1. トップ
  2. ビジネス・マネー
  3. 「年金が42%増える」受給を“65歳→70歳”に繰下げることに…5年後、60代男性を直撃した“想定外の事実”【お金のプロは見た】

「年金が42%増える」受給を“65歳→70歳”に繰下げることに…5年後、60代男性を直撃した“想定外の事実”【お金のプロは見た】

  • 2026.6.19
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

こんにちは。ファイナンシャルプランナーの柴田です。

「年金は待てば待つほど増える」。最近そんな話をSNSやニュースでよく見かけます。でも実は、その「待つ」という選択が、別の年金を丸ごと取り逃す原因になることがあるのです。

今回は、繰下げで得をしたつもりが、合計200万円以上を取りこぼしていたAさん(71歳・男性)のお話です。

「70歳まで待てば42%増」に飛びついた

65歳で定年を迎えたAさん。あるときニュースで「70歳まで繰下げれば年金が42%増える」という話を知ります。

実際、繰下げ受給は1か月遅らせるごとに0.7%ずつ増額され、70歳まで5年待てば42%(5年×12か月×0.7%)もの増額になります。「月18万円が月25万円ほどに増える!」という魅力にAさんは迷わず飛びつき、老齢厚生年金も老齢基礎年金も、両方とも70歳まで繰下げることを決めました。

退職金とiDeCoの一時金で、5年間の生活費は確保済み。「これで安心して老後生活を送れる」と思っていたのです。

FPのひと言で青ざめた

筆者自身、年金の繰下げ受給は長生きリスクに備えるうえで効果的な手段だと考えています。自分も「できるだけ長く働いて収入を得つつ、繰下げ受給を選択しよう」というライフプランを考えています。

さて、Aさんが70歳になり年金請求の手続きのついでに、筆者へ相談してくれました。Aさんの奥様の年齢や厚生年金の加入記録を確認したところ、「繰下げなければ、奥様が65歳になるまでの間、加給年金を受け取れたはず」という結論をお伝えすることになってしまいました。

加給年金とは、いわば「年金版の家族手当」です。厚生年金に20年以上加入した人が65歳になった時点で、65歳未満の配偶者などを扶養していると、本人の老齢厚生年金に上乗せして支給されます。

金額も決して小さくありません。2026年度(令和8年度)は、配偶者分が年24万3,800円に特別加算17万9,900円が上乗せされ、合計で年42万3,700円ほど。これが、配偶者が65歳になるまで毎年続きます。

Aさんの妻は7歳年下。本来なら、Aさんが65歳になってから妻が65歳になるまでの7年間、毎年約42.4万円、総額で約297万円もの加給年金を受け取れたはずでした。

ところがAさんが受給を始めたのは70歳。妻はすでに63歳で、加給年金が出るのは妻が65歳になるまでのあと2年分、約85万円だけ。65歳から70歳までの5年分、約212万円は完全に消えてしまったのです。

なぜ「繰下げ」で加給年金が消えたのか

加給年金は老齢厚生年金に上乗せして支払われるため、その老齢厚生年金を繰下げて受け取らずにいる間は、加給年金も一緒に支給停止になります。「増やすために待っている」つもりが、家族手当をもらい損ねていた、というわけです。

繰下げで増額される対象は、老齢厚生年金の本体部分だけ。加給年金は増額の対象に含まれません。つまり待っても加給年金は1円も増えず、もらえなかった期間がそのまま消えるだけで、取り戻す方法がないのです。「繰下げれば全部増える」という思い込みが、ここで裏目に出ました。

正解は「片方だけ繰下げ」だった

では、どうすればよかったのでしょうか。答えは「老齢基礎年金だけを繰下げ、老齢厚生年金は65歳から受け取る」という方法です。

老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げできます。厚生年金を65歳から受け取れば加給年金もきちんと支給され、その一方で基礎年金は繰下げて増額メリットを確保できる。両取りができたわけです。

手続きも難しくありません。65歳のときに届く年金請求書で、「老齢厚生年金だけ受け取る(基礎年金は繰下げ希望)」という選択ができます。Aさんはこの選択肢を知らずに「両方繰下げ」を選んでしまったために、加給年金を丸ごと取りこぼしてしまったのです。

妻の働き方や受給開始でも変わる

加給年金は、妻側の状況とも連動します。注意したいのは次のようなケースです。

妻自身が厚生年金に20年以上加入していて、その老齢厚生年金の受給権を取得した時点で、夫の加給年金は停止されます。妻が長く正社員で働いてきた場合などは、ここに引っかかる可能性があります。

また、妻の年収が850万円(所得655.5万円)以上ある場合も、そもそも対象になりません。妻がパートで働いている程度なら通常は問題ありませんが、共働きで妻にしっかりした厚生年金がある家庭ほど、加給年金の前提条件を一度確認しておくべきです。

まとめ

「繰下げ=常にお得」とは限りません。とくに年下の配偶者がいて加給年金の対象になる人は、漫然と全部を繰下げると、家族手当に当たる加給年金を数百万円単位で取り逃すおそれがあります。

ポイントは、老齢厚生年金は65歳から受け取って加給年金を確保しつつ、老齢基礎年金だけを繰下げて増やすという「片方繰下げ」。これを知っているかどうかで、生涯の受取総額が大きく変わるかもしれません。65歳を迎える前に、年金事務所やFPに一度シミュレーションしてもらうことが、いちばん確実な「損しない準備」です。


出典:日本年金機構「加給年金額と振替加算」

出典:日本年金機構「年金の繰下げ受給」

執筆・監修:柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,200記事以上の執筆実績あり。

の記事をもっとみる