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「ちゃんと食べてます」と微笑む30代女性患者。体重も変わらないのに、看護師が待合室の“仕草”で察知した言葉にできないSOS

  • 2026.6.24
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科で働いていると、「患者さんの話をよく聞くことが大切」と言われます。

もちろんその通りです。

けれど実際の現場では、言葉以上に多くの情報を教えてくれるものがあります。それは、その人の動きや表情、身だしなみ、何気ない仕草です。

今回は、「ちゃんと食べています」と話していた患者さんとの関わりを通して、精神科看護で感じたことを紹介したいと思います。

「ちゃんと食べてます」なんとなく感じた違和感

Aさんは30代の女性でした。摂食障害で精神科外来へ通院していました。初めて会った頃はかなり痩せていましたが、治療を続ける中で少しずつ状態は安定してきていました。

診察前に話を聞くと、Aさんはいつも落ち着いた様子で答えます。

「食事どうですか?」

私が聞くと、

「食べてます」と返ってきます。

「3食ですか?」

「はい」

「吐いたりは?」

「大丈夫です」

受け答えは自然でした。体重も大きく減ってはいません。

そのため診察室の中だけを見ると、大きな問題はないようにも見えました。ただ、私は少し気になることがありました。

それは診察前の待合室での様子です。Aさんは椅子に浅く腰掛けることが増えていました。以前より姿勢が不安定に見えます。立ち上がる時も少しふらつくことがありました。

ほんの一瞬のことです。見逃してしまう程度の変化かもしれません。

でも、何度か見ているうちに違和感が積み重なっていきました。

「なんだろう…」

うまく言葉にはできません。ただ以前のAさんとは少し違うように感じたのです。

「服は変わってないのに」待合室で見えていたこと

ある日、待合室でAさんを見た時に気づいたことがありました。

服装はこれまでと似たようなものでした。ゆったりしたパーカー。ロングスカート。

本人の好みもあるため特別なことではありません。

しかし以前より服に余裕があるように見えたのです。

サイズが変わったのか。痩せたのか。断定できるほどではありません。それでも、「少し身体のラインが変わったかもしれない」そう感じました。

もちろん体重計の数字だけでは分からない変化もあります。筋肉量や水分量によって見た目は変わるからです。けれど違和感は消えませんでした。

さらに気になったのが、水分の摂り方でした。

Aさんは待ち時間中にペットボトルの水をよく飲んでいました。それ自体は珍しいことではありません。

ですが飲む量が多いのです。短時間で何度も口にします。そしてトイレへ向かいます。戻ってきてまた飲む。しばらくすると再びトイレへ。

その様子を見ながら、「何かあるのかな」と思うようになりました。

もちろん、それだけで過食嘔吐を疑うわけではありません。

ただ、摂食障害の患者さんを見ていると、言葉にならないサインが生活動作に出ることがあります。

だからこそ気になったのです。

診察では変わらない返答

診察前の問診でもAさんの答えは変わりませんでした。

「食事どうですか?」

「食べてます」

「体調は?」

「大丈夫です」

「困ってることはありますか?」

「特にないです」

話し方も落ち着いています。表情も穏やかです。一見すると問題は見当たりません。

でも私は迷いながらも主治医へ伝えました。

「体重は大きく変わっていませんが、待合室での様子が少し気になります」

「水分摂取が増えていて、ふらつきも見られます」

主治医はうなずきながら診察を続けました。

少しずつ出てきた本音「普通にしてたら分からないと思ってた」

それからしばらくして、Aさんの口から本音が出始めました。きっかけは診察中の何気ないやり取りでした。

主治医が聞きます。

「本当に食事は大丈夫?」

するとAさんは少し黙りました。そして小さな声で言ったのです。

「…最近ちょっとしんどくて」

そこから少しずつ話が出てきました。食べる量が増えていたこと。食べたあとに強い罪悪感があること。そして吐く回数も増えていたこと。

実際には過食嘔吐が悪化していたのでした。

後日、Aさんと話した時のことです。私は聞いてみました。

「話してくれてありがとうございました」

するとAさんは少し苦笑いしながら言いました。

「普通にしてたら分からないと思ってました」

私はその言葉が印象に残っています。Aさんは、決して嘘をついて隠したかったわけではないのかもしれません。

知られたくない、心配させたくない、怒られたくない……そんないろいろな感情が入り混じっていたのではないかと、私は想像しています。

だからこそ『大丈夫です』と答えるしかなかったのでしょう。

看護師が見ているのは言葉だけじゃない。見抜くことが目的ではない

時々、「看護師さんってなんで分かるんですか?」と聞かれることがあります。

特別な能力があるわけではありません。ただ、患者さんの話だけでなく、その人全体を見ようとしているのです。

歩き方、座り方、服装、表情、声の大きさ、待合室での過ごし方。そうした小さな変化が積み重なると、「何かいつもと違う」という感覚につながります。

特に精神科では、その人の苦しさが生活動作に現れることが少なくありません。

ただ、一つだけ誤解してほしくないことがあります。それは「見抜くこと」が目的ではないということです。患者さんの嘘を暴きたいわけではありません。隠していることを責めたいわけでもありません。

本当に大切なのは、その奥にある苦しさです。Aさんも過食嘔吐を続けたくて続けていたわけではありません。

やめたいと思いながらやめられない。苦しいけれど誰にも言えない。そんな状態だったのです。

だから必要なのは追及ではなく支援です。

どうすれば話しやすくなるか。どうすれば一人で抱え込まずに済むか。私たちはそこを考え続けなければなりません。

最初に見ているのは、その人の生活

Aさんは後に少しずつ本音を話してくれるようになりました。

すぐに良くなったわけではありません。

しかし「大丈夫です」としか言えなかった頃に比べると、苦しさを共有できるようになったのです。

精神科で働いていると、言葉と現実が一致しない場面に出会うことがあります。けれど、その時に大切なのは「嘘をついている」と考えることではありません。

言葉にできない理由があるのかもしれない。まだ話せない苦しさがあるのかもしれない。そう考えることです。

看護師が最初に見ているのは、実は患者さんの言葉ではありません。

その人がどんなふうに座り、歩き、生活しているのか。そこに現れる小さな変化です。

そして、その変化の先にある苦しさに気づけるかどうか。それが精神科看護の大切な役割なのだと、Aさんとの関わりを通して改めて感じたのでした。



ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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