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“夜、美術館”が、今ちょうどいい。話題の「ロン・ミュエク」展へ

  • 2026.5.29

六本木ヒルズにある森美術館は、夜遅くまで開館している数少ない美術館のひとつ。待ち合わせまで少し時間がある日や、仕事終わりにも立ち寄りやすい。現在開催されている「ロン・ミュエク」展は、まさにそんな時にうってつけ。これから日中は出歩くのも億劫な季節がやってくるが、日が沈んでからのお出かけは東京の定番になっていくだろう。

ロン・ミュエク《イン・ベッド》2005年所蔵:カルティエ現代美術財団展示風景:「ロン・ミュエク」森美術館(東京)2026年撮影:吉村昌也画像提供:カルティエ現代美術財団Harumari Inc.

ロン・ミュエクは、人間の肉体や感情を極限までリアルに再現する、イギリスを拠点に活躍するオーストラリア出身の現代彫刻家。シリコンやファイバーグラスなどの素材を駆使し、本物と見紛うほどの質感でありながら、実際のサイズとはかけ離れた「巨大」または「極小」のスケールで作られる異色の彫刻作品で世界的に知られている。

ゴーティエ・ドゥブロンド《チキン/マン》2019-2025年 ハイビジョン・ビデオHarumari Inc.

本展示は、カルティエ現代美術財団と森美術館の共催。パリ、ミラノ、ソウルに続く世界巡回展だ。特にソウルでの開催時にはSNSでも大きな話題になったことから、展示風景を見かけて気になっていた人も多いはず。また、青森を旅したことのある人は十和田美術館の「大きなレディ像」のビジュアルを見かけたことがある人も多いだろう。

あまり現代アートに詳しくない人にでも一度見たら忘れられないインパクトを残す本展示。実際、東京展の会場にも、アート好きだけでなく、ファッション感度の高そうな来場者の姿が目立っている。韓国系のアパレルショップやギャラリーなどの空間演出が好きな人なら、この展示の空気にもきっと惹かれるはずだ。少し非現実的で、無機質なのに妙に人間っぽい。そのバランス感覚がどこか近い。

そしてこの展示には、いわゆる“美術館っぽさ”とは少し違う空気がある。

作品自体は静かなのに、どこか緊張感がある。それなのに、誰かと感想を都度言い合いたくなるカジュアルな雰囲気が共存しているのだ。

ロン・ミュエク《イン・ベッド》2005年所蔵:カルティエ現代美術財団 展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、2025年撮影:ナム・キヨン画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館Harumari Inc.

《イン・ベッド》《枝を持つ女》など、じっくりと作品を眺め、その精巧さに感嘆するゾーン。どんな風に制作しているんだろう? とその制作手法に思いを馳せるゾーン。映像で理解を深めるゾーン。そして、最後には、巨大なスカルの彫刻が会場一杯に山積みになっている《マス》のゾーンで作品の中に埋もれて楽しむ。

楽しみ方もわかりやすく構成されており、どんな人でも(どんな回り方でも)楽しめるのもいい。

ロン・ミュエク《マスクⅡ》2002年 個人蔵展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、2025年撮影:ナム・キヨン画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館Harumari Inc.

肌のたるみ、爪の色、髪の生え方まで妙に生々しく、最初は「すごい技術だな」と見ていたはずなのに、だんだん“この人は何を考えているんだろう”という気持ちになってくる。

会場でも、じっと作品を見たり、友人と「ここ凄くない?」などと語り合ったりしている人が多いのが印象的だった。友人と一緒に美術館に行っても、鑑賞しながらつい無言になって、感想は美術館を出たあと、となりがち。しかし(周りの鑑賞者の邪魔にならない配慮は必要だが)作品一つひとつを本当の意味で「友人と一緒に鑑賞する」というのはやはり楽しい。

しかも森美術館は、わりと夜遅くまでやっているのが特徴で、夜行くとさらに雰囲気がいい。(と個人的には思っている)

展示を見終わってエレベーターを降りれば、そのまま六本木で食事にも行ける。実際、「軽く見てから飲みに行こう」くらいの気持ちだったのに、気づけばかなり長居してしまったなぁ、ということが何度もある。

ロン・ミュエク《マス》 2016-2017年所蔵:ビクトリア国立美術館(メルボルン)、2018年フェルトン遺贈展示風景:「ロン・ミュエク」韓国国立現代美術館ソウル館、2025年撮影:ナム・キヨン画像提供:カルティエ現代美術財団、韓国国立現代美術館Harumari Inc.

もちろん誰かと予定を合わせなくても、仕事帰りに一人で寄ってもいい。休日に予定を詰め込んで行くというより、「今日は少し寄り道して帰ろうかな」くらいでちょうどいいのだ。美術館へ行くハードルが高く感じる人にこそ、夜の「ロン・ミュエク」展はおすすめしたい。

夜ごはんの前に美術館。そのくらいの距離感が、東京には案外しっくりくる。

「ロン・ミュエク」展
https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/ronmueck/Harumari Inc.
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