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書院造と数寄屋造の違いとは?和室のしつらえを徹底解説|和室のマナー

  • 2026.6.1
撮影=傍島利浩

日本人の暮らしに欠かせない存在として受け継がれてきた和室。現代的なライフスタイルのなかで和室で過ごす機会は少なくなりつつありますが、和室で行われる作法には、相手を尊び、場に心地よい調和を生むための先人の知恵が息づいています。今回、茶道や礼法の専門家の監修のもと、嗜みとして知っておきたい基本のマナーを具体的にご紹介します。

ここではまず、日本の美しい所作を創り出してきた、和室のしつらえを学びます。空間の理(ことわり)を知ることは、振る舞いの本質に触れること。東京・千駄木にある近代和風住宅「旧安田楠雄邸」を例に、和室の型とマナーの背景にある美意識を繙(ひもと)きます。

旧安田楠雄邸庭園に見る、書院造と数寄屋造

「序列」と「格式」を重視した空間

書院造(しょいんづくり)

2階にある「客間」は、安田邸で最も格式高い座敷。襖を開放すると大広間となる二間続き。書院造の様式に則り、違い棚や付書院、長押などを備えている。向かって右に畳廊下、左に畳縁がある。 撮影=傍島利浩
茶室の美意識を取り入れた空間

数寄屋造(すきやづくり)

家族が日常を過ごした1階の「茶の間」には、格式張らない数寄屋の意匠が息づく。家族がお茶を楽しむための水屋も設けられており、実用と美が調和した、現代にも通じる合理的かつ私的な空間。 撮影=傍島利浩
旧安田楠雄邸庭園

東京・千駄木に残る1919(大正8)年築の近代和風建築。「豊島園」創設者の藤田好三郎が造営し、関東大震災後に旧安田財閥の安田家が継承した。雁行形(がんこうがた)に配された建物は創建時の姿をほぼ完全に留める。大正・昭和期の山の手住宅の典型例であり、東京都指定名勝になっている。

開館時間/水・土曜10時30分〜16時(入館は〜15時)
料金/一般500円
tel.03-3822-2699(公開日のみ)
Google mapで確認
東京都文京区千駄木5-20-18

※日本ナショナルトラストによる解説はこちら

空間の「型」を読み解き、敬意を所作に託す

お話を伺ったのは……小沢朝江さん [東海大学教授]

茶室や料亭、寺院の空間に足を踏み入れるとき、私たちは背筋が伸びるような心地よい緊張感を覚えます。それは和室が単なる“古い部屋”ではなく、古より連綿と受け継がれてきた住まいの「型」を継承し、精神を宿す場だからでしょう。

日本の住宅史を研究する東海大学教授の小沢朝江さんは、「私たちが今日使う『和室』という言葉は、明治期以降、西洋の建築文化が流入したことで生まれたもの。日本に元来あった住まいの在り方を、『洋室』と区別して呼び変えた背景には、自国の伝統を再定義しようとした当時の人々の美意識が息づいています」と話します。さらに、和室の空間構成を衣服になぞらえ、「和室はスーツのようなもので、型がはっきりしています。大別するとふたつあり、武家を発祥とする『書院造』を基本の正装とすると、ネクタイを外し、あるいはTシャツに着替えるように遊びやゆとりを加えてアレンジしたのが、茶室由来の『数寄屋造』です」。書院造の象徴ともいえる意匠が、柱をつなぐ装飾的な横木「長押(なげし)」。「長押が回っている部屋は格式が高く、逆にそれを外せばやわらかな雰囲気に変わります」と小沢さん。長押の有無や床柱での止め方を確認し、部屋の格を読み解く。空間との対話が、場に臨む心持ちや振る舞いを決める指針となるのです。

和室におけるマナーの根幹は「座す」ことに集約されます。「和室では、窓の高さも庭の眺めも、すべて座ったときの視線に合わせて設計されています。天井の意匠が印象的なのも、床に座るからこそ全体に視線が届くため。立っている状態は空間において、いわば“見切れて”いるようなものなのです」。襖(ふすま)を開閉する際に座って引き手に手を掛けるのも、その位置が座った際の動作に最適化されているという物理的な必然性があります。

床の間を中心として決まる上座や下座など、序列を重んじる和室ですが、そこにはもうひとつの顔があると小沢さんは付け加えます。 「和室には、誰もが同じ視線でひと間に集う『貴賎同座(きせんどうざ)』の精神が通底しており、床に直接座り、時には寝転がってくつろげるという心身に優しい空間でもあります。また、襖ひとつで空間を広げ、障子を開ければ外とつながる豊かな可変性も和室ならではでしょう」

書院造が生まれた鎌倉・室町期から、江戸時代へと移ろうなかで、和室は武家社会の秩序を映す「序列の場」としての機能を強めましたが、その一方で茶の湯が育んだ「平等」や「くつろぎ」の精神も共存し続けました。場に秩序を与えつつ、同じ視線で座ることで分け隔てを取り払う──このふたつの側面を知ることこそが、和室での振る舞いのヒントといえるでしょう。

おざわあさえ◯東海大学建築都市学部建築学科教授。専門は日本建築史・住宅史。博士(工学)。中近世から近代の住宅建築や住居文化を研究し、歴史的建造物の保存・活用にも取り組む。著書に『大地と生きる住まい』(創元社)、『日本住居史』(吉川弘文館)などがある。

