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MotoGPや航空機にも使われる5軸加工で生まれる、モトコルセの美学

  • 2026.6.1

モトコルセのアルミビレットパーツには、独特の美しさがある。滑らかな曲面、手に触れた瞬間の質感、そして削り出しとは思えない艶感。その背景には、東京・北区の町工場「青山輪工社」が持つ高度な5軸加工技術と、“手を抜かない”モノ作りへの執念があった。

PHOTO/T.MASUI

TEXT/T.YAMASHITA

※本記事は『RIDERS CLUB 2025年2月号(No.620)』掲載記事をWEB向けに再編集・再構成したものです。掲載内容は取材当時の情報をもとにしています。

“削りだけ”で生まれる異次元の質感

モトコルセのアルミビレットパーツには、独特の存在感がある。

滑らかな曲面、吸い付くような手触り、そして削り出しとは思えない艶感。数あるビレットパーツの中でも、明らかに“空気”が違う。

その理由は、曲面と平面を巧みに使い分けたデザインと、それを現実の金属として成立させる高度な切削技術にある。

一般的に、金属切削加工は直線や平面を得意とする。一方で、複雑な曲線や滑らかな曲面を削り出すには、高性能な工作機械だけでなく、繊細な刃物選びやプログラミング技術、そして職人の経験が不可欠だ。

ちなみに、日本製のビレットパーツは柔らかな曲面を活かしたデザイン、イタリア製はシャープで直線的な造形が多い傾向にあるという。

そして、モトコルセの日本製ビレットパーツを主に手がけているのが、東京・北区にある青山輪工社だ。

都電荒川線が走る住宅街にある小さな町工場。しかし工場内には、航空機や宇宙開発、F1、MotoGPの世界でも使用される“5軸制御マシニングセンタ”が設置されている。

プレミアムカスタムパーツビルダーMOTO CORSE
【5軸マシニングセンタと匠のプログラムが精密で複雑な製品を作り出す】使用する材料は円筒形のアルミニウムで、切削工程は大きく外側と内側に分けられる。外側を深い溝のある樽状に切削した後、内側を大きくえぐるように切削していく

5軸制御マシニングセンタとは、材料を固定するテーブルをX(前後)、Y(左右)、Z(上下)に加え、A(回転軸)とC(傾斜軸)の5方向へ動かすことで、極めて複雑な形状を高精度で加工できる工作機械だ。

青山輪工社では、自動車、航空機、ロケット、人工衛星などに使われる部品加工も請け負っている。その多くは量産品ではなく、自動車メーカーが開発中のプロトタイプエンジンなどに用いられる“一品もの”だ。

ただし、5軸加工機は導入しただけで高度な加工ができるわけではない。

重要なのは、それをどう動かすかである。

複雑な形状を削り出すためには、数百工程にも及ぶプログラムを作成し、刃物の動きや角度を細かく制御しなければならない。

たとえば、モトコルセの「CNCビレット プリロードアジャスタグリップ」の上面ロゴ。1mmにも満たない細さで曲面上へ刻印されており、しかも底面は直角に切削されている。

プレミアムカスタムパーツビルダーMOTO CORSE
【30本以上もの刃物の状態を随時確認する】複雑な形状の加工では繊細な刃物の切れ味は落ちやすく、切削面が段付きになることがある。これを防ぐために、30本以上の刃物を常に確認する

こうした加工を実現するには、繊細な刃物を曲面へ垂直に当て続ける必要があり、そのために複数のプログラムと工程が必要になる。

「こういう加工ができるから青山さんを信頼しているのです」

そう話すのは、モトコルセ代表の近藤伸さんだ。

すると青山輪工社代表の青山宏さんが、「実際には5軸を使いこなしている工場は少ないんですよ」と応じる。

確かに5軸加工機は、人間の手作業でしか不可能だった複雑な形状を、高精度かつ再現性を持って加工できる。

しかし、その性能を引き出せるかどうかは、最終的には人間の技術にかかっている。

「プリロードアジャスタグリップは、大きな溝のある樽形です。この樽形、山側と溝側では曲率が異なっています。これは青山さんにしか作れません」

MotoGPや航空機にも使われる5軸加工で生まれる、モトコルセの美学
motocorse

さらに驚かされるのは、この製品には研磨工程が存在しないことだ。

マシニングセンタによる切削だけで、あの滑らかで艶のある曲面を作り出しているのである。

そのためには何本もの刃物を使い分け、切削工程を細分化しなければならない。

「後にアルマイト処理はしますが、私から見ても“削りだけ”で作っているとは思えないほど、滑らかで手に馴染む仕上がりです」

当然、繊細な刃物を使えば消耗も激しくなる。

刃先が少しでも傷めば切削面は荒れ、製品は不良品として廃棄される。刃物も新品へ交換だ。

「青山輪工社基準ですね」と近藤さんは笑うが、青山さんは「恥ずかしくて出せないですよ」と真顔で返す。

「手間や工数を考えれば、かなり割安だと思います。商売として見ていない部分もありますね。5軸好きじゃないと、ここまではできないと思います」

実は青山さん自身もバイク乗りだ。

二人が出会ったのは約20年前。埼玉・小鹿野で開催されたイタリアンバイクの試乗会だった。

近藤さんは出展側、青山さんはひとりのバイク乗りとして参加していた。

「話が合ったんです。それで後日、サンプルを持ってモトコルセを訪ねました。私は、作って楽しいもの、やりがいのあるものしか作りたくありません。他の業者でも作れるようなものは、やりたくないんです」

