジジは穏やかなままで、「次はもっといいパーツを持ってくるよ」と、あくまでも前に進もうとした。

そうしてジジとは5シーズンを共に送った。お互いに妥協することなく切磋琢磨しながら、僕とは馬が合ったのだと思う。現役を引退する時、僕はアプリリアを離れホンダのライダーだったが、ジジからは何度も本気で「アプリリアに戻ってこないか?」と誘われた。

すべてを出し切った僕にその気はなかったが、その後も現在に至るまで友達付き合いが続いている。彼の素晴らしい邸宅にたびたび招かれて、一緒に食事をすることもある。メールでのやりとりもしばしばだ。

9月26日、いつもの友人関係とはひと味違うかしこまった話をするために、日本GPの舞台であるモビリティリゾートもてぎに足を運んだ。

金曜日の朝で、間もなく走行セッションが始まろうかというタイミングだ。しかもマルク・マルケスのチャンピオンが懸かった重要なレースの走行初日だったが、ジジは焦る様子もなく、いつもの穏やかさで「コーヒー飲むか?」と、イタリア流の濃厚なエスプレッソを出してくれた。

現在の彼は、ドゥカティMotoGPのゼネラルマネージャーとして辣腕を振るっている。最強時代を築き上げ、今も躍進を続けているドゥカティにあって、ジジがキーパーソンであることは間違いない。

ドゥカティの強さの秘密や、拡大の一途を辿るMotoGPのあり方について、ジジに聞きたかった。

エンターテインメント化が進むMotoGPをどう見る?

原田──最近のMotoGPはショーアップが進み、エンターテインメント性が高まっています。ジジさんにとって、エンターテインメントと純粋な開発と、どちらが大事ですか?

ジジ──私は技術者だからね。マシンを造り、ライダーと話し合いながらパフォーマンスを高め、マシンの理解を深めることが何よりも好きだ。

一方で、MotoGPはアメリカのリバティメディアに買収され、新しい局面に入ろうとしている。それはそれで、いいことだと思っているよ。まだMotoGPが十分に浸透しているとは言えないアメリカのマーケットで、新しい動きが起こるだろうからね。よりよいショーになるのではないかと期待している。

原田──ショーという点では、開発に厳しい制約が課せられ、タイヤやECUが共通化されたことがMotoGPの面白さにつながっています。

しかしジジさんのような生粋の技術者からすると、思い切った開発ができずに物足りないのではないでしょうか?

MotoGP DUCATI
MotoGP DUCATI

ジジ──そんなことはないよ。いくら開発に制約があったとしても、MotoGPはプロトタイプマシンを使って競われるレースだからね。

特に車体まわりに関しては、いまだに新しい発見があるし、開発の余地もたくさん残っている。空力パーツなどはもっとも分かりやすい例だ。

最近はコンピュータを利用することでバイクの運動力学的な理解が進んでいる。シミュレーションによる解析も進歩する一方だ。これらは開発において非常に重要なファクターであると同時に、私たちにさらなる開発の可能性を示してくれるんだ。

原田──僕たちがまだ若くて一緒に仕事をしていた30年前には、考えられないほどの進化ですよね。

ジジ──本当だね。何しろ私がこの仕事を始めた頃には、コンピュータどころか紙と鉛筆と自分の手でマシンを設計していたんだから(笑)。こんな時代が来るなんて想像もしていなかったよ。

今はコンピュータ活用やシミュレーションの分野が凄い勢いで進歩し続けている。私は物事を数字でロジカルに理解するのが大好きな技術者として、この状況を楽しんでるよ。

アプリリア時代に築いた信頼関係

原田──ところで、現役時代の僕のことはどう思っていましたか? 改めてこんなことを尋ねるのは少し気恥ずかしいのですが……(笑)。

ジジ──テツヤは覚えているかどうか分からないけど、テツヤがくれたヘルメットは、私のライダーヘルメットコレクションの第1号なんだよ。

テツヤとの思い出はたくさんあって、数え切れないほどだ。グランプリの2スト250ccクラスではふたりで素晴らしいマシンを作り上げられたと思っているし、2スト500ccクラスではグリッドで最高のマシンだったと今でも確信している。苦労も多かったけど、たくさんのことを学べたよ。今の私がこのような素晴らしいポジションにいられるのは、テツヤのおかげだ。