細部と意味を知れば振る舞いも変わる

和室を構成する多彩な要素

書院造の構成要素

平安時代の寝殿造(しんでんづくり・天皇や貴族の住宅)を徐々に改変し、室町から江戸時代にかけて武家社会で完成した建築様式。寝殿造とは異なり、畳を床材として全面に敷き詰めた座敷が特徴。床の間や違い棚、付書院(つけしょいん)といった象徴的な装置を備え、格調高い長押が空間に威厳を添えます。対面の場を司る秩序ある佇まいは、現在の和室の原型ともいえるもの。

撮影=傍島利浩

❶長押

撮影=傍島利浩

柱を水平につなぐ装飾材。本来の構造的な役割を超え、空間を視覚的に引き締める役割を担う。その有無や床柱での止め方によって、部屋の格や格式が示される。

❷違い棚

撮影=傍島利浩

床の間に隣接する段違いの棚。もとは茶道具や書物を置く実用的な場だったが、次第に実用よりも格調を示す装置に。非対称の美しさが空間にリズムをもたらす。

❸床の間

撮影=傍島利浩

掛け軸や花を飾って客人を迎える聖域であり、和室の序列を司る起点となる要素。ここを背にする場所が最上位の席となり、空間制御の重要な役割を担う。

❹天井

撮影=傍島利浩

鎌倉時代から一般化した天井。格子状の「格天井(ごうてんじょう)」など意匠の複雑さが部屋の格式を表す。こちらは床の間と平行に縁が走る「竿縁(さおぶち)天井」。

❺襖

撮影=傍島利浩

和室の「可変性」を担う鍵となる、空間を仕切ったりつないだりするための引き戸。美しい絵が描かれることも多く、機能と芸術が一体となった日本独自の建具。

❻畳と縁(へり)

撮影=傍島利浩

武家にとって切腹や刃物を連想させる「床刺し」(縁が床の間と垂直になること)を避け、平行に長畳を配する。四隅が十文字に重ならないよう、合わせ目がT字になるように組む「祝儀敷き」には、平穏への願いが込められている。また、格式高い紋縁(もんべり)は床の間が最上位の場であることの証し。場の秩序への敬意として、境界である縁は踏まないのが礼儀。

❼付書院(つけしょいん)

撮影=傍島利浩

床の間に並び、外側に面して設けられた机状の出窓。書院造の名の由来でもある。かつては書物や文房具を置く勉学の場であり、出文机(いだしふづくえ)と呼ばれた。

欄間(らんま)

撮影=傍島利浩

鴨居と天井の間に設けられた採光と通風のための開口部。隣室との連続性を表現し、繊細な透かし彫りなどで空間に華やぎを添える。写真は織機の糸を通す筬(おさ)を模した「筬欄間」。

障子

撮影=傍島利浩

和紙を通したやわらかな光を室内に導く建具。外と内を緩やかにつなぐ境界であり、時間の移ろいを影の濃淡で伝える。光の陰影による情緒を創出する重要な部位。

数寄屋造の構成要素

書院造の規範を保ちつつ、茶室(数寄屋)がもつ自由な美意識と自然志向を反映させた建築様式。格式を示す長押を排し、自然な丸太や面皮柱を用いるなど、素材の風合いを生かした意匠を尊びます。序列よりも主客が心を通わせる情緒的な空間を追求しており、簡素でありながら洗練された“数寄”の心が、くつろぎと安らぎをもたらします。

撮影=傍島利浩

❶長押の省略

撮影=傍島利浩

書院造で格式を示した長押を排し、細い鴨居のみにすることで簡素な印象になり、柱が際立つ。意図的な抜け感で空間をすっきりと見せ、座する人の心を解きほぐす。

❷床柱(とこばしら)

撮影=傍島利浩

床の間の脇に立つ、和室の象徴的な柱。書院造では整った角柱が用いられるが、数寄屋造では、丸太や面皮柱など、自然な木の質感を生かしたものが好まれる。

❸庇(ひさし)

撮影=傍島利浩

屋根から張り出し、陽光を遮る部位。数寄屋では特に庇を低く抑えることで、座した視線からの庭の景色を額縁のように美しく切り取り、豊かな陰影の美を創出する。

❹平書院(ひらしょいん)

撮影=傍島利浩

付書院を簡略化し、壁面に平らに設けられた明かり窓。机の機能を削ぎ落とし、採光や景色を愛でるための装飾窓へと進化。数寄屋らしい軽やかさが際立つ。

❺踏み込み床

撮影=傍島利浩

床の間の段差と化粧横木「床框(とこがまち)」を省略し、畳と高さを揃えた形式。格式を排した軽やかな意匠で、「敷込床(しきこみどこ)」ともいう。

❻縁側

撮影=傍島利浩

室内と庭の境界に設けられた、和室特有の中間領域。障子を開ければ庭と一体化した空間に、閉じれば静かな隠れ家となる可変性が魅力。自然を身近に感じながらくつろぐための装置。

撮影=傍島利浩 撮影協力=公益財団法人日本ナショナルトラスト 京表具白雲洞 編集・文=柏木敦子(婦人画報編集部)

『婦人画報』2026年7月号より

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■特集「和室」のマナー大全

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