近藤さんが生み出すデザインは、そんな青山さんの職人魂を刺激した。

「最初に作っていただいたのは、MVアグスタ・ブルターレ用のナビゲーションマウントでした。曲面を切削で仕上げる必要がある、非常に難しいデザインだったのです」

試作品はいくつも製作された。

しかし、その完成度は近藤さんの想像を超えていたという。

モトコルセのビレットパーツは、近藤さん自身がデザインを行ない、社内でCADデータ化された設計図が青山輪工社へ送られる。

興味深いのは、そこからさらに青山さんが装飾要素を提案することだ。

「とくに表面の仕上げですね。“こんなふうにしたらどうでしょう?”と、プロトタイプで提案してくださるんです。工数は増えるのですが、青山さんは手間を惜しまず、より良いものを優先してくださる。それでさらに美しくなるんです」

機能美という言葉がある。

モトコルセ製品は、もちろん性能面でも優れている。しかし、それだけではない。

プロにしか気付けないような、繊細な装飾美が随所に盛り込まれている。

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プリロードアジャスタグリップ(1万8700円)/オーリンズの樹脂グリップと換装する

「もちろん、多くのお客様に喜んでいただきたいです。でも、人によって美しさの基準は違います。だからまず大切にしているのは、“自分が欲しいかどうか”なんです」

近藤さんはそう語る。

「形状や艶感、肌触り、使い心地。自分自身が“欲しい”と思えるものを作りたい。その積み重ねが、モトコルセというブランドの軸になっていると思います」

美しさの基準は人それぞれだ。

しかし、多くの人が“美しい”と感じる一定のラインも確かに存在する。

近藤さんは、さらにその先を狙う。

「素材や形状、表面加工の美しさは、手にした時の満足感につながると思うんです。でも私が本当に大事にしているのは、“驚き”なんです」

「青山さんの製品には、独特の優しい艶感があります。“切削だけでここまでできるのか!”と、まるでマジックを見た時みたいな驚きを感じてもらえると思います」

さらに近藤さんは、「美しさは結果のひとつ」だとも語る。

「金属加工のプロですら驚かせたいんです。プロが見て悔しくなり、“もっといいものを作りたい”と思うような製品を目指しています。そうすれば自然と、美しさも形になると思うんです」

青山さんも頷く。

「どれだけ手をかけ、どれだけ突き詰めるかですね。そういう仕事は楽しいんですよ。つまらなかったら続きません」

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ライディングステップセット(34万7380円)/パニガーレV4用のバックステップ、ストリートファイター用も設定あり

そして、こう続けた。

「よそと違うことをやっているから、残っていられるんです」

近藤さんは、こうした積み重ねがブランドを作るとも話す。

「ホームランはありません。お客様のクチコミや、雑誌などメディアに助けられながら、少しずつ実績を積み重ねていくしかない。そして、それは手を抜いた瞬間に崩れてしまいます」

さらに近藤さんは、“いいものが欲しい”という感覚そのものが、バイク乗りの文化だとも語る。

「もともとバイクは文化度の高い趣味だったと思うんです。“所有する”だけでも趣味の極みですよね。日本は輸入車も比較的手に入れやすいですし、ハイエンドな車両やパーツは、これからも必要とされていくと思います」

その感覚は、高級腕時計の世界とも似ている。

単なる機能ではなく、所有する喜びや価値観が含まれているからだ。

「自分も他人も楽しめる趣味には価値があります。“バイクって格好良い”と、乗らない人にも思ってもらうこと。それが文化レベルを高めていくと思うんです」

そして近藤さんは、ショップとしての役割についても語った。

「お客様により深く興味を持っていただく接客や、高品質なサービス、遊びの提案も重要だと思っています。ありがたいことに、私たちは本当にお客様に恵まれてきました」

「これからは、ご家族連れでも楽しんでいただけるような環境作りも必要だと思っています」

モトコルセのモノ作りは、単なるパーツ開発ではない。

その根底には、日本のバイク文化を、より深く、より豊かなものにしていこうという思想があるのだ。

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【モトコルセ 近藤 伸 会長】カスタムパーツ製造のモトコルセのほか、ドゥカティライフスタイル東京、ドゥカティ埼玉、ビモータ、Vyrus、ブラフシューペリアも手がける。業界きってのエンスージアストでもある
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【青山輪工社 青山 宏 社長】青山輪工社の代表として、モトコルセ製品だけでなく自動車、航空機、ロケットや人工衛星のワンオフパーツ製造を担う。かつてはBMW R1100Sを所有していたバイク乗りでもある
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