原田──本当ですか?(笑)

ジジ──ああ、もちろん(笑)。テツヤはいつも礼儀正しく、我々技術者にも敬意を払ってくれた。君こそが世界でもっとも礼儀正しいライダーだよ。

原田──本当ですか?(笑)

ジジ──もちろんだよ(笑)。君や奥さんのミユキとはレースウィークに何度となくディナーを楽しみながら、とにかく話をしたよね。私にとっても大切な、いい時間だった。

ドゥカティ再建で重視した「会話」

原田──そう、ジジさんと言えばライダーはもちろん、スタッフともたくさん会話している姿が印象的でした。今も変わらないその取り組み方は、もともとのあなたの個性なのでしょうか? それとも仕事上のスタイルですか?

ジジ──両方だね。特にドゥカティに参画した'13年からは、苦況を打破するためにプロジェクトに関わるあらゆる人々とじっくりと会話することを心がけたよ。ライダーはもちろん、エンジニアやメカニックなどすべてのスタッフたちとね。

MotoGP DUCATI
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私は自分の知識を抱え込んだりはしない。すべてをオープンにして自分の考えをみんなと共有したいし、みんなが考えていることも知りたい。

何が問題なのかを探り当てるためには、それが最善の方法だからなんだ。人と会話することで、解決策も見えてくる。これは私がエンジニアの仕事をしていく中で身に付けた、ごく自然なやり方だ。中でも、開発のキーとなるライダーとの会話は重視しているよ。

原田──僕と一緒に仕事をしていた頃、ジジさんはいちエンジニアでしたが、今はゼネラルマネージャーとして、チーム全体を束ねる立場です。仕事のやり方は変わりましたか?

ジジ──変わらないところもあるし、変わったところもあるかな……。私は今も自分は技術者だと思っているし、相変わらずテクノロジーが好きだから、できるだけ開発現場の近くに居続けたいと思っているんだ。

しかしゼネラルマネージャーとして、技術以外の多くのことに気配りをしなければならない。ドゥカティとしてあらゆる部分を高める必要があるからね。いろいろなことが起こるけど、それも楽しんでいるよ。

「成功の鍵は人にある」

原田──人々のマネージメントほど大変なことはなさそうですが……。

ジジ──確かにね。だが、最終的には人こそが重要な資産だ。開発のキーを握っているのは、技術そのものではない。あくまでも人なんだよ。

誰だって、ひとりですべてのことをこなせるわけじゃない。ひとりでできることは限られている。自分の脳はひとつしかないからね。

だが優れた人材が10人いたら、脳は10個になる。それはつまり、少なくとも10倍のアイデアを得られるということだ。だからこそ優秀なチームを組み、話し合いの時間を設け、チーム全体に良い雰囲気をもたらすことが重要なんだよ。

MotoGP DUCATI
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原田──聞いているだけでも大変そうです(笑)。そういった考え方に至った理由があるのでしょうか?

ジジ──たくさんのミーティングを重ねる中で、ひとつのテーブルを囲んで面と向かって話し合う方がいいアイデアが出ることが分かったんだ。

「面と向かってのミーティングなんて時間の無駄だ」と言う人もいる。だが私はそうは思わない。もちろん手間はかかるが、私にとって顔と顔を突き合わせてのミーティングこそが、もっとも大切な時間だ。

開発スピードこそが最大の武器

原田──そのあたりにドゥカティの強さの秘密があるんですね?

