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「誰か部屋にいた気がする」雨の日だけ“ナースコール”が増える入院患者…看護師が娘に聞いて“発覚した理由”とは…?

  • 2026.6.27
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。現役看護師ライターのこてゆきです。

精神科病棟で働いていると、「なぜか今日は落ち着かない」「理由は分からないけれど不穏になっている」という場面に出会うことがあります。

認知症のある患者さんの場合、その理由を本人がうまく説明できないことも少なくありません。

今回は、雨の日になると決まってナースコールが増える患者さんとの関わりを通して、「問題行動」の奥にある感情や記憶について考えさせられた出来事を紹介したいと思います。

雨の日だけ落ち着かなくなるAさん

Aさんは認知症がある高齢の女性でした。

精神科病棟に入院しており、普段は比較的穏やかに過ごされていました。

会話もでき、スタッフと笑顔で話すこともあります。ただ、一つ気になることがありました。

それは雨の日です。朝から雨が降っている日は、決まってナースコールが増えるのです。

「すみません」「ちょっと来てください」

最初はよくある呼び出しでした。ところが夕方が近づくにつれ頻度が増えていきます。

訪室するとAさんは不安そうな顔で言います。

「誰か部屋にいた気がするの」

別の日には、

「帰らないといけないんです」

と落ち着かない様子で荷物をまとめ始めることもありました。

私たちは当初、「雨で気圧も下がっているし、認知症の症状が出やすいのかな」と、その程度に考えていました。実際、天候の変化で不調を訴える患者さんは少なくありません。そのため特別なことではないと思っていたのです。

「また呼ばれた」が続く日々

ある雨の日の夕方。ナースコールが鳴りました。訪室するとAさんは窓の方を見つめています。

「どうされました?」

そう声をかけると、

「今、誰か外に立ってた気がして」

と不安そうに言いました。窓の外には誰もいません。

私は説明しました。

「大丈夫ですよ。誰もいませんでしたよ」

Aさんはうなずきます。しかし10分後、再びナースコール。

「帰らないといけないんです。主人が待ってるから」

Aさんのご主人はすでに亡くなっていることを私たちは知っていました。

「今日は病院でゆっくりしましょうね」

そう声をかけると一度は落ち着きます。けれど、その日は何度も同じことが繰り返されました。

スタッフの間でも、

「今日はずっと不安定だね」「雨の日って毎回こんな感じだよね」

という話が出るようになりました。

気になったのは窓の外だった

そんなある日、私はAさんの様子を少し長めに観察していました。

すると気づいたことがありました。Aさんはナースコールを押す前、必ず窓の方を見ているのです。

しかも外を見るというより、耳を澄ませているような様子でした。

その日も窓際に立ちながら、

「嫌だなぁ…」

と小さくつぶやいていました。

私は隣に立ってみました。すると病室には雨音が響いていました。

窓を打つ雨の音。屋根に当たる雨の音。病棟では当たり前に聞こえる音です。

その時ふと思いました。もしかしてAさんは、雨そのものではなく、この音に反応しているのではないか。

少しずつ見えてきた過去

後日、病棟に面会に来られた娘さんと話す機会がありました。私は何気なく聞いてみました。

「Aさん、昔から雨の日が苦手だったりしましたか?」

すると娘さんが少し驚いた顔をしました。

「どうして分かったんですか?」

私は病棟での様子を説明しました。すると娘さんは少し考えたあと、静かに話し始めました。

「父が亡くなった日が、大雨だったんです」

私は思わず聞き返しました。

「そうだったんですね」

娘さんはうなずきました。

「父は仕事中の事故だったんですけど、その日すごい雨で…」
「母はずっと雨の音を聞きながら連絡を待っていたって聞いています」
「昔は雨が降ると、その話をすることもありました」

私はその話を聞いて、病棟でのAさんの様子が頭の中でつながった気がしました。

理由は分からない。でも不安だけが残る

その後の訪室時。私はAさんに聞いてみました。

「雨の日って、なんだか落ち着かないですか?」

Aさんは少し考えて言いました。

「分からないの…でも、なんだか怖いの」

そして窓の外を見ながら続けました。

「何か嫌なことがあった気がするんだけど、思い出せないの」

認知症が進行すると、出来事そのものは忘れていても、その時の感情だけが残ることがあります。

Aさんも同じだったのかもしれません。事故のことは思い出せない。けれど雨音を聞くと、不安や恐怖だけがよみがえって落ち着かなくなる。

だから誰かに来てほしくてナースコールを押していた。そんなふうに思えました。

問題行動ではなく、不安のサインだった

それ以降、雨の日のAさんへの関わり方を少し変えました。

ナースコールが鳴った時も、

「また呼ばれた」

ではなく、

「今は不安が強くなっている時間なんだな」

と考えるようになりました。訪室回数を少し増やしたり、雑談をしたり、窓際から離れて一緒にお茶を飲んだり。

するとAさんの表情が少し和らぐことがありました。

もちろん認知症の症状が完全になくなるわけではありません。

それでも、不安の理由が分からないまま対応するのと、背景を知った上で対応するのとでは大きな違いがありました。

雨音が呼び起こしていたもの

医療現場では、「ナースコールが多い」「落ち着きがない」「何度も同じことを言う」そんな行動に目が向きがちです。

けれど、その背景には本人も説明できない感情や記憶が隠れていることがあります。Aさんにとって雨音は、単なる天気の変化ではありませんでした。

遠い昔の不安や悲しさを呼び起こすきっかけだったのです。

あの日以来、私は患者さんの行動を見る時、「なぜこんなことをするのだろう」ではなく、「何がこの人を不安にさせているのだろう」と考えるようになりました。

雨の日になると増えるナースコール。その理由は予想していたものとは違いました。

そして私は、問題行動の奥にあるその人だけの物語を知ろうとすることの大切さを改めて感じたのでした。



ライター:こてゆき

精神科病院で6年勤務。現在は訪問看護師として高齢の方から小児の医療に従事。精神科で身につけたコミュニケーション力で、患者さんとその家族への説明や指導が得意。看護師としてのモットーは「その人に寄り添ったケアを」。


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