ジジ──いやいや、秘密なんて言えるようなものはほとんど何もないよ。

'13年の終わりにドゥカティに来てから今にいたるまで、シーズンが始まるごとに気持ちを新たにして勝つことだけを考えた。そして勝つためには過去に頼るのではなく、常に新しい何かを見付け、新しい何かに挑戦する必要があったんだ。ひたすらそれを繰り返してきただけだよ。……それが難しいんだけどね。

そして私の考えでは、開発スピードの速さはこの仕事においてもっとも重視すべきポイントだ。

スピードを重視すると、時にはリスクを負わなければならない。新しいアイデアを投入するにあたって、完全には準備できていないことも多いからね。だがリスクを恐れてアイデアの投入を遅らせるのは、勝利を遠のかせるだけだ。

原田──現役時代のジジさんとの仕事では、ずいぶんとリスクを背負わされましたよ(笑)。でも、その分進化が感じられて、モチベーションが高まるのも確かでした。

今のMotoGPで日本メーカーが苦戦しているのは、開発スピードにも要因がありそうですね。

ジジ──そうかもしれないね。日本メーカーの技術力は並大抵ではない。もしかすると我々ドゥカティより高いレベルにある、と言えるかもしれない。しかし、それらの投入のタイミングは十分速いとは言い難い。

この問題は日本人のメンタリティや組織のあり方によるところも大きいから、すぐには変わらないかもしれない。日本のやり方には特有のメリットもあると思うが、今のMotoGPでは開発スピードが求められる、ということなんだ。

ダッリーニャが考えるMotoGP最高峰の価値

原田──結果が出ている時はいいと思うのですが、レースは必ずしもうまく運ぶとは限りません。

僕はジジさんが穏やかな人柄であることをよく知っていますが、それでもフラストレーションが溜まることだってあるでしょうね。

ジジ──そういうことも、ないとは言えないね(笑)。だが、私の仕事はプロジェクトに関わっている全員の士気を高めることだ。もし自分の中に良からぬ感情があったとしても、それを隠してみんなのサポートに徹することが重要だと考えている。

最終的な責任は、すべて私にあるからね。ベストな解決策を見出すために、自分の考えをあえてスタッフに伝えないことだってあるよ。

たくさんのスタッフとしっかりと話し合いながら、チーム全体のパフォーマンスを高めるのが基本だ。しかしリーダーとして必要なら、自分ひとりで決断しなければならない時もある、ということだ。

原田──MotoGPは世界最高峰の二輪レースと言われています。ジジさんの考えでは、何をもって「最高峰」なのでしょうか?

ジジ──まずは、ライダーだ。ここには世界中から集まったベストライダーがいる。そして、マシンだ。先ほども話題になったように、開発には制約があって、完全に自由とは言えない。しかしまだまだやれることはたくさん残っているよ。

特に車体はほぼ完璧に自由な開発ができる。車体には、たくさんの技術的なアイデアを投入できるんだ。今はここが市販車ベースのスーパーバイク世界選手権との大きな違いになっている。

MotoGP DUCATI
MotoGP DUCATI

そしてMotoGPで磨かれた技術は最先端だ、ということも最高峰の証だね。今でいうと、空力パーツの開発は幅広い形で市販車に反映されている。「羽根が付いているかどうか」という分かりやすい部分だけではない。MotoGPマシンの開発を通してエアロダイナミクス全体の理解が深まることで、市販車での走行中のライダーの快適性を高めるようなことに活用できるんだ。

原田──ジジさんの頭の中には、まだまだたくさんのアイデアが詰まっていそうですね(笑)。

ジジ──もちろん! いいアイデアもあれば、それほどでもないアイデアもね(笑)。大事なのは、まずアイデアを持つこと。そして正しい選択をすること。その繰り返しだ。開発に終わりはないよ。

原田──今日は深いお話をありがとうございました。またヨーロッパで食事しましょう!

ジジ──いいね! 後でメールするから、ミユキも連れておいで(笑)。

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